ありがとうね、生みの親。

 


 ─

『先生もセンもセグロも、元オルマーも皆無事だったからよかった!でも私の中ではまだ晴れていない疑問があるんです!』



 キリンはまだ歯切れが悪そうだ。まぁそうだろうね、私はまだ全部話したわけではないから。

 でもきっとこれで解決するよ。・・・そう、分かる。


『そういえばオオカミさん、私たちが部屋に入ったときは落ち着いてましたけど、その前はだいぶうなされていたのでは?少し苦しそうな声が聞こえてました』


 声も上げていたのか私は。そりゃあ、記憶の整理とは言えひどい感覚のものだった。なんか飲まされるし産まされるし・・・


「フフ...少し、過去の友人たちに忘れないでって言われた気がしてね」


 私の想像が変な構成を見せてしまったのか、あるいは。


「┈(もしかして・・・

先生は、ギロギロでオルマーモチーフの娘は出していない...

 オオアルマジロの娘は知っているけど...オルマー自体は知らないから・・・本当は出したいはずなのに)┈


 難しいですね、過去を知れない繋がりって」


「...!その通りだよ。だからどうするべきか迷っている。ジレンマってやつだね」


 ・・・キリンは何かを察したのかな。

そうだよ、せめてもっと早く会えれば私の表現技術が少しでも慰めになったはずなのに。


 ─



 そろそろ慰めてあげようかとセンの方に振り向いた。そして戦慄。




 彼女は両目をぐしぐしと擦っており 

 目元を血で滲ませ涙を流している



 つまり、血の涙を流している!!







「あは・・・まさかこうなるとは。なかなか、上手く..いかないものですね..。」



「なん...!?そんな、サンドスターはちゃんと取り込んだのに何で!?こんな、こんなの!!」


 この状況でセンは冷静にしており、だがセグロはもう取り乱してしまっている。

私なんか、言葉を発するのがやっとであった。絶句してどうしようもない



「...まさかセン、その様子・・・心当たりがあるんじゃないか・・・?」



 毒が回っているのか・・・?

 ヤツは植物を再現していた、毒を持っていてもおかしくはないが、花粉だかガスは痺れる程度だから回復さえしていれば大丈夫だとタカを括ってた!!


「...触手を裂いて黒い液体が付いた時、でしょうかね...。」


 ヤツの触手から黒い液は出ていたが、背中に穴を空けた時は出なかった。触手部分のみにあった物質だろう。


 付いただけでそうなるのか・・・?だとしたら異常をきたすのが遅い気が...

 いや、まさか・・・


「本当は傷がふさがらないまま、ソレを傷口に浴びたんじゃないか・・・?」


 セグロがヤツの眼に石を当てた時、激しく暴れ近くにいた彼女が上半身に斬撃を受け吹っ飛ばされていた。

 その後、直接取り込まれないことを証明するために立ち向かって行き、触手を断罪。


 あの時もセンは黒液を浴びていた。


 直接目に入っていたから今の状態なのかもしれないが、今はそんなこと問題ではない。


 アノ時、強い嫌な予感がしていた。

アノ時...!!! 

それなのにセンは決着をつけることを考えて



「さすが、多分そう..でしょうかね。目標を急ぎすぎましたか、ふふ..恥ずかしい限りです。」


 元オルマーも、声こそあげないが動きからおどおどした様子が伝わってくる。こんなはずではなかったと思っているのか。

 くそ、どうしてやればいい!?



 「セン、違うこんなの私は・・・」

 目が熱くなり、視界がぼやける。こんなはずじゃなかった



「いえ、大丈夫ですよ..すみませんがオオカミ今度は私を..おぶってもらえません..?少しくたびれたんで楽させて..ください。」


 普通じゃ見られない変調が起きているということは、サンドスターの治癒が間に合わないくらいの状況なんだろう。

新たに砂星を取り込ませ、治癒力が毒の促進力を上回らなかったら・・・


 ...大丈夫なものか!

 何処かで治せるような場所があればよかったのだが、この時の私はヒトの存在も薬になるものもよく分かっておらず・・・



 自分と覚悟のコトばかりを考えていて私は、センの体調と状況を全く見れてなかったんだ。


 あの時みたく自分に傷を入れる覚悟を見せ、どうにか治癒を、最悪無理にでも離脱もできたのに。

 私はただバカみたく見得を切り、してやったりと喜んでいただけ。


悔しくて悔しくてどうしようもなかった。

私が一生忘れることのできない失敗。




「先生それは違う!!センはどのみち元凶と決着をつけないといけなかったのです!!!

だから自分の状態を隠してまで向かった!!


 それに先生が傷なんてつけたら、なおさら早く行かせるだけです!仕方なかったんですよ!!」


 キリンはあくまで私に非がないことを強く言ってくれる、ありがとう。


「毒下しになるような植物はあったはずです、イヌ科であるオオカミさんならご存知ですよね!?」


「流石だアリツさん。イヌやネコは元々毒下しとして植物をかじることがある」


 私だって応急処置程度に自分でやった覚えはあるよ・・・。

 住処に帰る間に毒下し用の植物を何本か調達し、少し水と一緒に煎じて飲ませて・・・。


 だが、それでも落ち着かせる程度。セルリアンを倒しても毒などの物質を完全に無力化できないのは本当に残酷な状況だった。


 ─


 今度は私が彼女の住処までおぶり歩く。彼女が持つトゲトゲの感触も感じている余裕はないのに、先ほどまで頑張っていた彼女の体温だけはしっかり感じる。


 セグロもさすがに元オルマーを抱きつつ住処まで付いてきてくれた。とても気が気じゃない顔をしてたね...。


 でも、それでもセンはその後も少し苦しそうにしつつ体内であったことを話してくれたんだ。



「ふふ、..いいんですよ。元の動物..だって自分で治すかあるいは・・・そのままなんですし」


 何がいいものか!くそ、フレンズなのにサンドスターでもどうにか出来ないのか!?


「ボクも毒抜きに関して心当たりのあるフレンズに当たるから少し我慢していて!!」


 セグロの顔の広さにも、もう助力してもらうしかない。



「..オオカミにセグロ、これは..間違いなく私のミスです。

 覚悟を持ち、行動で以て..すれば必ず上手くいくと考えていた..私の慢心が引き起こした結果。

 少し一歩引いて考えるべきだった。

 ..今二人が思っていることも少し教えてくれません?

..もっとこうすれば とか思っているんでしょう?」


 その通りさ...!!

彼女の状態を万全にするべきだったこと、

最悪治療を優先に離脱するべきだったこと。

自分の覚悟のこと、要は自分のことしか考えていなかったこと。

 責めてくれて構わない、本当のことを言った。


 思えば出会った時から彼女の前では正直でいた。だから彼女らの事に関しては絶対に正直でいようと思った。

因みにセグロも、私の覚悟以外はほとんど同じ内容だった。




「もう一度..言いますが、それこそ*私の都合*で、..ですからね。

私のことを..何とでも言ってくれて構いません..が、自分を責め続けるのを見るのは..こっちが悲しいです。

 そうは..しないでほしい。」


「こんなこと今言うべきではないのでしょうけど、これは「いい顔」をいただくための作り話とかでは・・・」


「ごめんね。今言ったように彼女らの事については正直でいようと私は思っている。ここまでの話は全部本当さ」


┈先生の話を聞いているうちに疑問に思っていたけど、これって、やっぱり・・・┈


───

──


 夕闇沈む中、やっとの思いで草むらの中にある住処に着いた私たち。初めて会った時、迎え入れてくれたことを思い出す。

 だが、今は竹を切ったコップも、クルミの椅子も、積まれた紙も見ている暇なんかない。


「周りのにおいで、..住処に着いたとわかりますね。..これだけはやはり..目をつぶっててもすぐに分かります。..さぁ、皆今日は少し休んで」


「ううんごめんね、今日はボクもう帰らないと。また来るからその時にね!!」


 抱いていた元オルマーを下ろし、足早に駆けるセグロ。すまない、また任せることになってしまって...。

 元オルマーは歩み寄り彼女に寄り添っている。何が意思疎通できないだ、考えていることは大体わかってしまうよ。少なからず、キミも自分自身を責めているはずだ。

けど、センはもう彼女を責めはしないだろう。

言い合いはアノ時に済んでいるはずだから。


 深まる夜、私は彼女の容態が心配なのでここで床に就く。今はジャパリまんから砂星を取り込んで落ち着いているようだ。

元オルマーも、何とか眠ってくれた。

 私たちも少々距離を取って横になり、少し経ってから彼女は話しかけてくる。


「ふふ、..オオカミ今日はしないのですか?」



「何がだい?大体まだ起きてたのかい、キミこそ安静にしてないとだめだ。私も今日だけでどれだけ寿命を縮む思いをしたと」


 だが、彼女は半ば遮る形で言う。


「..オオカミが描く絵、やはり素晴らしいです。..わたしをあそこまで上手に描くことができるなんて。

 それに、..も本当にかっこいい。

 真剣に悩んで、..自分の*やって行きたい*に本気で..立ち向かっている顔でした。」


 この時私は、またしてもセンによって驚嘆させられた。なるべく、見つからないようにやっていたのに。


「そんな・・・!な、なんでそこまで知って」


「..貴方も病み上がりの私みたく言葉を詰まらせるんですか。

 あの時..寝たようにして薄目開けて見ていたんですよ、どうしても気になって。

....寝姿描かれていたのは恥ずかしかったですけどね。

 で、思うのはやはりあなたは作家を目指したほうがいい。..褒めるのはもう省略しますが、もうあなたに見せられていたんですよ..行動で以て。」


 あの時の私は全く起きていることに気付かないまま描くことに没頭していた。

そうか、だから元凶に立ち向かう前にあんなことを・・・


「全然気づけなかったよ。してやられた」


「観察は好きなので。..探偵に案外向いてるのかもしれませんね?

 で、..気になるのですが私を使ってどんなお話を作ろうとしているので??」


 少しえっへんと言わんばかりの言い方。

そして興味深そうにまた聞いてくれる。


「キミに会った当初は、少し怖いものを見せられたからね。ちょっとそれを題材に考えているよ」


「あの時の私は元凶探しのことしか考えてませんでしたから。」


「キミは冷ややかで、して体内からボンを2回も見せてくれたからね。・・・すまない

 でも、私はその怖さの方向性を少し変えて作ってみようと思う。

 さらに今言った探偵って言うのもいいね。参考にさせてもらうよ」


「怖いの方向性...ですか。例えば・・・暗い場所、建物とか、幽霊とかですか?」


「うんうんいいね、是非とも参考にさせてもらう!」


「ちょっと照れますね・・・。あ、そうなればお願いがあるんです。オルマーも、そのうち出してもらえませんか?」


「でも私は、彼女がフレンズだった時の姿が分からないよ?」



「..何を言ってるのですか。

彼女もまた私を支えてくれた、..いわば主役の

 *生みの親*なんですからそれならば


──


 頭の中で何かが一瞬駆け抜ける。



〚ああ!そうだ!!そうだった!!〛


私は喚くくらいに声を上げてしまった


「先生!?」「オオカミさん!?」


頭内部の中枢がビビッときた。そうだ思い出した!

話してる途中で思い出してしまった!!



 例えばラッキービーストと言う、手はないが少し動物の姿をしたロボットがいる。通称ボス。

彼は、本来フレンズ化させる必要はない。

理由は、その姿こそ彼だから。つまり




 ─それならば、元種のまま出せばいいじゃないですか。ほら、この背中のプロテクターもいい個性でしょう?



 そうだ、そのまま出せばよかったんだ。長い時の間にすっかり記憶の底に埋まってしまったこの記憶。フレンズとして出すことばかりをいつの間にか考えていた。

でも、違った。忘れていたんだ。

ここにあの時の答えがあった。



 さらに、*生みの親*もここにいた。

 2人、いや3人の親。元の親セン動かす親わたし

 そして守った親オルマー



 さっきの夢でのオルマーは、これを伝えたかったのかもしれない。


 本当に、ごめんね。


「2人ともすまない、思い出せたことがあったんだ。ありがとう。」


──


 それから、毒を抑える薬になるものをセグロは持ってきてくれた。

 どうも聞いた話だと、ある有袋類の娘が解毒に少し知識があったらしい。それを飲ませて安静にさせた。


 その間、3日間は私とセグロと交代で彼女を看て元オルマーを散歩がてら外へ連れ出したりもした。

 彼女だって動物の姿ではあるが意思は持っているはず。あそこへずっと置いておくのは可愛そうだ。それに私も個人的に彼女と交流したかったしね。


 センの容態はだいぶ落ち着きはしたが、どうも完治する様子ではなく持病みたく残る形になった。体内で増殖と減少を繰り返すような状態だったのか、セルリアンじゃなくなっても厄介なものだ。


 当初、毒でおかしくなった時はどうなるかと思ったがここまで回復してくれて本当によかったと思う。


 だが3日目の夜、私にとって大きな変化を迎える。

 病み上がりだからか、少しだけ声を詰まらせつつセンは私たちに要望を依頼してきた。


「..すみませんが、明日はオルマーと2人きりにしてもらえませんか?

あまり付きっ切りにしていると、また彼女にひがまれてしまうと思うので。」


「うん、センもだいぶ良くなったから明日くらいはいいんじゃないかな!ね?」


 確かに言う通りだ、だいぶ良くなっただろうし付きっ切りなのもきっとだめだろう。

私もここは了解した。


「明日くらいは自由にしてもいいかな。じゃあまた次の日、明後日に来るとするよ」


「..えぇ、ありがとうございます。ではまた。



そうだ、オオカミ。」


「ん、どうしたんだい?」


 行こうとしたが、間をおいて呼ばれたので少し前方への勢いをころしつつ後ろへ向き直る。



「しつこいようですが絵画、上手でしたよ。

のお話、きっと見せてくださいね。待ってます」



 なんだか儚げに見えた、その時のセンは。

もちろんだと言いつつその場を後にするが、この時なんか変な気分だった。


 お暇をもらった日は、センを見ないでも描けるように練習していた。彼女は少し細かい部分があって描きづらかったからね。


だが次の日、彼女の住処へ行ったがもう彼女はいなかった。元オルマーも揃って。


 住処の様子はあの時とほとんど変わらない状態だった。しばらく、何日かは周囲を探してはいたのだが、鼻の利く私たちでさえも完全に匂いで負えなかった。

 1日のうちに彼女たちは・・・文字通り蒸発してしまったんだ。


 下手をしたら海を渡ってしまった可能性もある。あるいは不調を隠していたか。

つまり...いや、そんなはずはない。

 だが今考えてみると、センの最後交わした言葉はあいさつ代わりだったのかもしれない。

変な気分だったのは、あの状況に相応しくなかったからだろう。


 それならば、私にはやるべきことがある。

 だが彼女を

 ─


「センとは今のを最後にもう会っていないんだ。あの1日で何が起こったのかはわからない。でも、いや、だからこそ私は描き続ける。

 戦う前に約束したからね。

 ギロギロをたくさんの人に面白いと感じ、知ってもらい、広まり何処かにいるセンたちにもそれが伝わり、私はんだ。」


 正直言うと、また逢いたいさ。

 また認めてほしい、また認めたい。

だから向こうから探したいって、思われるものを描く。


「オオカミさん、お話してくれてありがとうございます。

 大丈夫、きっとこの場所に来てくれます。私もその時が来るまでずっとここを守っていますから。」


 アリツさんも覚悟を言葉に乗せてくる。

穏やかな娘の覚悟、重く私にも伝わってくるね。


「私も絶対に大丈夫だと思います!先生の作品はとても面白い、例え海の向こう側であっても絶対伝わります!!もし彼女を見つけたら真っ先に正体暴いてここに連れてきますから!!」


 キリンも、もっと経験を積んでいい探偵になって欲しいね。

私のおかげで探偵を目指したと言うのなら、作家冥利に尽きるよ。



「ありがとう。このお話を2人にできて本当によかったと思っているよ。」


彼女の手甲を掴んだ時に剥がれてきた刃のウロコ1枚。

手に持つそれが今も私を勇気づけてくれる。



┈先生は、普段出会った人からだれかれ構わずいい顔をいただきます。けど、先生にはそれだけ作品に対する覚悟と願いがあるんだと分かりました。

 センが言っていた*私たちのお話*って言うのは3人の*生みの親*のことではないでしょうか。なら、オルマーの出し方も解決したのですからこの先きっとセンは来てくれます。

私も一緒に探しますから、どうか先生の願いが叶いますように。┈



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