第26話 話を聞いてみれば
お互いの記憶を話して情報を共有する、それが目的だった。
でも、ついつい感情的になっちゃって話が飛ぶわ前後するわ、「なんで裏切った!」「そっちこそ!」と言い合いになるわ、今生と前世をまぜこぜにして文句言い合うわで、もうめちゃくちゃだった。
そんなだから、私とリートが互いの記憶を一通り話し終わるまでに、かなり時間がかかってしまった。
私が話している時にはリートが、リートが話している時には私が、ツッコミとかツッコミとかツッコミをいれまくったんだから当然よね。
で、睨み合う度にピピにとにかく話を進めましょうと諭される始末だった。
それでもなんとか一応、情報の共有はできたと思う。
しかし、聞けば聞く程落ち込むばかりだった。
リートの話を聞けば、少しは思い出すかと思ったけど全くだめだった。つい「そんなのあり得ない!」と叫べば、「嘘じゃねえ!」と怒鳴り返されてしまったし。
だけど、信じろといわれても無理なのだ。
私が目の前でリートが殺されるのを、じっと見ていただなんて。
――信じられない……。そりゃ、全然覚えてないのに断言するのもヘンだけど、私がリートの処刑に黙ってられるわけないもん。今聞いただけでも、すぐに止めに行きたくなったくらいなのに。それにミランかぁ……。やっぱりあの従兄のミランなのかなあ。
私は、はあぁと長いため息を吐いた。
リートが恨むのも無理もない。彼からすれば確かに私は裏切り者なのだから。
私としては、何かおかしいと思うし納得できないし、絶対冤罪だと思うのだけど、記憶がないから証明もできないのだ。
逆にリートも、私の話を聞いて同じことを思っているに違いない。憂鬱そうな顔で、彼もため息をついていた。
「要するに俺たちは愛しあ……ゴホン、なんかちょっと惹かれ合いながらも互いを裏切ってしまい、裏切られた方は死んでしまったってことだな。そして、それを少なくとも二回繰り返している、と」
リートは大ざっぱに話をまとめた。
そんでもって「愛し合って」って言いかけて止めたな。なんで止めるかな。そんなに否定したいか! 別にもういいけどさぁ!
流れは大体、そんな感じだろう。私もリートも裏切ったのではなく、何か不可抗力によって結果的にそうなってしまった、という可能性も含めればより正しいまとめになると思うけど。
「で、ここからが本題ってわけだ。ピピ、神様と話してきたんだろう? 一体なんだって俺たちは転生を繰り返して、その度に不幸な目にあってるんだ?」
リートが真面目くさった顔で質問した。
そう、これを聞きたかった。ずっと聞きたくてうずうずしていたのだ。
私はピピに向き直り、ジリジリとにじり寄った。
「教えて教えて!」
「あい、まじゅ、前にもお話したように『運命の書』によると、お二人は幸せな一生を送るはずだったのでしゅ。でも手違いで運命が変わってしまったのでしゅ。天界は大騒ぎになったのでしゅ。しょれで神しゃまは急いでお二人を転生させました。転生と同時に『運命の書』には新しいお二人の運命が記され、今度こそ幸せになるはずでした。でも、また二回目の手違いが起きてしまい、しまったーーってことで再び転生させて……といった具合に転生を重ねて今に至る、ということなのでしゅ……」
「はぁ?! ちょっと、ちょっと待って! 何それ、手違いって神様サイドだったの?」
これはもう、絶対の絶対に神様の失敗だ。しまったと思って転生させたって……なにソレ。自分が何か失敗しちゃったから、お詫びにって転生させてあげたヨーン、とか言っちゃうんだろうか。
「私たちがなんか間違えたとかじゃなくて、その神さまだか何だか知らないけどそっちの方での手違いだっていうの……?」
「あう……そうなのでしゅ」
「そんな……」
――迷惑なんですけど?! 迷惑なんですけどぉぉ?! めっちゃ迷惑なんですけどぉぉぉぉ?!
ずずーんと落ち込んでしまう。肩に岩石が乗ってるみたいだ。
神様って一体なんなの、全く万能ではないみたいだし。この世の全てが、なんだか信じられなくなってきて、虚脱感に苛まれてしまう。
「……手違いさえ起きていなければ……いくつか前の前世でちゃんと『運命の書』通りの人生を全うしていたら、転生は繰り返されていなかったってことよね。……ああ、もしかしてその場合、今生の私たちは存在しなかったってことになる?」
「あい、そうなりましゅ」
今の私とリートはやり直しのやり直しのやり直しの人生を生きているというわけだ。そう思うと、更に虚しくなってきた。
ふうとため息をついてちらりとリートを見ると、不機嫌極まりない顔をしていた。
「で、結局その手違いってなんなんだ?」
ピピはなんだか言いにくそうにもじもじと俯いてしまった。こんなことになったのは彼女の責任ではないし、責めるつもりはないんだけど、早く知りたい。
じーっと見つめていると、ピピは蚊の鳴くような声で言った。
「神しゃま、教えてくれましぇんでした……」
「はあぁぁ!?」
「しゅみません……」
なんてこったと頭を抱える。そこが一番知りたかったというのに。自分が失敗したくせに肝心なところを教えないなんて、いや自分の失態だからこそ言えないのかもしれないけど、貴様それでも神様かとメラメラと怒りが湧いてくる。
ほら、リートも拳をブルブルしてるし、額に青筋立っちゃってる。
私たちの表情に恐れをなしたのか、ピピは必死に話し続けた。怯えさせて本当に悪いなって思うんだけど、こればっかりは腹立つってもんでしょう。
「あの、あの……。神しゃまは、教えてあげたいけど今は教えることはできないって言ってましたでしゅ! えっと、えっとでしゅね、今生はとても上手くいっていて、だからお二人は幸せに暮らせていたのでしゅ。ピピは、お二人の幸せを確定させるために遣わされたんでしゅけど、実はもう一つお仕事があって、しょれはお二人に記憶を取り戻させるためだったんだそうです。ピピも初めて聞きました! 神しゃま、出発前に話すの忘れててごめんねって言ってたでしゅ!」
――ああぁぁぁぁ、神様ぁっ! あんた、ポンコツかーーっ!?
「チューしたらゴッツンして記憶を取り戻す、というのは神しゃまが仕掛けたことだったんでしゅ。記憶を取り戻せば、自然とどうすればいいのかお二人なら分かるはずだったらしくて。でもまだ全部思い出してないみたいでしゅって報告したら、しょのうちに思い出しゅと思うよって神しゃま言ってて、でも心配でしゅって言ったんでしゅけど、大丈夫だよって笑ってましたぁ!」
ピピは一息でしゃべって、ハアハアと肩で息をするのだった。
「わ、笑ってたんだ……」
「マジかよ」
「ねえピピ。それ、ホントの本当に神様なの?」
「俺も思った……」
「あ、あの……ちゃんと神しゃまですよ?」
神様に期待し過ぎたのが悪いのか、まめに聖堂に通ってお祈りしなかったのが悪いのか。とにかくガッカリ感が半端ないのだった。
神様を当てにできないことだけはよく分ったので、自分たちで状況を整理するしかない。
で、話し合った結果、繰り返す転生は新しい順に『今生』『学園に通っていた前世』『アベールでの前世』『思い出せていない前世』になるのでないかということで落ち着いた。
『思い出せていない前世』とは、私とリートそれぞれの前世で「今度こそは」発言をする元となった記憶『添い遂げられなかった前世』のことだ。
この順だろうという理由は、主にアベールでの私とリートの言動だ。
私ニアは、リートの褐色の肌をとても美しいと褒めていたらしい。ゆえに、次の転生では褐色の肌に生まれたのではないかというのだ。確かに私は、好きな人と同じものを欲しがる傾向があるので、この意見は否めない。
そしてリートは、あまりにも大きすぎる身分差を悩んでいたそうだ。そりゃそうだな、奴隷と姫だもんねぇ。で、転生後には、私とリートは同等の地位にある伯爵家に生まれたんじゃないかって。
若干、理由が弱い気もしたけど、ピピの情報がこの説の後押しをしたのだ。
転生を決めて実行するのは神様だけど、私たちの前世での行動や思いも転生に大きな影響を与えるというのだ。こうだったらいいのに、という願望が転生後に反映されるらしいと。であるなら、『アベール』での願望を引き継いだのは『今生』ではなく『学園』であるというわけだ。
しかも『学園』の記憶がある私は、貴族同士の争いに心底嫌気がさし、ごく普通の村人に生まれたかった、なんて思ったりしていた。そう、『学園』での願いは『今生』で実現しているのだ。
それにしても願望が実現するんなら、きっと私たちは幸せになりたいと願っただろうから、そっちこそ実現して欲しい。でも願望が影響するのはどうも「生まれの初期設定」のみっぽいのだ、残念なことに。
その他に、全員の意見が一致したのは、アベール王は要注意人物であるということだ。私も反論はない。聞かされた話だけでも、相当にヤバいヤツだとすぐに理解できたんだから。
それから、もしもアベール王も転生を繰り返しているなら、『学園』では学長になっていたのではないかと私は思うのだ。学長は、アベール王のような不気味さを持っていたのだから。彼が側にくると、漠然と不安を感じてしまうのだ。
「学長か……。俺にはどんな人物か分からないけど、まあ聞いた感じでは確かに妙なヤツだと思った」
「でしょ。だからね、学長だと思うの。アベール王は私の父親だったって言ってたけど、必ずしも毎回父親として転生するのではないと思うし」
「断言できるか?」
「できる。父だったカルナ伯爵はアベール王じゃない」
カルナ家の当主として、シベリウス家と激しい攻防を繰り返していたかもしれないけど、それはアベール王の狂気とは全然違うものだと思うのだ。
「『今生』のお父さんは?」
「それこそ絶対違うわ!」
『今生』の今は亡きお父さんも、絶対にアベール王なんかじゃない。だってお父さんはすごく優しくて穏やかで、お母さんのことが大好きでちょっと尻にひかれてて、いつもニコニコ笑ってる私の大好きなお父さんだったんだから。
「分かった」
リートはうむと頷く。
私の二人の父を疑うようなことを言ったくせに、あっさり私の言い分を受け入れてくれた。
「となると、まだ今生ではアベール王には出会ってない、ってことになるんだが、どう思う?」
「その通りだと思う」
「これから出会うかもしれない……だとすれば、どういう人間に転生しているのか……どうやって回避するか……」
リートは腕を組んで考え込んだ。眉間には深い皺が刻まれている。
アベール王に出会ってしまっては危険だということは私も理解しているのだけど、リートの方が記憶があるだけに危機意識強いようだ。ちょっと苦悶の表情を浮かべるリートってなんだかセクシー……いかんいかん、転生したアベール王がどんな人間になってるか、考えないと。
「……なあピピ、アベール王の転生にもヤツの願望が反映されるのか?」
「多分」
「アベール王の願望が反映されたのが学長、ということは……ううん……何を望んで、そうなったんだ?! いや、それより学長の願望だ。それが反映されて今生で転生しているかもしれないんだから。ニア! 学長の望みってなんだと思う?!」
いきなり振られて、吹きそうになった。
セクシーな、いや真剣な顔して何いってんのよ。学長の望みなんか、私に分かるわけないでしょう。
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