認めてくれた。
─
最初、取材の事を少しでも考えていたことがとても愚かに思えた。
面白いことを見つけるために生きている私が、彼女の前にいるのも申し訳ないくらいにさえ感じたよ。
気づいたら、少し日も落ちて来ていた。
そのせいか西陽混じる彼女の姿は何だかとても儚く感じて・・・
でもそんな中で彼女はこう言ってきたんだ。
「ふふ、いい顔ですね。冗談です、すみませんでした。
久しぶりに誰かと話せて、私もついつい嬉しくて魔が差しちゃいました。」
冷静で口数少ない娘がいきなり冗談言うのもなかなか心臓に悪い。
でも確かに、彼女は少しこの時笑いながら言っていた。
キミもなかなかいい顔だったよ・・・。
あの時の私は本当に手玉に取られていたのかもしれないね。もうネタ探しなんてモノよりも─
「キミの、力になれないだろうか。一人で探すのも難しいだろうし、多分このままだとそのオルマーの二の舞になってしまう」
「・・・いいのですか?オオカミが私を手伝う義理なんてないはずですが。」
確かにそうだが、もう彼女とは切ってはいけない関係になってしまった気がした。
ここで別れれば自分はセンを見殺しにしてしまう、きっと。
「オオカミ種族はね、仲間意識がとても強いんだ。言わずもがな私もその一人、もう仲間だよキミも。そこまで話してくれた以上ね」
「仲間・・・ですか。…ありがとう、ございます。」
─
「先生にとっての、先生みたいな方なんですか?そのセンは」
突然キリンが私に聞いてくる。あまり深く考えずともそう聞いたのだろう。
彼女も、やはり相当の感性を持ち得ているね。
「それは分からない。でも私の振る舞いや感性は、少しセンの影響を受けているのかもしれないな」
すると、後ろの方でさらにノックをしつつ静かに扉の開く音がする。
「あ、オオカミさんにキリンさん。入っても大丈夫でしたか?
お水でもどうかと思いまして、はいどうぞ」
「あ~、アリツさん!どうもありがとう!!
アリツさんもほら、博士たちからチョコジャパリまん差し入れあるから一緒にどうぞ!」
「あら、わざわざありがとうございます♪」
おや、聞き手がもう一人増えたね。彼女はアリツカゲラのアリツさん。
最初にも少し紹介したがこのロッジを切り盛りしている。
穏やかな鳥のフレンズで、巣などの住処がとにかく大好きな娘なんだよ。
「アリツさんも、私の話を少し聞いてくれないかい?
せっかく部屋を借りているんだ、これくらいお礼をさせて欲しい」
そう言って、アリツさんも席に加える。今は、ロッジにお客もいない。何かあれば呼び鈴がなるだろう。
日頃お世話になっているこの二人には、ぜひ私の昔話を共有して欲しいと思っていた。
「オオカミさんのお話ですか・・・普段の怖いお話はもうやめて下さいよ~?」
少しムッとした顔をしてアリツさんは私を見てくる。はは、可愛いコだ。
大丈夫。飽くまで昔話だからね。さぁ、ほら。
─
日が落ち闇深まり覆う中、休息の時間は絶対と決めているセンは、周りから見つかりづらい詰所・・・今ではもう住処と呼んだほうがいいか。そこに案内してくれた。
「ようこそ。私の住処にお客さんが来るのは本当に久しぶりです。」
背丈のある草むらが周りにあり、巨木の下にそれらをかき集めて作られた住処があった。
何かが近づこうとも音で判断も出来、上空からセルリアンが来たとしても、こちらの場所を悟られにくい。
住処には、一人が占有できる程度の木で作られた作業用に見える机と椅子があった。
クルミの木で作られた椅子だそうだ。
長く使い古されたように色あせ、隅には束ねられた紙が分厚い層を形成している。
だが、用途を失ったかのように薄汚れてしまっていた。何でも屋をやっていた時の紙なのかな。
ジャパリまんと、竹を切って作ったコップにセンが水を注いで持ってきてくれる。
「ありがとう。随分と遅くなっちゃったね、本当はもう少し探索したかったんじゃないか?」
「いえ、構いません。ただ毎日同じようなことをしているよりも、こうやって普段と違うことにめぐり合うのもいいものですね。
久しく、わすれていました。」
月がとても明るい。周囲が背丈のある植物に覆われていても、それを縫うように光は私たちを照らしてくれて、お互いの存在はちゃんと確認できるくらい。
「そういえば、オオカミは普段何をしているのですか?あんな人気のないところを通るのは珍しいですよね、聞かせてください。」
やはり、聞かれてしまうものだな。嘘はつけない、もちろん私は正直に答えた。
絵を描くのが楽しいと思ったから、描きつつ活かせる話題がないか探し走り回っていたこと。丁度なにかを見つけられるかと思いあの場所を駆けていたこと。
執念で生きる彼女にとって、私の生き方なんて自由奔放で腹立たしく思われる。
そう感じてならなかった。
でも、センは私にこう言った。
「自分の「好き」に正直でいて、したいことに忠実でいてその為に生きる。
オオカミは本当に自分を大事にしていますね、かっこいいです。
私なんかとは大違い。」
皮肉かあるいは私を賞賛してくれた。
褒められるようなことをしているなんて殆ど思っていなかったのに。
「キミは、こんな私を認めてくれるのかい?かく言うキミだって他フレンズの為に動いていたじゃないか。私なんかが─」
「いえ、きっと誰も出来ないことを貴方は出来ます。何でも屋をやっていた私でさえオオカミには絶対かなわないこと。」
私の意気地なしな言葉を遮りつつ彼女はさらに言う。
「オオカミの「好き」を貶めて、ひがむ存在がいても真っ直ぐ向いて目標に進んでください。例えば誰かを笑わせる、幸せにする、はたまた怖がらせる・・・絶対望み通りに報われます。
あぁ、行動で言いたいことをもっと強く示せればいいのに。
もし良ければ私のことも描いてくれませんか?ほらこことか・・・ギザギザして描きにくいかと思いますが♪ きっと彼女も喜んでくれます。」
そう言って、私の左方向から何か4足の動物が草壁をかき分けてこちらに姿を現した。
その動物もまた、センと同じくらい頑丈な硬皮とウロコを持った動物で、背中には自前らしきプロテクターを縛って付けてある。
野生動物には不似合いな装備だが、妙に馴染んでいるように見受けられる。まさか・・・
「彼女は私の唯一のパートナー、愛称がオルマーだった子によく似ている動物です。
でも、さっきも言いましたけどおかしいですよね。この動物は、私を初めてあった風にはみてないんです。私もまた然り。
ほら、これは私がつけてあげたプロテクターなのに全然嫌そうにもしてません。」
確かに、この動物は迷うことなく此処へ来ているようだ。
・・・元オルマーらしい瞳が私を見ている。話せずとも、何かを訴えているかのように。
動物だって、私たちとは意思疎通の仕方は違うけど・・・それでも忘れられず切れない繋がりってあるのかもしれないね。
元オルマーと認めざるを得なかった。
─
「センさんのことは、オオカミさんはどうしても止めることが出来なかったのですか?」
途中から入ってきたアリツさんが聞いてくる。
「あぁ、彼女はどうしても奪ったヤツが許せなかったんだよ。
私も、その元オルマーの目を見てるとどうしても一緒に立ち向かいたくなった」
「私なら、そのオルマーさんの立場だったらきっと敵討ちは望みません。
一人で向かうっていう自分の判断違いでそうなったのですから」
少し厳しいことを言うねアリツさんは。
でも、巻き込みたくないという考えと、自分は負けはしないと言う慢心から来てしまったのなら一理あるか・・・。
「そのセンも、先生の事を良く分かっていたんですね!!
して先生がもし奪われたら、私もじっとしていられないと思います。その先は、やっぱり分かりません」
何故かキリンは最初、少し悔しそうに言ってたがどうしてだろう。
でも確かに、キリンもまた正しいんだ。
元々、とても口数が多かったらしいオルマーはどれほどの事をその目で訴えたかったのだろうか。
一緒に自分の敵を打って欲しかったのか?あるいは、やはりセンを止めて欲しかったのか。
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