親たちの佳境

もう少しだわ。


┈+

 セグロジャッカルのフレンズだよ。どしゃ降りの中、ロッジに着いて久しぶりにオオカミと逢えたんだ。

 話の流れで、ボクの過去をまた少しお話することになった。生まれた時から嫌われていたからあまりいいお話じゃないけども。



 暗闇から光がぼやけて見え、反射交じりに初めて目を開け覚ます。

フレンズとして最初に見えたのは、薄い茶色がかった動物の毛皮。いや、どうやら小鹿のようだ。


ボクは倒れたそれに膝を折って跨っており、今まさに喉元に口を開けて近づけようとしている格好だった。


 生まれたてで訳が分からず、まず顔を放し周囲を観察してみる。上から照り付けるは眩しい光。でもそれを気にするより最初、目に入った存在。

周りには3匹、ボクと似たような背中が黒い犬みたいな動物。こちらを見つつ、だけど驚いて硬直しているような格好だった。


フレンズとして意識はっきりしたその瞬間に頭の中をフル回転させて考えたんだけど、どうやら下に居る子とじゃれていた・・・



わけじゃなく、股下にいる動物の命を今おびやかそうとしていたのだろう。

 その最中にフレンズ化したんだと思った。


「・・・動物ってのはね、生まれ以て生きるためにそうせざるを得ない役割って言うのがあるんだ。

ただ脅かそうとしていたわけではない、いただこうとしていたんだよ。


 でもキミはフレンズ化してそうする必要はなくなった。私はそれをなるべくしてなったと思うが」


 それで済むならとても幸せなことだよね・・・でも問題はその後。

その時から考えてた、果たして次はどうすれば正しいのかって。


 この小鹿は周りにいる動物に・・・もういいや、ボクと元仲間に追い込まれたんだ。

 だいぶ傷つけられて弱っていたから。

フレンズ化したボクがとどめを刺すのもいいだろう。


 けど、何でだろう。

どうしてもそうしたくなかった。出来なかったんだ。


元仲間たちを威嚇してけん制し、小鹿に跨ったまま出した答えはこう。


 ボクが守り抜いて元気になるまで面倒を見る。それで安全な場所に返してあげるべきなんじゃないかって。


そう思い、下の子を逃がそうと抱えた瞬間周りの元仲間たちは狂ったようにボクごと襲いかかってきた。


襲われた時に気が動転して、自分の考えを最優先にすべきと身体が動いていたんだった、確かね。


 抱えつつ近くの崖、橋があったからそれを渡りつつもう追いかけてこられないようにした。橋を落としたんじゃないよ。




  ボク自身が蹴落とした。元仲間3匹。


 橋だから狭い幅だし、腕と脚まで使えるようになったこの身体は3匹相手でも十分通用しちゃったんだ。


 それでね、近くに洞窟を見つけ助けた小鹿の面倒を見た。立てなくなってたらしく、もう逃げようともしなかった。


一生懸命お乳の代わりになるものも貰ってきて不慣れだけど看病して。

 だけども、まだ誰にも会ってないのにこの時からボクは周りのフレンズに嫌がられていた。そんな中一生懸命譲ってもらって持ってきた・・・!


 けどその子も結局衰弱していって。立つどころか3日くらいしたら動かなくなってた。変な虫も湧くから、ほろってまた動けるように思って。

 ずっとずっと・・・・・・


 んで考えてしまった。あはは・・・ボクってさ。ねぇボクってどうすれば正しかったんだろうって。


『もういいや・・・一人に、一人にさせてよぉ...』



フレンズ化したことで4匹あやめちゃったよ少なくとも。下手したらボクってセルリアンよりも・・・

はは・・・。


 ・・・

 ─


 結論から言って、彼女のフレンズ化するタイミングが何もかも本当に悪かったんだと思う。多分周りにいた元種のセグロジャッカル、仲間というよりももう─



  親兄弟だった可能性が高い。


 元々セグロジャッカルと言うのは、親子や兄弟のグループで狩りを行う動物なのだそう。


今目の前にいるセグロが決め手である一撃を獲物に打ち込み、とどめを刺そうとしているところで砂星が当たりフレンズ化・・・。


 何と間が悪い。多分元種のセグロジャッカルが狂ったように襲ってきたのも、血の繋がった家族が突如消えたことで混乱していたからか。


 せめてからフレンズ化していれば、ここまで正誤に拘るようにはならなかったはずなのに・・・。

 元動物の私が言うのもアレだけど、本当に生き物は不平等だ。


 ただ、これだけは言える。

セグロに血縁のことは教えない。彼女がコワれる。


 ─


「ねぇオオカミ、ボク生まれた時からこんなだったからさ・・・。どうすれば一番正解な状況になっていたか考えてよ?」


 訴えるようにセグロは言う。


「・・・私がその立場であったとしても目の前にいる傷だらけの動物にトドメを刺そうとは思えないね。


フレンズって結局は目の前の存在を不幸にしないように動いちゃうんだから、セグロのそれも成るべくしてなってしまったことなんだよ」


 言ってしまうと、一番犠牲が少ないのは小鹿を差し出すことだ。

 けど、それはフレンズとして果たして正しいのかどうか。ましてや生まれたばかりでそこまで考えられるだろうか、少なくとも私には無理だ。


「フレンズ化しなければ、小鹿はどうなろうと仲間たちは元気でいたはず。フレンズ化することで余計なことを考えたんだよボクは・・・!


言っちゃうと、フレンズ化したこと自体がボクの間違いだと─」


「セグロ違う、それはだめだ。生まれたこと自体が間違いだったと、そんな風に考えちゃだめ。

それに、それだと私たちフレンズが全部間違っていると言ってるようなものだ、そんなのは─」


 「ボクの場合のことを言ってるんだよ!」


 「それは分かっている─」

 「だってあんまりじゃん!それだけじゃなく、初対面なのに何故か嫌がられもするんだよ?オオカミには分からないでしょその感覚!」



 セグロは私の言葉を思い切り遮って言い返す。

してその内容をすっかり置き去りにしていたが、イキナリ嫌われていた理由・・・。


 予想でしかないが、多分セグロジャッカル達はその近辺では他フレンズの前でさえもかなり横暴な振る舞いをしていたんだと思う。


だが、イヌ科の動物は基本的に社会性の高い動物。自分たちの立場を弁えるくらいは動物でも出来るはず。横暴にならざるを得なかった・・・?

つまり元種たちは、生活に困っていた可能性が高い。今となっちゃもう─



 「確かに分からないが。

けども、キミは自分で言う間違った姿をしてしまったなりに正しくあろうとしてたんだろう?自分から進んで仕事とかして」


「そうだよ、せめて正しくないといけないんだから!」


 セグロは・・・囚われすぎている。

 もう十分、もういいのに。


「私は、正しくあろうとするのはいい事だけど、常に正しいことが良いかと言われると、そうとは思えない」


「・・・何でそんなこと言うのさ、ねぇ!」


 また否定されたと思っているのか少し感情的になっているセグロ。


「常に失敗しつつも、そのたび一生懸命いい結果を目指しながら力強く登っている娘の方が格好よく見えるからだよ。



 キミみたいに」


 思ったまま偽りない言葉を口にする。


「ボクがカッコイイって・・・何言ってるのさ。やめてよ中は汚れているのに」


「初めから何でも上手く行ってて、初めから綺麗な物なんて詰まらないよ。どんなモノだって、誰か、或いは何かが手を加えるから綺麗になるんだから。

私だってそのフレンズがいたから今ここまで来れた」


上手くいくように念入りに考えて動いてる存在もいる。

 けど─。


 「考える余裕が無くてまず動いたキミはやはり凄い。それとさっきも言ったけどキミは汚れてなんかいない、すっごく綺麗なんだ。


這い上がって来たキミの方が、ずっと尊敬出来るな。

あの時キミに引き寄せられるかのように声を掛けたのは、それが理由かもしれないね」


 「なっ、うぅ~・・・!」


セグロは返す言葉を無くしたらしく、むず痒そうな引きつった顔をして唸りを上げている。


「改めて聞くけど、キミの言う正しいってどういう事だと思うんだい?」


 セグロは少し考え込んでいる。


「・・・ボクの考えは、誰かを支えるとか役に立てることだと思う」


 飽くまで相手へ向けた考えだね。1人でいることが多いとは言ったけど、ホントはピュアな寂しがり屋さん。

相当キリンが正しく見えてたのかな、考えが似ているように思える。


「うん、確かにそんな感じだと思うよ。でも下手をすると、周りを不幸にする者を支えていた、なんてこともあり得る。

言っちゃうとその時はそんなの分からないから考えるだけお腹が空くだけだ。

極端な話、生きるためとかやむを得ない理由がない限り、いま不幸になった存在がいなければ、間違っていないと思うよ私は。


 じゃあ不幸とは何だろう。傷つけること?治るのならまだ幸せだね。

怒ること?そんなの何処かで発散すればいい。後で思い切り泣くってのもいい。

では泣くこと?悲しいとそうするけどまだ違う。

それでは悲しませることかな?これがほぼ正解。


どっかの種族たちは自分の欲求のためにこれを率先しているっていうが本当理解に苦しむ」


「ただ欲望を満たすために?ボク、すごく怖いよそんなの・・・」


「だけどまだ上がある。

かけがえない存在がもう二度と戻らなくさせることだと私は思うね。一生治らない傷にもなりえる」


 「二度と戻らなくさせること・・・」


「そう。仲間を失う意味でキミは分かったはずだ。でも必死に正しく向かったんだ。私はまだその経験をしたことがない。未熟な私から見ても越えたキミを尊敬できる。

その小鹿もきっと感謝していたよ。だからもういい、自分を許してあげなよ?」



 実はこの時、失う経験をしていないという面で一つ嘘をついた。けど悪いとは思っていないよ、他を不幸にしないであろう嘘だから。



 さばんなに住む娘で、安否の取れない娘がいた。



臆病で華奢だけど心優しい子。彼女にもいい顔をよく貰っていたっけ。何処かのおうちで本当は元気でいるといいが・・・。


「でも、オオカミの言い方だと捕食する動物とかは常に他を不幸にしてるってことだよね・・・」


 セグロ、悪いけど考えるだけ無駄なんだよ。


「開き直って言うとそうなのかもね。つまり完全に正しいことなんてあり得ないんだよ。考えすぎても何もいい事なんて無い、諦めな?

君の場合もう大丈夫だから」


彼女は・・・苦しみを知っている、故にそれを他者に願わない。元々フレンズは他者を不幸にしない存在だ。

私は他者を変えることは出来ない、けど目の前の娘にもっと楽になってほしいと思う。


「役に立つとかじゃなくて、そろそろ本当に自分のしたいことを自分で知った方がいい。

 何でもいい、ホントは何がしたい?何を感じたい、得たい?キミは生まれ以て痛いのを知ったから自分の欲望で人を不幸にしない。許されるから」


─+

 その質問にボクは答えることが出来なかった。

その後も2人きりでお話を続けたけど、いつの間にボクたちは眠ってしまっていた。


 『ホントは、1人なんてもうやだ・・・間違いなんか気にしたくないよ』

─+


この後だ、キリンが帰らなくて一同血の気が引くのは。



─◆

 

 キリンだわ。

 捜索願いも、もう終わりが近い。


 叶ったから。

記憶を一瞬奪われたけど取り戻したときに分かった。探していた娘たちが目の前にいたこと。

狂乱しちゃったけど今はもう大丈夫。この二人を連れて行かないといけないわね。


でも、その前に・・・


「キリンが落ち着いてよかったです。少し保留案件があるんで付き合ってくれません?

まぁ断ってくれてもいいですよ。私は動かなくなりますが。」


「センちゃん、根に持ってるね・・・キリンも嬉しくなっちゃったんだし、もう許してあげようよ」


下に放置しているセルリアンを倒しに行くことになった。姿は乗り物っぽいが、どうやら動物が持ってそうな性質を再現しているとの事。


つまり私と同様、奪われて困っている娘がいるかもしれない。



してそのセルリアン、言うなれば*威圧*を再現しているらしい。怖くて近づけなくなるんですって。


少したどり着くまでにまたセンたちと話をした。


だが話を聞いていくうちに、何だか私は奇妙な感覚になっていた。


「キリン、少しさっきの続きですけど。なぜ私たちを探していたんです?ギロギロって言うのもよく分からないのですが。」


「うん、センちゃんをギョロギョロって言うのはすごいね。

それと、私も目的に入っているみたいだよね?さっきぶっ掛けたのは謝るからさ、教えてほしいな?昔の私がどんなだったのかも気になるからさ」


「いやオルマー、ギロギロよ・・・間違えないでちょうだい」

 

 けど思った。

 ここで漫画の事を言うべきではない。


あくまで、セン達自身がその情報を掴むこと。

つまりオオカミ先生は作品が広まった結果を望んでいる。



 先ほど狂乱していた私は無理やり彼女を連れて行こうとした。

 冷静になって思うと、先生はそれを望まないだろう。正しい流れではないと思えてならない・・・。



一つ分かったわ。私のここでの目的は、セン達を力づくで連れ戻すことではない。



 オオカミ先生の作品をここで見つけ上げ、彼女にそれをたたきつけることだ。そして2人が過去に交わした約束の元、連れ帰らせる。それが私の役目なんだ!


 ふと、センはいう。


「さっき、貴方はオオカミ先生と言いましたね?フレンズとしてのお名前は何と言うので?」


・・・?何だこれ。引っ掛かりを感じた。


私は絵を描くのが好きだという情報を先ほど混ぜたのだが、彼女はまたピンと来ていないのかしら。


少し考えた。果たして先生の正体をばらすのは正しいのか。だが、忘れているんだとしたら私自身の我慢がならない。


 うん、行こう。


正体をバラすのはまだギリギリ大丈夫だと言う考えに至った。


  明かす。大きく息を吸って─



「タイリクオオカミって言うのよ!漫画を描いていて、私が大きく影響を受けたお方。オルマーの敵討ちとして、貴方が過去に共闘したフレンズよ!!」




これに対してまずオルマーが驚く。


「どれ程前のことかは分からないけど、私の敵討ちをしてくれてた娘がいたんだ・・・!

センちゃんは1人じゃなかった!!」


 だが、私の言葉に対しセンは恐ろしいことを言い出した。





「・・・キリン。貴方はその尊敬する娘のためにここまで来たのですね、他者の願いを自分の願いとして。


 貴方は本当に尊く思えて仕方ない、今私がこうして対話するのもおこがましいくらい。

ありがとう。でも・・・先に謝らせてください。



 ごめんなさい。

 タイリクオオカミと言うフレンズに会った記憶が、私にないのです・・・。」



 ─そんなバカな


私は願ってセンとオルマーの前に舞い降りたのに。

 なのに、私の小さな願いは運命か何なのかそこらの雑草みたく踏み潰された。






 とでも言うと思ったのかしら?


本当はささやかな怒りを感じた。だけどセンは謝ったことを思い出し、内心の怒りを抑える。


覚えていないことに対してなのか、あるいはという意味でか分からないけど謝ってくれたから。


 でも分かるわよ?貴方はオオカミ先生のことを忘れてなんかいない。



 セルリアンを一緒に倒すときに、完全に素直な素っ裸にしてヤる。


 魔が差したわ、私も・・・。

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