destiny.



硝子色の床、円形の展望室。

メル・アイヴィーとしての仕事を放棄するかのように、メルは透明な床――無数の星たちをベット代わりに寝ころんでいた。



「私、もう願いなんて作らないわ」



只ならぬ覚悟をもってそう宣言したメルにとって、リゴの返答はまるで拍子抜けするものだった。


「少し、休んだらいい」


角の取れた声でメルを労わった彼は、寂しそうな表情をして、それから一つ咳をした。


もっと、𠮟られると思ったのに。


……そう。リゴが怒らないのなら、それでいいわ。


メルは彼の優しさに甘えて、夜が廻ってゆくのをじっと待つことにする。



間もなく、定刻が来る。



いつもなら、排出口を開いて、祈りの歌を捧げるべき時刻。


もう「仕事」なんてする必要ないのに、メルの身体に刷り込まれた習慣は、今日も変わらずメルの心をざわつかせた。いつも以上に、全身がそわそわしていた。



メルはその時刻を、展望台の真ん中に寝そべって迎えた。

 






そして、「それ」は脈略もなく始まった。







メルの傍で、カタリ、と一つ、澄んだ音色が響く。



「……え?」




音数は加速し、室内を埋め尽くす。




「……嘘だわ。……嘘、嘘、嘘」



メルがどれだけ取り乱しても、それは容赦なく続く。


星を砕いたような眩い光が、極彩色のきらめきが、展望室の床に散らばってゆく。


願いの枠組はメルの意思と裏腹に、両手から魔法のように湧き出し、零れて、ジュエリーケースをひっくり返したみたいに足元を埋めていた。



「……嘘。だってまだ、歌ってないわ。……なのに、どうして」



呆然と立ち尽くすメルに向かって、リゴはまるで初めから知っていたかのように、冷静な足どりで展望室の中央まで歩いてくると、そっとメルの手を取った。




「俺たちは、仕事から逃れられないんだ」



「……俺たち?」



メルが困惑を言葉にする前に、リゴは、自らの丸めた掌を開いて見せた。





瞬間、メルは言葉を失う。





掌から、透明なピースが六つ湧き出す。



それらは紛れもなく「成就質」そのものだった。





「リゴ……あなたは」



「「叶える」は、俺の管轄なんだ。だから、好きに責めてくれ」



そう言って、リゴは掌のピースを全て自らの口に流し込む。




「俺が、世界の裏の〈少年〉だ」








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