偶然なんかじゃないと思うわね。


 ┈┈

『わるいね、作戦会議中に呼び出したりなんかして』


『いや、構わないよ~。

会議って言っても、結局は真っ直ぐ突き進む内容になるからね。

 先手で誰が行くか違うくらいかな』


 博士たちに漫画の原稿を届けに行った際、オオアルマジロのフレンズが最近になって

へいげんに入ったという情報を聞いた。

 その本人には、博士たちもまだ会っていないらしい。


 纏めた原稿を長たちに渡して内心でははやる気持ちを抑えつつ、私は現地に向かった。


 到着して早々、まずは腕試しってやつの

相手にされかけたけど。例の大将にね。



『アルマジロの情報によっては、もっと強い娘と戦えるかもしれないよ?

 だから早く彼女を出して欲しいな』



 ...私も焦っていなければもう少し上手な

言い回しが出来たのかもしれないが。


 ・・・・・・

 ・・・


 少しして、アルマジロが来てくれた。

 外れのタイヤがある場所で話をする。



『その・・・聞いたんだけど、ヘラジカは合戦でそんなに勝てないのかい?

なら、もう少しやり方を変えればいいと思うんだけどな』


『そうなんだけど、あの方は自分の考えに絶対の自信があるんだよね。

 付いていけばどうにか出来ると思っちゃうんだ』


 そうか、なるほどね。


 ・・・私に対し対等な言葉遣いだ。

 そろそろ、聞いてみるか。




『この娘を、知らないかい?』




 そう言って、私が描いている漫画の主人公によく似た娘を見せる。

 あの時、上手に描けた似顔絵。

 モンタージュとも言うそうだね。



『おぉ上手な絵だ!この娘、私の付けている帽子の毛皮とよく似ているね─


 ─

 ・・・この瞬間に、あぁだめか と思った。

 何がダメって、センを*この娘* 呼びなとこかな。即断極まる・・・なんてね、はぁ。

 ─


 ─..ぅ御も攻撃も上手に出来そうな姿、確かにヘラジカ様ともいい勝負が出来るかもなぁ』


『フフ、そうだね。キミと種類がよく似て

いるオオセンザンコウって言う娘なんだが、

聞き覚えはないかい?

 あ、一応愛称はセンって言うんだ』



『・・・ごめんね~、私はこの近くでの記憶しかないんだ。

 この娘を見た覚えもないんだよね』


 センからの話でしかオルマーのことを聞いていないが、彼女はその...

 マシン・・・?トークが特徴だったらしい。

 口数がすごい多いってことらしいけど・・・。

 この娘はソレがさほど多いとは思えない。


 生まれ変わりでもなく、本当に別種なんだろうね・・・。


 再度フレンズ化した場合、前の記憶はないけど性格はよく似ている場合が多いらしい。

 酷似って言ったかな?


『せっかくここまで来たんだし、まだ時間があればその娘センのこともっと聞かせてくれないかなぁ?』


『もちろん構わないけど、どうしてだい?』


『自分と種類が近しそうなこの娘にただ興味がある!

 それと同種もこの...センと近くにいたってことなんでしょ、私に聞きに来たってことは。

 同種の娘のことも聞きたいしね〜愛称とか。


 私の名前長いし、ヤマアラシには負けるけど』



 この娘、意外と利口だね。悪いけどもう少し借りるよ、ヘラジカ。



『・・・流石だね、キミの好奇心に燃える顔もなかなかそそられる!

 名乗り遅れたけど、私はタイリクオオカミって言うんだ。よろしくね』


 ┈┈


 昔のことを思い出していた。



「・・・降ってきたね」


 部屋の窓から外を確認する。

 空も、私の気持ちに合わせたのか暗がりを展開させて雨足を叩きつけている。

 キリンがちょうど昼過ぎに出かけて行ったが、ちゃんと帰って来れればいいんだけど・・・


 私だっておバカじゃない。キリンの外出が最近増えた理由は察している。

 アリツさんも言葉を濁して教えてくれないが、センの情報を集めてくれているんだろう。


 何せ過去の話をした後にそうなっているんだからバレバレだ。

 探偵としては・・・まだまだだね、フフ。

 でもだからこそいい、素直な娘。

 先ほど、気分が乗らないからと突き放して

しまったことを申し訳なく感じる。

 帰ってきたらちゃんと謝ろう。


「(・・・オオカミさん、キリンさんを大事に出来ております?

 彼女のお願い聞けております?常に近くにいてくれることが当然だなんて、思ってはいけませんよ)」



 窓を見て耽っている私は、後方ドアの隙間からこちらを見ているアリツさんに、気づくことはできなかった。




 ──────

 ────

 ──


 月に照らされ、首に巻くマフラーをたなびかせお水に浮かんでいる。

 真っ直ぐ揺られながら、胸の上で両手を合わせ仰向けにさみしげな夜空を見上げている。


 多分夢を見ているのかしら。


 ふと、白いちょうちょと白い鳥が空の先

向こうへ1つずつ飛んで行った。

 夜にこんなのを見るのは初めて・・・。


 何だか心地がいい。もう少しこうしていようっと。




 ・・・!?

 うっ・・・!!




 突然、何故か息苦しい!空に見とれてて息吸うのを忘れてた!?

 クゥ、私ったら!


 だけど苦しくなって意識がはっきりしてきたとき、私は分かってしまった。




 長いマフラーでさえ、すぽりと飲み込めるような大きさのセルリアン内部に、実はいたこと。


 何でこうなっ ...確か私は崖から落っこちた!


 夢見ていた間?セルリアンがクッションになったけど飲み込まれてイた!?



ごぼごぼ


 え いや まだ奪われたくない!!



 私 元の娘 まだ見つけてないのに!!



 先生 まだ安心させられてないのに!



 守った娘も 見つけて役に立ちたいのに




 もがいても石に届かず出られない


 あれ・・・?でも何で─






『...ッりゃあ!!!!...』


 近くの膜壁から、出ようと藻掻く私の目の前。

 隔てた先で、セルリアンの石を狙い跳ね上がって強烈な裏拳を入れる娘がぼやけて見えた。


だが、拳はセルリアンの身体を潜ってしまいすかさず引っ込められる。


『...ちぃ、石に当たらなかった!

 ..ょこまかともう!!...』



 ─ゾボッ!!



 モノを思うヒマなく、今度は何かが後ろから勢いよく突っ込んできた。

 つまり、セルリアンの中に突っ込んで来た!?

 その勢いのまま刺さるようにして抱きかかえられ、膜壁を切り裂きつつソレごと私は外に排出された。


「べはっ!!はぁ、はぁ・・・」

「・・・..し。..ぇど..すみませんね、..たしも

石外しちゃいました。」


 誰かに助けられたみたい。

けど、目も耳も霞むし遠い。その誰かのやり取りが上手く聞き取れない。



「..ぃ丈夫お相子あいこだよ、..の子上手く助けられて..ぉかった!私がこの娘に肩貸すよ、ほら。

 けど、無茶..過ぎ!もうそのやり方危ないか..ぁ本当やめてよね!?

 ..ぉんな朝から輝き奪おうなんて、..ゃつらも本当いやしんぼだよね。

そんなにお腹空いてるのかな?

 私..ぁらもう少しおやすみしてから─」


 ─ザンッ!!パカァン

「..ぅ長くなるからストップなさい。

 に..ぃてもいっぱ..いて厄介ですね、こざかしい。..ぉの娘庇いながらだとココは難しいから一旦引きますよ。

 ・・・私が食い止めますから..ルマーが安全なところに連れ..ぇ、青い看板の..ぇで待ち合わせましょう。」


 たぶん2人、助けてくれたフレンズ。

 たくさんセルリアン。

 1人がおとり、もう1人が安全なところ、

 私を連れて。


 ...残って止める娘は大丈夫なの?


 ...パートナー気遣って、でも奪われたお話

 何処かで─


「・・・分..った。じゃ─ 

「ダメ!!!」



 殆ど目も耳も頭も働かない中、肩を貸されつつ息を詰まらせてでも私は叫んだ。

 何とか声は出た。


「..ひとりで行ったらきっと後悔する...!

 だめよ!!」


「・・・びっくりした 君、ほとんど同じ考えしているね。

 先に助け..ぇよかった!!..ェンちゃん、やっぱりそれだめだ。

 2人で一旦安全なところへ行くよ!」


「何なら...私がこいつら止めるわ...」


 万全じゃないけど強がって見せる。

 少し回復はしたし何とか行けるはずだわ。


「..ぉれはもっとだめだよ、いいからじっとしてて!よいしょっと」


 その瞬間、おぶられて走ってもらう感覚。


「..あれくらい私だけでもどうにか出来たのですがね。

オルマーも危なくなったらその娘置いて

逃げちゃえばいいじゃないですか。」


「それ、本気で言ってるの!?

 覚えてないけど、私が奪われてずっと後悔してたんでしょ?これでいい─

 あそこにいる小さいヤツから抜けよう!

センちゃん、両手ふさがってるからちょっと頼むよ!」


「分かりました。

けど置いてくのは冗談、魔が差しました。

目の前で奪われるのは寝覚めが悪いですからね。─りゃあ!!」

 カァン!!


 だらしない話だけど、石が弾ける音を聞きつつ何処か安心した私はまた意識が飛んでしまっていた。


 ───

 ──

 ─




┈┈◆


『ロスっち、それ一体何読んでいるのかしら?』


『おぉアミメキリンちゃん。これ、"漫画"って言うんだって。

 絵でお話が描かれていてすごい面白いんだよ』


『おぉ~それ、私も見せて欲しいわね!』


 字は書かれてなく、描かれた者や物が場面ごとに違う格好を取ることでリアルに動いて見える。

 自分の好きなタイミングで動かすことができ、マイペースな私でも読んでてとても楽しかった。

初めて読んだ時から、すごいと思った。

描いている娘も、中にいる娘も。


 ・・・・・・

 ・・・


『ロスっち、もっとこの漫画ないのかしら?続きが気になって仕方ないわね!!』


『すっかり夢中だね~、でも本当カッコいいよね。

 私も、こんな風になれたらな~。

 この娘ね、ギロギロって言って探偵ってのをやっているんだって!』


『私も、こんな格好良く暴ける探偵目指しちゃおうかしら』


 ふと、あまり考えず言ってしまった。

でも確かにこの漫画はすごかった。字はないのに、場面だけでも自分の想像と重ねて細かいセリフが浮かんで見えた。


『えぇ!アミメキリンちゃんマイペースなのに大丈夫なのー?

 あ、ところでさ。私のプリン知らない?

また無くなっているんだよね、ケーキプリンのお姉ちゃんに聞いてくるか・・・』




『・・・待って!これこそ私が推理してあげる!!

ギロギロ見たくまかり通すわよ~

さぁ聞き込み聞き込み!!』


そうだ、ここからだったっけ。

私が夢中になった者2つ、事も2つ以上。



『お、何か雰囲気変わったね。プリンは残念だけど、それよりも何か楽しみだ♪

・・・でもまずはケープキリンお姉ちゃんのとこ、行くよねどうせ。正直突っ込んでよ〜』




──


 それから、その先生に出会うことができた。その先生に付くこともできた。

けど、先生は最近悩んでいて私はどうにか

したいと思って動いてた。



 でも・・・








 オオカミ先生

 私 誰を探していたのでしたっけ・・・?




 ┈┈

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