邂逅
行動で
───
昔の、この頃の私は丁度絵を描くことが面白いことだと感じていて、それに付与出来る面白い話題がないか、この島を駆け巡っていたときなんだ。
昼下がりの明るい時間だが辺りに存在感もなく、ここも通り過ぎようかと思っていたその時、ちょうど背が高めの草地の向こう側で何かがぶつかり合う、つまり戦っている音が聞こえた。
私は耳と鼻には自信があるからね、迷わずその場所にはたどり着いたよ。
向こう側では中サイズくらいの、触手が長いタイプの青セルリアンと1匹のフレンズが相対していた。
遠目でみても分かった特徴・・・彼女は丸い帽子、手甲、スカート型の毛皮にとても鋭い刃状のウロコの鎧を・・・、ってもう説明は必要ないかな。
彼女こそギロギロのモデルだったんだ。
そのフレンズは、手甲の毛皮をセルリアン側に逆立てて器用に触手を捌いてた。けど近づけなさそうな感じだったんだ。
「キミ!大丈夫かい!?すぐ私も入る!!」
すかさず私も入ろうとはしたが、彼女は言った。
「ん、危ないですよ。私は大丈夫、来ないで結構です。」
少し冷たくあしらわれた。あの時のそれはあまり気分の良いものではなかったね。
─
「何ですかそれ!?先生が助けようとしたのに来ないでって、ひどすぎます!!」
キリンも少し怒って私に言ってくれるが、まぁまぁ話を続けるよと言葉を返す。
─
だがその状況で、はいそうですね。 って引き下がるわけにもいかない。
それで彼女が取り込まれでもしたら寝覚めが悪いからね。
私はセルリアンの後ろに周って、砕く石を探すことにしたよ。
その瞬間、セルリアンも痺れを切らしたのか彼女の元へ突進していった。
押しつぶす方が手っ取り早いと思ったんだろう。
だが、彼女はこれを狙っていたんだ。
「感情すら、行動で示しますから。」
眼が思い切り光り、彼女も走り出して平泳ぎするみたく腕を合わして前で伸ばしてジャンプし・・・
セルリアンの体内に突き刺さって、泳ぎで腕を広げるようにして一瞬で引き裂いていた。
ちょうど対称位置にいた私から言わせてもらうと、あれこそホラーだったね。
目の前で体内から突き破って出てきたようなものが見れたから。
石を砕くとかそんなレベルじゃない。
ただ、その時の彼女は冷静そうに見えてとても怒ったような顔をしていた。
私にはそれが何でなのか、その時はよく分からなかったが。
─
「え、そのフレンズは一度セルリアンの中に入っちゃったのですか!?」
「いや、鋭いウロコと爪と自分自身が突き刺さって、引き裂いて真っ二つさ。野生開放でその力を上げていたんだろう」
キリンもすぐには理解できず聞き返してくる。余程危ない戦い方だったからね。
─
「キミ、大丈夫かい?」
「今のも違うセルリアンですか。私も結局無事のまま。」
私の声は殆ど無視した状態でそんなことを彼女は言った。
今度は少し悲しそうな顔をしていたな。
・・・
「私を気遣ってありがとうございます。先程は失礼しました。」
相変わらずあまり明るい感じではなく、おとなしい冷静な子なのだと感じた。
せっかくだから私も話を聞くことにした。この頃の私は取材みたいなこともしたかったしね。
「私の名前はオオセンザンコウ。センと呼んでください。
前は、ダブルスフィアと言う何でも屋をやっていました。
文字通り、頼まれたことを仕事にしていました。
これでも、行動で以て示すをモットーにしているんです。」
「私はタイリクオオカミと言う。キミのように決めている愛称はないから、オオカミと呼んで欲しいね」
こっちまで俯き加減で言うと、場が暗くなりそうな気がしたから少し前向きに振舞う。
だが大人しそうに見えて、行動で示すとは中々いい考えを持っている。
博士が言うには、座右の銘って言ったかな?
近くにあった岩場にて、腰をかけてボスにもらったじゃぱりマンを2人でかじる。
「久しぶりです、こうやって誰かと食事をするなんて。」
「キミのさっきの戦い方といい、今といい、なにか危なっかしいものを感じるよ。
あんな戦い方はもうしない方がいい、セルリアンだって弱点はあるんだ。
それを探す戦い方をしないと、いつか君はフレンズじゃなくなってしまう」
センの戦い方は本当に捨て身だった。そこまでする戦い方は、セルリアン相手では必要なんてないからね。
「そんなこと分かっています。
…私にはかつてパートナーがいました。彼女は私と対照的に口数がすごく多くて、でも私たちの役に立てるようとても頑張っていた子でした。」
私たちって言うのは、セン自身とお願いしてくる客さんのことだろう。
だがこの時から、このセンには少し過去形が多いと私は感じていた。まさか─
「そのパートナーは、まさかもう」
「えぇ、セルリアンに何もかも奪われました。でもおかしいんですよ。
私のパートナーはオオアルマジロ、オルマーって言うんです。絶対防御を形にしたような彼女が、セルリアンなんかに倒されるわけがない。」
「ん・・・?聞いた感じだと、彼女がやられたところをキミは見ていた訳ではないんだよね。
でも何で彼女は奪われたって分かったんだい?それなら、そのオルマーがやられたって決めつけるのは」
遮るようにセンは私に言ってくる。
「私たちは、普段から周りが森林などの場所を詰所にしています。セルリアンに見つかりにくいことと、休息は絶対のものとするために。
その掟を、奪われて元の姿に戻ってもしっかり守って私の居る所へ戻ってきたんですよ?
傷だらけになって、わざわざ自前で作ったお腹のプロテクターまで咥えて持ってきて。
もう彼女は話せません。でもそこまでされて、それでもそれがオルマーじゃないなんて言えますか?」
口数が少ないはずのセンが、少し早口でまくし立てて答えてきた。
「オルマーは、役に立つことと私に手を煩わせたくなかったんでしょう。
一人でソレを相手にしてそして奪われた。
ウロコの傷は致命傷なんかじゃない、なにか別の性質があったに決まっています。」
─
「え、でもオオアルマジロって今は平原に居りますよね?」
キリンが当然のように質問をしてくる。
「あぁ、今言ったようにそのオルマーは確かにセルリアンに奪われたんだよ。
残念って言ったらアレだけど平原のオオアルマジロは、サンドスターが当たって生まれた別種の娘だ」
「そうですか・・・何かの間違いで…無事でいた、とかではない…のですね」
キリンが少し涙目に残念がっている。はぁ、全く優しい娘だ。
原稿を博士の所へ持っていった時に、そのオオアルマジロの事を聞いたからへいげんまで行って確認したが、彼女はセンを知らなかった。
─
「まさかそのセルリアンって、まだ倒されていないのかい!?」
オルマーがセルリアンを倒せるかどうかはともかくとして、倒されるわけがないフレンズが奪われたのならセルリアンも普通ではないモノをなにか持っているに違いない。
「私も、何でも屋として顔は知れていると自負しています。他のフレンズからその情報は貰っていません。
なので、何処かでセルリアンはまだ隠れて活動をしているんでしょう。見かけたフレンズを確実に奪うなどして。」
それならば目撃情報が薄いのも頷けるが・・・
そこでふと、先ほどの無茶な闘い方を思い出し私は予想がついてしまった。
自分で言うのも難だが、こういう勘の良さは心臓にもあまりよくないよ。
「…センは、そのセルリアンを探しているんだね?自分自身の身を以て」
センは、この時確かに私から少し目をそらした。彼女は何を思っていたのだろう。
「オオカミは賢いんですね。私は、パートナーを奪わせてしまったことをずぅっと後悔しています。2人でいれば絶対助かったはず。
ならば、私の過ちは自分で取り返さないといけない、ですよね。」
センは、オルマーと同じくらいの頑丈な鎧を持つフレンズだ。攻撃に使える刃があるから防御は少し薄れる程度。
だから自分の身体と性能が通用するかどうかでパートナーを奪ったヤツを探していたのだろう。
通用しなかったら・・・なんてことはもう彼女は殆ど考えられないほど追い詰められ、いや自棄になっていたのかもしれない。
「でも、果たしてオルマーはそんなセンを見てそれでいいと喜べるのかな?」
ある種の牽制のつもりとは言え、何処かでよく聞いたような言葉を吐いてしまった事はわかっている。でも・・・
「例えば、オオカミには本当に大切なフレンズとかいますか?
もし、いるのにそのフレンズの最期も看れないで、奪ったヤツがのうのうとしてるのを我慢できるって言うのなら。」
冷静なはずのセンが物凄い眼をして私を睨みつけてくる。
「今すぐに私とぶつかりましょう。貴方はセルリアンと同じふうにして私から奪わないと、この私は止められませんよ。」
彼女は、行動で以て示すフレンズ。
言葉ではもう覚悟は曲げられないくらいになっていたよセンは。それほど唯一と思えるパートナーだったのだろう、オルマーは。
─
「キリン、逆に私から聞くけど もし私が奪われたのだとしたらどうする?キミなら」
「え・・・!?私なら、ですか!!?」
キリンは、深く考え込んでいる。
まさか自分に質問が来るとは思っていなかったのもあるのだろうが、それでもしばらくしてその深青色の眼を真っ直ぐこちらに向け・・・
「分かりません!考えたこともないし想像もできないです!!」
「うっふ!あっははは!!」
「先生ぇ!? 私は、私は本当に真面目に!!!」
普通なら、ズッコケる場面だろう。
だが、私もわかっているよ。確かに真面目に向き直りキリンに訴える。
キリンには果たして、私はどう見えたのだろうか。
「キリン、それが正しいんだ。自分がどうなってしまうのか分からないくらい、予想もできないことなんだよ。大切に思っている存在がいなくなるなんてこと」
だから、今目の前にいるセンをもう引き止めるだけの行動は私には起こせなかったんだ。
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