第2話最終的なゴール

 俺は人を好きになったことがない。性欲は人並みにあるので、胸の大きさと腰の細さを重視するが、理想の人が現れたとしてもムラムラするだけで、恋とか愛というものとは別物のように思う。そして、ついさっき判明したのだけど、恋愛には顔立ちが何よりも大事なように思う。これは合コンを行わなければわからなかったことで、尊い犠牲を払って得た研究結果である。そんなわけで、俺たち6人はファーストフードに来ていた。6人、である。4組の男女がいるはずだったが、ほんの20分移動を挟んだだけで、2人減っていた。察しのいい読者の方は気づいたかもしれないが、オタクA+Bが帰ったのである。意味が分からない。そんなわけで、カップル1、女3、男1の合コン改め、圧迫面接が始まった。


 さんざんもったいぶったけど、ファーストフードというのはマクドナルドのことだ。地球上のあらゆる場所にはびこるハンバーガーショップであるが、俺は数えるほどしか来たことがない。我が家は外食にほとんど行かない。母と妹が料理好きなので、食費は食材と料理設備に使われる。

 マクドナルドは夕方刻、様々な客層で賑わっていた。老人、子連れの人、カップル、学生、そして異世界から召喚された魔人などがいた。もちろん比喩的表現である。壁側にずらりと並ぶブサイク達は、魔人をテーマにした画廊のようで壮観であった。俺は店員からブサイクについて注意がなされると思ったが、そこは流石の世界ブランド。異形の者たちに寛容であった。


 長く濃密な自己紹介が始まった。セカイノオワリともいう。ざっくりカットしようと思ったがあえて全貌を公開しようと思う。興味ない人は飛ばした方がいいと思う。


 まずは俺と一緒に二人乗りした、安倍なつさん。全体的にでかくて70キロぐらいありそう。化粧を失敗して右と左の目の大きさが全然違う。色黒というか日焼けサロンに行ってるのか小麦色の肌である。

 スーパーでアルバイトしていて酒を飲むのが趣味らしいが、未成年の飲酒は法律で禁止されている。あと、マクドナルドの注文方法がわからなかった俺をさりげなくフォローしてくれたのは個人的にポイントが高い。話を仕切ったりもして、なかなか頭の回転が速い印象を受ける。胸も結構ある。


 2人目は後藤ちひろさん。身長高めでスタイルもよい。遠目から見たら可愛い気もするが、近くで見るとあごの角度が鋭く、目も細くて長いし怖い。ユーチューブでお笑い番組を見るのが趣味らしく、いつか大阪に住みたいらしい。あとは格闘ゲームが好きでゲームセンターによく行くらしい。お笑い好きということもあって、声がでかくツッコミもきちんと入れる。見た目も特徴的だし、お笑い芸人を目指せばいいと思う。胸から腰のラインは良いと思います。


 3人目は矢口夕波さん。彼女はガチオタクという感じで、今回の合コン中ほとんど喋らなかったけれど普段は結構しゃべるらしい。18禁のゲームが好きだが、他の分野も行けるらしい。顔は全体的にふっくらして、目、鼻、口が普通よりでかい。それだけなら割と普通のラインだと思うが、表情がとてつもなく暗い。何かあるたびにルピアに抱き着いたり会話を助けてもらったりしようとするが、その絵面が見るに耐えない。胸は小さめ。

 

 ルピアは漫☆画太郎先生の絵みたいな感じ。あと、18禁のゲームは高校2年ではやってはいけない。


 3人の紹介が終わったあと、今度は俺への質問攻めが始まる。面接というよりかはロングインタビューに近かった。俺はそれにすべて正直に答えた。下ネタが多く、松岡はかなり引いていたが、女子たちはかなり食いついていた。人生には2回のモテ期がやって来るというが、大事な1回を消費してしまったと思う。無口の矢口とはほとんど話していないが、安倍と後藤とはかなり仲良くなったと思う。次から学校であったときは挨拶ぐらいしようと思う。その様子を見て周りからドン引きされるかもしれないが。


 合コンは予定の時間を大幅に超過して終了した。下世話な会話を大声でまき散らしていたので、つまみだされるかと思ったがそこは流石の世界ブランド。寛容である。結局、3時間近くをアイス一個だけで粘ってしまって申し訳ない気持ちになる。今後何かの縁があれば積極的に利用したい。


 そして電車組のルピア、安倍、後藤と別れる。安倍と後藤は大声で「じゃーねーバイバーイ」と言っていて非常に女子っぽかった。一方、自転車で来ている矢口は凍結していた。合コンの最中に発覚したのだが、俺と矢口の家はかなり近いらしく、夜遅いこともあって途中まで一緒に帰る手はずになっている。


 美少女であれば、無口人見知りキャラと二人きりという状況はチャンスであるが、ブサイクだとただのピンチである。ブサイクな奴は胸を張れ、笑え、声を出せ。ルピアを見ろ。彼氏もいるし友達もいるし完全にリア充。掴み取るんだ青春を(意味不明)。しかし、自分を偽ってまで恋人を手に入れるべきかというのは議論に値する問題であろう。相手が超絶美人なら相手にあわせるのも必要だろう。いや、でもその人にしかない魅力というものはやっぱりあるわけで、矢口にも矢口にしかない魅力があるんだと思う。


 線路沿いの道を車輪の音だけが鳴り響く。たまに電車がすぐ横を通り過ぎて、大きな音と光をもたらす。どこか幻想的な風景だ。ただし、相手は美少女に限りたい。

二人の間に会話はない。俺は何かを話すべきかと矢口の方を見ると、意識して俺を見ないようにしている。嫌われてはいないだろうけど、好かれてもいないだろう。俺は矢口のことが嫌いだ。うざい。なんでここにやって来たんだよ。オタクA+Bのように帰れば良かったのに。そんな風に思ってしまう。


 もしかすると、妹は同じように思っているのかもしれない。俺に対して、何もしないなら死ね、と。もっと人生を楽しんでもいいんじゃないかと。たしかに、合コンに来て何も話さないようなやつは嫌われてもしょうがない。美少女2次元キャラでもない限り。俺は不自然に前を向き続ける矢口に声をかける。


「もしかすると、俺と矢口は似ているかもしれない」

「……」

「周りから見れば、矢口はつまらなそうで嫌なように見える。けれど、矢口は矢口なりに楽しんでいた、のか?」

辺りは暗くて彼女の顔はよく見えない。正確に言えば、彼女のむくんだ暗い顔はその威力を薄めている。そして、彼女は実力派声優にも負けないきれいな声音だった。

「たのしかった」

暗闇だから、照れずに言えたのかもしれない。彼女は力強くそう言った。最初からそうであったのなら、俺ではない誰かが彼女を好きになる日が来るかもしれない。3人の中では比較的まともな顔だし、ルピアという前例もある。うん。今度松岡には恋愛の何が良いのかをしっかり聞くべきだと思う。


「俺は俺なりに人生を楽しんでいるつもりなんだ。妹から見ればクソみたいな生活かもしれない。だけど、俺は今日、はっきり言って全然楽しくなかった。退屈だった。矢口から見て今日の俺は楽しんでいるように見えたか」

「……うん」

少し考えて矢口は言う。たしかに俺の顔は笑っていたかもしれない。けれど、そこに俺の幸せは無いと思う。彼女たちと話すのは小説を読むことと同じだ。自分をごまかしているに過ぎない。というか、俺は毎日生きていればそれで良いのだ。バカボンのパパみたいに。

「こういうのはこれきりでいい。良い体験になった。妹にもきちんと話して理解してもらう。彼女を作るのは、なしだ」


それで話は終わりだと言わんばかりに俺は前を向く。いろんな意味で。などと格好つけていると美しい声音で矢口が言う。

「エッチしなくて良いんですか」

俺はそれを聞いて黙る。それもそうだと思う。俺はそれについて見て見ないふりをしている。そこに宝箱のような物はたしかにあるのだが、一人では開けることができない。そして、中身を予測するとそこには大量の素晴らしい物が詰まっているように思える。まあでも、あくまでそう見えるだけだ。俺の人生において宝箱はトラップに等しく、特に今日の合コンと言う名の宝箱には痛い目をあったしもう二度と開かないと思う。


俺は結局、返事を返すことができなかった。どうでもいいと言うことは簡単だったが、どうでも良くはないらしい。エッチというものは男にとって甲子園みたいなものだ。関係ないと言いつつも、どこか目指している。そういうものだ。大体の人にとっては生活の一部なんだろうけれど、砂漠における水のようなものかもしれない。


返事に窮している間に矢口の家近くに来て、やはりきれいな声で別れの挨拶をする。彼女の姿が見えなくなると、途端に気持ちが楽になる。いなくなった方が良い、なんて思ってしまうということは完全に恋ではないな、と思う。俺は世界中にはびこる恋愛という事象に疑問を持つ。本当にそんなものがあるのだろうか。一体何が優れていて何を犠牲にするのか。


とにもかくにも美少女の登場を願う俺であった。つづく。


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