私も出会った。 ┈黄色いむかし┈
ありがとうが言いたい、本当は。
┈
『キリンは、死後の世界ってあると思うかい?』
『え...!? 』
唐突にこんな質問をされたことがある。
作家の空想はすごいものだわね。ちょっと考えて私は言う。
『そうですねぇ、私はそういう世界ってあまり信じてません。
ずっと眠った状態が続くと思います。
思い出として、良い夢とかも見るんじゃないかしら』
『なるほど、優しい発想だね。いいと思うよ。
けど私はね、後の世界ってあると思うんだ。
天国って言って、きっとヤミツキですごく良いところだよ。
誰も帰って来ないんだから─』
『・・・まさかギロギロの次の舞台をそこにするわけでは...?』
『フフ、その案いいな。参考にさせてもらうよ。
お、その顔もなかなかいい顔だね♪
けど困った、それじゃあギロギロは帰ってこれないかもしれないなぁ』
『でもそういう時こそ先生の発想を活かせばいいんです!!
どういう展開なら皆が目を離せなくなるか、ギロギロならどう動くか・・・
例えばそれこそ、その世界ごとギロギロの爪で切り裂いちゃうとか!!』
アシスタントとして、思いついたアドバイスを送る。
それにしても私、どんな顔してたんだろう。
┈
日々、上手く行かないことと願いが満たされないことから、先生は少し挫いているよう。
上手く部屋を抜け出し、ゆっくりと私は歩き出す。
こっそりと先生の枕元から持ち出したセンのウロコを観察してみる。
ある程度時間は経っているはずなのに。
そのウロコは茶色と金色の間を取ったような色をしており、鈍く輝いている。
まだ生きていると言う信号を発しているように。
・・・私の眩しい黄色の毛皮より妖しく綺麗な見た目。先が流線型に尖っていて切れ味よさそう。
先生、こんなのがびっしりとある手甲をよく掴んだものだわ...。
・・・・・・
・・・
「キリンさん、今日も行くのですね。あれからどうですか?何かタメになる情報とかは」
ロッジのフロントへ出たとき、アリツカゲラのアリツさんがテーブル越しに話しかけてくれた。
「正直言って進んでいないわ。先生のお話だとセンたちは、1日で忽然とこの島からも消えてしまったって言ってたけど。
そんなこと出来るのかしら・・・」
「元々、オオカミさんたちの前から去ることを考えていたのかもしれませんね。
でも、挨拶もなしにそんな一瞬で消えちゃうなんて普通じゃ考えづらいです」
「確かに、仇討ちだって一緒にしたし看病だってされているのにおかしいわよね」
まず、1日で湯気のように消えると言うのもそうだけど、礼儀的にもどうかと思うわ。
「地中や、空へ乗せてもらったってことはないですか?
特に、空なんてかなりあり得ると思います」
アリツさんは飛べるフレンズ。鳥の娘なら十分にありえるでしょうね。
「でも先生のお話では、付きっきりだったんだし誰かと計画を練っていたのは考えづらいわね。
それに、地中だと先生の仲間たちが持つハナですぐに見つかるだろうし...」
「偶然遠くへ連れて行ける誰かに出くわしたか、なにかが空へ連れ攫ったか...ですかね」
アリツさんもなかなか現実的な、厳しい考察をするわね。
「ちょっと!攫われたんだとしたら・・・いえ、ここで諦めては先生は絶望するばかりよ!
私が探偵を名乗る以上、これを解決して先生を少しでも楽にしてあげたいもの!
アリツさん、行ってきますね!!」
「そのイキですよ、どうかお気をつけて!
心配ですから消灯前には戻ってきてくださいね~!」
少し距離はあるが、かつてのセンが住んでいた詰所を訪ねようと思った。
─昼を過ぎた頃。
先生から話を聞いているが、博士と助手がいるしんりんエリアから逸れた奥の森にセンの元住処があるよう。手がかりがあるかも。
少し遠いので急ぎ目に向かう。
────
───
──
ガサガサ...
「ん...?」
森の中へ入ってすぐしないうち、木々から音がした。気配を周囲に感じ立ち止まって確認する。
注意深く見ると、少し距離を置いて小さいセルリアンが何匹か見受けられた。
私を両サイドから囲っている。
確か、こういう時なんて言ったかしら。
えーと、そうだ。
「しゃらくさい!!」 ジパァ!!
蹴りつつ、マフラーをムチのように使ってはたく。べちんべちんって。
近づいたなら跳んで踏みつける。からの後ろ蹴りもギフト入り。
踏みにじるのは何ていうのかしら・・・えーと分からない。
自分の身を守るとは言え、何かに不満をぶつけると言うことに少なからず爽快感を感じた。
やっぱり、次は先生を気晴らしに外へ出すべきかもしれないわね。
セルリアンの色は黄色。
今日はよく見る色だこと!
さっと余韻にひたり、全部倒したんで行こうと思う。
だが、また距離を置いて背後から葉が擦れる音がした。
・・・取り逃したかしら。
またマフラーのシミになってもらうわ!!
帰ったらサンドスター混ぜて洗濯ね。
長いから洗うの大変なのよ、ごしごしって。
飛びかかろうと走り出した瞬間、木陰からそれが立ち上がって姿を現してきた!
「うわ待って!!君すごく強いね、思わず見とれちゃったんだ!」
あれはフレンズの姿だ!何とか左足を前に出しブレーキをかける。
よいしょっと、危ないわね全く・・・。
「ふぅ、よかった!あのねボクは─」
「待って貴方こそ!!」
あ、しまった。ついつい出てしまった。
やはり、自分の発想で探りたくなっちゃう。
─推理したい、シたい!!
その...ヤギとか言わないから!!
「まだ名乗らないで!!私が当ててあげるからそのままにしてなさい!?
いい娘だから、ね!?」
「う、うん分かった。でも─」
少し驚きながらも相手の娘は待ってくれる。
えぇとこの娘の特徴。
上に白黒シマシマの、フチが茶色いベスト。
その下に白いシャツ。
首元にはリボン、茶色のスカートとソックスを履いていて共に短く、黄緑の目をしているわね。
少々長めの髪、そして大きな黒い尻尾。
「貴方、その身軽そうな姿にパリパリアイス
みたいなシマシマ・・・まさか─
ワオキツ─
「時間切れー!ボクはせっかちなんだよ!!
それと、ワオって何さ!?どうせハズレだよ!!
でも敢えていうと、君からは昔の知り合いの匂いがする!!」
知り合いの匂い・・・?それに、この言葉遣いどこかで
「あれ・・・?
貴方、...まさかセグロジャッカルじゃないかしら!?」
「お、すごいよ正解!よくボクのこと分かったね!!?
君についてる匂いも・・・もしかして、オオカミの匂いじゃないかな!?
あ、タイリクオオカミって言うんだけど」
やっぱりだ!
セグロジャッカルは先生やセンと一緒にパトロールメインに元凶を探し当て、退治に貢献した一人。
まさか、ここで会うことになるなんて。
でも...
「貴方、何か出会うタイミングがバッチリな気がするわね。セルリアン片付けてから出てくるなんて。
もしかして、セルリアンを誘導して私に当てつけたとか...ないわよね?」
私の勘が言ってる。何か出し抜かれた感覚もあったからね!
「あ・・・その、そこは鋭いんだね。...ごめん。
上手く撒いて闇討ちしようと思ったら先に君がいたんだ。
ウソじゃないよ、ほんとだよ!!」
闇討ちって・・・穏やかじゃないわね。
まぁ不可抗力だとして許しておくわ。
・・・・・・
・・・
自己紹介を手短に済ませる。
先生からセグロのことは聞いていたこと。
セグロもまた、あの時から時間を見てはセンを探していたこと。
私は先生の助手を務めていること。
どうもセンは汚れていないから、探すのに手こずっているらしい。
・・・どういうことかしら。
私は汚れてるから出会ったってこと~!?
やっぱり少しシめちゃ...やめておこう。
「オオカミはあれから作家になったんだね。
元気にしててよかった!
昔からやりたいって言ってたし、皮肉だけど目標も見つけて・・・」
「貴方こそ元気でよかったわ。
でも、日々センに会いたい気持ちを先生は描いて表している。
叶わなくて少し落ち込んでいるの。セグロも時間あったら会いに行ってあげて。
ロッジ分かるかしら?そこに先生はいるわ」
近況をお互い話しながらまずは元詰所を目指す。手掛かりを見つけるために。
・・・・・・
・・・
その場所には問題なくたどり着くことは出来た。
セグロの記憶力もナめちゃいけないわね。
早速ガサ入れを開始する。
見回し少しして、隅にもう殆ど劣化している積み重なった紙が目に入る。
何か情報はないかと捲って探りを入れていくと・・・
*フレンズ探し*、*材料集め*、*セントラル解放*、*悪魔の花*...
遂行した仕事内容の紙かしら。
「...ん?悪魔の花って、貴方達で討伐したセルリアンかしら?」
でも、担当にオルマーが入っている。
この時ってもうオルマーはフレンズではなくなっているはずだけど・・・。
「いや違うね、ボクたちがやる前の内容だ。
アイツは確かに花っぽかったけど、僕たちは元凶って呼んでたからね!
それにセンは、何でも屋をもうやってなかったんだ」
そうなのね。...あれ?
ガサ入れをしていると、センと元種オルマーの絵を見つけた。
2匹で眠っている絵が描かれている。
「うん、確かにあの2人だ。オオカミが描いてたやつで間違いないね。
それにしても寝姿を描くとは、オオカミもいい趣味してるよね~!」
確かに・・・と言いたいけど、センたちは描いてもらったのにこの絵を置いていったのね。
昔だからか、今とだいぶタッチは違うが、先生の絵はやはり特徴を捉えていてとても上手。
でも何だか気分がよくない。
「ねぇ、キリン」
セグロが声を掛けてくる。
「もし、だよ?
もうセンがいなかったとしたらどうやってオオカミに諦めさせればいいんだろうね・・・」
・・・
「センがもう居ないという証拠を見つけるまでは諦めないわ私なら。探偵ですもの。
それに、先生は一人なんかじゃない。
もしあの方が、何もかもどうでもよくなった場合は、私がぶつかる対象になってでも止めるわ。
先生の辛いも楽しいも近くで見てきた以上、落ち込んだまま放っておけない。
パートナーだしね。」
まどろっこしくなったけど、周りには支えてくれる娘達が居ることを教えるだけよ。
飄々がっしりとしてる先生が、センだけで何もかも捨てるなんてやっぱり間違っているから。
でも、これだけは言いたい。
「私が先生と別れる時はぶつかりあった時じゃない、寿命を迎える時だけよ」
「キリンは本当に強いね・・・。ボクもここまで全然だったからすっかり弱気になってたよ。
ありがとね。こっちももう少し頑張る、
センにはお世話になったこともあるしね」
正直言うと、私は強くなんかない。
「本当は私が、センにひがんでいるから。
かもしれないのよね」
何かことあるごとに、アシスタントの私ではなくセン、ギロギロって・・・。
ヘタをしたら、もう彼女なんかいない方が私にとっては好都合なのかも・・・
なんてね。私は悪い娘だ。
「そうだとしてもそれの何が悪いの?
キリンの気持ち分かるよ、オオカミは本当に何が大事かを忘れている。
そんな弱気にならないで。彼女は彼女で、キリンに甘えているんだよ!
オオカミのパートナーはキリンだけ。
センはオルマーだけが唯一のパートナーって言ってたしね。
あぁ何だかキリンが羨ましいよ!
あ、そうだ!オルマーで思い出したんだけどこれをあげる!!」
そう言ってセグロは何かを渡してきた。
手のひらより少し小さめで四角い、薄汚れたウロコのようなものだ、硬い。
「これは?」
「汚れててごめんね。センが毒でダウンして、オルマーを抱えた時にそこから剥がれたのを持ってたんだ。
つまり、オルマーのウロコ!
キリンの方が、なんかセン達の行方を掴める気がするよ!」
「貴方も、やっぱ片手間とかそんな気持ちで探してたわけじゃないのね。
しばらく会ってないようだけど、先生のことも心配していた。
私もほら、見せてあげる」
そう言って私も、オルマーのウロコを貰いつつセンの妖しく綺麗なウロコを見せる。
「これ、ちゃんと手入れされてるようだね。
今もすごい鋭いし綺麗。
・・・もらったの?」
「いえ、こっそり持ってきちゃった。
もしかしたらコレが私を案内してくれるんじゃないかってね」
ここからは、少し他愛のない話が続いてしまった。
日がだいぶ傾き始め、雲行きも怪しいのでここからロッジに戻ってもよかったのだが、ウロコを先生に返すと捜査もここまでになってしまう気がした。
なので
「私はここからへいげんへ向かう。
そこにオルマーと同種の子がいるから少し話をしたいと思っているの。
その後帰れなくなったら、お城か博士たちのとこで泊めてもらうわ」
最も、私殆ど寝ないんだけどね。
「そっか、分かった。
ボクはそのロッジへ向かうよ。オオカミに
激励と何が大事なのか言い聞かせておく!
また後でね!!」
「その事で、セグロ。
私のこと否定しないでくれてありがとうね。元気が出たわ」
私たちはお互い別れて歩き出す・・・。
・・・・・・
・・・
少し歩いているとザーザー降りになってしまった。
博士たちの居る、としょかんからは逸れているのでやはりへいげんへ歩を急ぐ。
先に橋がある。
よし、ここを渡ればもうすぐへいげん・・・
けど、急ぎすぎたよう。
足を置くと蟻地獄のように崩れ、私は大きく体制を崩し・・・
「うっあ!?しまっ・・・!!」
視界が傾いてから私はやっと状況を察した。
元は綺麗なブーツを汚し、私は崖下へと。
黒い空が遠くなっていく。
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