元凶
探してよ
─
『はぁはぁ、あっ…はぁ・・・先生いきなりそんな褒め方しないでください。死んじゃうかと思いました!!』
褒められたキリンが照れながら頭を抑えて、首を振り狂喜疲弊していた。
その勢いで首の、長いマフラーが部屋を荒らす。眠たい身体だが、何とか原稿は守りきったよ・・・。
『はぁはぁ、アリツさんすまない・・・後で私も片付けておくから』
『キリンさんもおだちすぎです!ちゃんと反省してくださいね!?』
『うぅ~、ついつい・・・すみませんでした』
いきなり不意打ちした私も悪いのかもしれないが、キリンは油断するとすぐこれだ・・・。ご愛嬌として何とか許してあげよう。
─
霧がかかる道の先で待っていたのは、少し横を向いた私たちより2倍あまりの高さはある存在。
頭が8枚ほどの花びらの形をしていて4本の触手と、屈強な胴体に不釣合いに短い2本の脚を持った赤黒いセルリアン。
赤い血流のようなものが身体に刻まれていて顔が横広く、当然のように単眼でとても不気味だ。
・・・遠くで元オルマーがギィーと唸り声のようなものを上げてこっちを見ている。
野生の勘は、コレが元凶だと言っているんだね。
「はぁ、つくづく花の形したモノと縁があるんですね、私は。」
センの言葉に少し疑問を感じたが、このセルリアンと対するだけで状態に異常をきたすと聞いている以上気を抜けなかった。セルリアンもこちらに感づき、獲物を取るように構えてくる。
体力の基になるサンドスターの欠乏か、やはり何らかの異常が原因か。
サンドスターはフレンズの体内に存在しているが、傷を負った際はソレを消費することで素早く治すことが出来る。
ジャパリまんや他の飲食物を摂取することで体力となるサンドスターは供給することができる。だが、寿命に関与するモノとは別問題で、食べていれば長生きするということにはならないらしい。
傷や異常をきたし続けると、治すためにソレを消費し続けてそのうち姿を保てなくなる。
私たちが最初出会ったように2人で対象位置に立ち、前から攻撃をいなす役目と後ろで石を探す役目に周る。長期の戦いは望めないだろう。
センはあの時同様前から受ける役目に回った。私は後ろから石を探すが・・・通常背中など後ろにあるはずの石は一目で見つけられない。
それにしても妙だ、確かに少しフラフラするような感じがする。
彼女も何故か上手く力を出せないらしく、脚で触手を踏みつけてやりつつ鎧とスパイクでカウンターを取る。
触手をちぎってやろうと1本をいなしつつ引き裂こうとするが、力が足りず1本2本と捕まってしまった! まずい!!
瞬間、セルリアンは周りの霧ごと大きく周囲の空気を吸い込み、身動きの取れないセンを掴みつつ地面へと潜ってしまった!!
普段から探索で見つけられなかったのはこれが理由か。
耳で何とか感知はしているが、右へ左へ、或いは後ろへ地中をすごいスピードで移動している。彼女は多分地中でも大丈夫だろうけど・・・
それにしても、セルリアンが地上からいなくなったら体調が少し楽になった気がする。息継ぎをしていたので何処かに出てくると考え、だが見失うといけないので地上から追いかけるが・・・
意外と、小賢しく蛇行を繰り返しセルリアンが少し離れたところから地上へ出てきたようだ。
瞬間、
「むうっ!! オオカミ、私を避けて!!」
位置は大体わかっていたが、後方からセンの警告が聞こえる。
セルリアンは締めつけ絡めた4本の触手を思い切り振りかぶり・・・
センをぶん投げてきた!!
速い!!! 彼女は膝を畳み、腕を顔の前方で縦にしている。防御体制だ。
だが文字通りの球状、全身刃付きの球体・・・
あれでは凶器だ!!急いで傾身、避けようと─
スバァン!!
「イ゛ッだぁ!!」
少し右肩を掠ってしまった。刃状ウロコの、外側の部分をえぐってかなり痛い。センは、木に叩きつけられていたがどうにか無事のようだ。
流石鎧の毛皮をしているだけはある。
「うっ…オオカミ、大丈夫です?すみません、オルマーの毛皮なら切り傷も負わなかったのに・・・!」
「右肩がかすっただけだから大丈夫、それにこれならすぐに治るから!センこそ大丈夫なのかい!?」
私の右肩は少々出血している。センも衝撃でフラフラしつつ、それでも私に謝ってくるが─
瞬間、向こう側で複数ぼたぼたと何かが落ちる音がする。
・・・?セルリアンが頭から滴みたいなモノを撒き出している。それらは地面に落ち・・・
「あれは・・・気をつけてくださいオオカミ、分身を生み出してきます!こざかしい!!
オオカミは分身をヤってください、私はもう一度本体に向かいます!」
地面に落ちた無数の雫状の物は、一瞬で小型の植物のようなセルリアンになる。こちらを認識しゆっくりだが迫ってくる。
このセルリアンは、やはり植物の性質を再現しているようだ。だがそのくせして本体は太く頑丈そうに肥えている。サンドスターを奪っている影響か?
さらに、先ほどセルリアンが肺活量を活かして霧ごと空気を吸い込んでいたはずなのに。
・・・
「セン、一応伝えておくけど余りにも疲労するならジャパリまんを摂りながら戦わないとだめだよ!!それと・・・少しおかしいんだ」
「何がです?ドッジの球にされたんで少しやり返したいのですが。」
センは、こちらの話を聞くよりも自分を球にされたことに少しイラついている。
立ち向かっていくことをメインに考えている。
「元何でも屋で、普段冷静なキミがそんなカッカしてていいのかい?」
「何とでも言ってください。私で仲間が傷を負わされて少しキてます。根絶やしですよ。 で、さっきの話、何が少しおかしいんですか?」
「…いやいい、まずは向かっておいで。だめだと思ったら急いで戻って、そしたら話してあげるよ。もちろん周りのは私がやるから、ちゃんとUターンを考えてね?」
私なりの、せめて無理をさせない方法だった。もう、センは次が通用するかどうかを試す方向に見ている。でも会った時みたく無理はさせたくない。
だからこそ、あえて勿体ぶる内容をちらつかせてなるべく戻らせる方法を選んだ。
─
「確かに、センさんは少しなりふり構わないところがあったのですね」
アリツさんは、私の言葉だけで的確に汲み取れているようだ。
でも、彼女には彼女の絶対に譲れないところがあったのだろう。
(セルリアンが利口とは思っていないので敢えてこう言うが、)図らずとも自分を利用されたのは、流石にキていたんだ。
「無鉄砲なところはあったけど私が傷つけられたと言うのが気に入らなかったとも言える。仲間思いなんだよ彼女も」
「そういえば先生こそ、話すことに集中しすぎるのもいいですけどしっかり一息ついてくださいね!?まだジャパリまんもお水にも手を付けていないじゃないですか!!寝不足なのに此処まで話し込んでくれて・・・」
一つのことに集中しすぎちゃってキリンに少し叱られたね。私こそセンの事言えないじゃないか。
少なくとも、誰か思う存在のために動くというのは、素晴らしい原動力になる。
ふと今思ったが、センもまた同じ感覚だったのかもしれない。その存在が、私なのかはわからないけどね。
でも自分を認めてくれた存在を、危ない目に合わすなんて本当はさせたくないよね。そちらが助かればまずはそれでいいとさえ思っていた。あとでどうとでもできる
─
━━。。。…
『私はセンちゃんに危ない目にあって欲しくなかった。だから安心させるため先に行かせて私だけで立ち向かっちゃったんだ、負けることはないって思ってたから。
その結果センちゃんはさらに危ない行動をするようになっちゃって。最初から、理解し合えるパートナーなんだから力を合わせるべきだったのに私は間違えた、判断を間違えちゃったんだ。
我慢なんかする必要ないのに本当はそうあるべきなのにこの世界は
でも、センちゃんも私の事を第一に考えて動き回ってくれるのは嬉しかったなー。私を奪った元凶を、私を想って探してくれて。
でもでも、キミが出てきたから彼女は私の事以外も考えるようになっちゃった。仲良さそうにもして、しかも私を想ってくれている原因を取り除こうとしちゃって。センちゃんが私を忘れようとしてる。
それって私はあまり面白くないんだよねぇ』
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