お話ししよ、私と。


 ─

『全く、なんで休憩しながら周りの片付けをしないといけないんだい・・・キミのマフラーもとんだ暴れ馬だよ・・・』


 出されたお冷もジャパリまんも置いたまま話すことに集中してしまい、少し休みを取ってそれらをつまんで休憩しているのだが・・・さっきキリンが散らした物を片付けながらになってしまった。


 実質むきゅー、もとい無休...いっそキリンとセン球でドッジでもしたいな、なんてね。


『ほんとにすみません・・・これは*暴れ偶蹄目*って種類の容疑者が首に─』 バシン!!


『私が寝不足だってことを忘れちゃダメだよ??』

『うぅ~・・・ごめんなさい』


 何とか彼女に手を上げず済んだ・・・今のは机を叩いての発散だ。(危なかったが…

 我ながらすごく早口で言葉を言ってしまった。


『でもセンさんは、そんな投げられぶつかってもビクともしないなんてとても頑丈なお体をお持ちですね』

 アリツさんが少し驚いているね。


『確かに、有鱗目の娘は基本丸まれば無敵ってくらい丈夫だからね』


 ヒトの世界では、銃ってのすらハジけるそうだからね。


 はぁ殆ど休憩にならなかった。まぁいいよ・・・まだ続くけどそろそろ聞かせてあげようか。ほら、アリツさんもおいで。

 ─


 当初の予定通り、まず私がセンの前方を先駆け、湧いてきた植物型のミニセルリアンを倒すことに集中する。

 私の役目は、センと本体を1対1にすること。彼女が本当に危ないと感じたら、即座に助けに行く。フォローが薄くなるとは言ったけどね。


 解放させ爪と牙を使って石ごと薙払い、蹴りで吹っ飛ばしたセルリアン同士を玉突きさせる。数が多くてもそれを利用し今のところ問題はない。


 彼女も少し小型を掻き分け辿り着けたようだ。


 しばし向こうで応酬が続く。後ろ目で見ていたが、やはり彼女は相手の攻撃を利用するやり方を主としているようだね。


 ものの3分ほどか。


 ガキィン!! ザン!!

「っし!今度こそしてやりましたよ!!」


 1本とのつばぜり合いの結果、右から振るってきた触手を見逃さずカウンターの要領で右手甲の刃を突き刺し、太く鋭い尾っぽの刃で断罪、見事に触手の1本を切り落としたようだ。

 器用な動きをするね・・・切り落とした腕からホースが暴れるように黒い液体が噴出している。


「ちぃ、黒いの付いちゃいました。競り合いで抑えた触手もアレしたかったですが。普段使うハンガーが何故か無い時みたく気分が悪いですね。」


 彼女も無駄口叩くほど余裕が出てきたようだ。私の方も、小さな分身程度なら1人でも十分相手にできた。よし、数も落ち着いている。


 だが。


 さらに倦怠感を感じる、動きはなるべく抑えているけど体力を使いすぎている感じに。どうも私の思ったとおりのようだ、彼女を呼び戻さないといけない。

 一方のセルリアンは、触手を1本落とされている割にダメージで仰け反るなどの格好にすらなっていない・・・。3本残っているからだろうか?不気味だね・・・。


「セン、一旦見失わない程度に奥へ身を隠す!こっちへ!!」


「いいところだったけど仕方ない、分かりました。」


 彼女もやっと冷静になったようで私の指示に従ってくれた。急いでサンドスター回復のために隠れてジャパリまんをかじる。だが、出会った当初みたくゆっくり食事というわけにもいかない。



「センは絡まれて見えなかったと思うけど、ヤツは地面に潜る時に周りの霧が晴れるくらい空気を吸い込んで潜っていた」


「多分、水に潜る時みたく大きく息を吸い込んでいたんじゃないですか?でも・・・」


 そう、今は再び濃い目の霧が立ち込めている。


「これは、霧ではなくて花の性質を再現しているならヤツの花粉か、それかガスだと思う。これであの娘も自由が利かなくなって、サンドスターをどんどん消費していたんだろう」


「回復に使い空気中に舞ったサンドスターを、さっきみたく吸って取り込んでいるんですね。植物が養分を吸い取るようにして。しゃらくさいですね。」


 少し汗をかきながらセンは言う。息遣いが荒い、サンドスターの消費が激しかったようだ。


「触手は1本1本相手にしてても時間がかかる。私がヤツのギリギリ届く位置で挑発をかまして、引きつけつつ周りの木に何とか絡ませる。

 私は速さに自信があるからね。その隙にセンが石を探しつつ身体を削って欲しい。

 もし、ジャパリまんのストックがなくなって身体に痺れを感じ始めたらいよいよまずいと思って離脱しよう!!」


 ジャパリまんを食べ終え、やはり身体は楽になった。だが、あまりアレにサンドスターを吸わせ過ぎてもその影響でこの先ヤツがどう変形するかも分からない。出来るならここで倒してしまいたい。


「・・・時間が惜しいですね、行きましょうか。最初にも言いましたけど危ないと思ったらオオカミは逃げてください。」


「だから!!キミも─」

「大丈夫です、私もちゃんと逃げるので。逃げる際はあの声を出してください。もう聞きたくないからこそよく聞こえます。」


 あの声・・・か。


 オオカミは、主に数匹のグループを作って行動する。寧ろ、1匹狼とは珍しいものなんだ。

 1匹でいる狼は食料となる獲物を力不足で取れないことが多く、もう耐えかねてか助けを求めるような遠吠えをあげることがある。


 その遠吠えをセンに教えたところ、とても悲しくなったという。

 感覚が、とても悲愴と理解してしまったんだね。だからこそ、だ。


「周りの小型どもも気をつけてね、1つ1つが弱くても障害物としては邪魔な機能をしている。なるべく私が何とかするけど斬りそびれることもあるから」


「何でも屋をやっていたんですよ、これでも臨機応変には自信があります。障害物は利用してなんぼです。」


 やる気だね、やはり今日で区切りをつけたい。二人で言葉を交わしつつ周りの様子を見る。

 向こうで元オルマーが相変わらず鋭い目つきを向けている。


 ・・・?私のいる方向がセルリアンと重なっているのか。きっとさっきも重なっていたんだろう。



 どうも私が睨まれているように見えてしまった。いけないいいけない。




 ──。。。…

『キミが、私を忘れさせようとするきっかけになっているんだよー。奪われておんなじ立場になっちゃえば、もしかしたら私とは意思疎通ができるかもしれないよ?


好きなことのためにお気楽に生きて、周りからチヤホヤされて。それってすごい嬉しいことだよね、でもそれを言えないし探しても貰えない私からみたらさ、伝えたいことがいーっぱいあるんだよキミには』

 ──。。。…


 最初、会った時と立場が入れ替わった。私は触手をいなす役目に、センは石を見つけ倒す役目。

 時間はない、ジャパリまんは多く持っても動き回るのには不便だ。必要最低限、両裏ポケットに残り2個!!


「セン、ヤツの後ろ頼んだよ!」

「オオカミこそ、挑発の言葉よく考えておくんですよ!!」


 言葉が伝わるのか分からないが・・・私は即座にセルリアンの眼前に着く。

 多分その言葉なんか考える必要も・・・


 ボ ゥ ー ン !!


 ないね。即締め上げようと3方向から触手を振るってきた!!!

 私にはあいにく彼女みたく受け止めてやり返すような力はない。独特な距離を保ちつつ地を蹴って避ける!!

 私と木々で触手に分からせてやる。あとせっかくだ、そこら辺の子分身も盾にさせてもらう!!


 が、一応言ってみようか。ここで挑発文を思いつくあたり私もどうかしていると思うよ我ながら。


「3本の手で豆も掴めないのかい、いい笑いのネタとして描かせてもらうが!」


 セルリアンに感情があるかは怪しいが、得意げになれば私も少しは精神的に元気が出るだろう。だが、いい顔はいただけなさそう。残念でした。


 センはセルリアンを挟んで私と対称位置を取りつつ、本体背後を爪と刃で削りながら付いてきている。短い癖に屈強で脚チョンパには出来ないか。

 ただ、一向に弱点を突いたように見えない。セルリアンも彼女に構わず私のみに攻撃しつつ霧を吸い込み・・・


 あの様子は私たちの消費した砂星を吸っているね、嬉しくないな。幸い腕が再生するなどの様子は今のところないが・・・


 さらに動作で挑発をかけつつ、私を犯そうとよく伸びた1本の触手、こいつをすんでのところで交わし上手く4本の木々に絡まってくれた。よし、簡単には解けないだろう!

 残り2本!


(オオカミもやりますね。ですが、弱点の石?…どうも見つかりませんね。

 正面はオオカミと私で確認したから言わずもがな、背後は・・・後はお股か頭頂部か花びらの裏側か・・・その部分にないとしたら多分・・・これはいよいよ私がまた…。)


 よし、もう1本このままどうにかしてやる!引き付けつつ振り下ろさせ、後ろに引く!!



 !?



 避けた先に木の陰で見えづらかったが元オルマーがいる!?どうやら彼女の隠れていた先まで引いてしまったようだ。


 何とかぶつからないように両足でブレーキをかけ、オルマーを両手で担ぎ上げジャンプで逃げ切った。触手の牙だか爪の部分が上から下へ背中を掠める、危なかったねキミも。


 ──。。。...

『意思疎通が出来ないから、この妬みに気づけず結局私を助けちゃったねーきみは。

 分かる、分かるよ。こんな森にいるんだから私が移動したとしても気づけないでしょ、君と話がしたいんだ。

 すっごくとってもどうしても!!!』

 ──。。。...

 元オルマーが私をじっと見ている。残念ながらこの真意を汲み取ることは出来ない。

 でも、キミの唯一のパートナーは絶対自由にしてみせるから。

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