第16話 女子会

「すまん、遅くなったな」


 城のテラスに集まった女王さま、女王さまの妹、わたし。お昼下がりに夏も近いということで、そこそこ日差しがあるのでパラソルも出してもらった。


「いいですよ、まだ少ししか話してないですし」


「かまいませんよ、私も今しがた来たばかりですから」


「病院のオヤジが資料の持ち出しに渋りやがってな。こっちは正式な命令書持ってってんのによ」


 今日は三人だけの女子トーク。しかも女王さまの妹さんとは初めて会う。女王さまの妹さんだけあって容姿がそっくりでちょっとドキッとしたけど、すぐに持っている雰囲気の違いが分かった。というか女王さまがヤンキー過ぎる。妹さんはなんで魔族なのか分からないほど柔和なオーラを纏っていて口調も実に丁寧で優しい。頭にツノが生えてたり、肌が青かったり、瞳が金色とかしてるのにまるで女神のよう。あとおっぱい大きい。普段は女王さまが仕事サボってるおかげで、毎日毎日妹さんが忙殺されているって聞いたけどまるで疲れている様子は見えない。お気を遣わせている……ワケでもなさそう。


「本来は機密事項ですからしかたないですよ」


「メロンソーダフロート持ってこい、あとなんか軽食」


「かしこまりました」


 女王さま注文の仕方雑い。このお城に来て一つだけ気になっていることがある。ここの女の人はみんなおっぱい大きい。みんな種族はてんでバラバラなのにみんながみんなおっぱい大きい。気が付かれないように視線を自分の胸元に向ける。貧……ではないけどここの人達と比べると相対的に貧……と言わざるをえない。


「気にしなくていいですよサイトーさん、この城ももともとは学園と同じくハーレムの予定だったんです。だから似たりよったりの体つきの人ばっかりなんですね」


「いやー、はははは……」


「前国王……オヤジが嘆いてたな、世継ぎである男が生まれんって」


 どんだけ頑張ったんだろう二人のお父さん。


「まあサイトーのコンプレックスは置いといてだな」


「姉さん」


 置いとかれちゃいました。


 女王さまが年頃の女性に似つかわしくない大きなボストンバッグから資料を三部取り出して配ってくれた。この日のためにコピーしてきてくれたという機密事項をまとめた資料。私とアヅキくんの体のことについて隣の妹さんに丸投げして徹夜でまとめてくれたという。


「精査するのにわざわざ病院に戻すなよな」


「専門家に見せるのが一番ですよ」


「えらいゴツいボストンバッグですね」


「お待たせいたしました」


「おう!」


 おう!って女王さま………。そんな男の子じゃあるまいし野蛮な返事しなくても。何をどうやったらこの姉からこの妹さんになるんだろう。メイドさんが持ってきてくれたメロンソーダフロートをすごい勢いで吸い込みあっという間にカラにしてテーブルにかぁん!と叩きつける様は練習帰りの野球部員の男の子みたい。アイスクリームをストローで吸い切る人初めて見た。いや人じゃないけれど。


「とりあえず、サイトーさんのことからお話しますね」


 憚ることなく美少女だと言い切れるほど美少女であらせられる妹さんが資料をパラパラ開いて流し読みしている。出来上がった資料を確認しているほど時間が無かったんだね、それほど仕事に追われているんだねと思うとホロリと来る。


「劣悪になった地球という星の自然環境下で活動するために、アヅキさんの細胞を体のあちこちに移植したとのことでしたが……。八〜九割変異していてサイトーさんの細胞はほぼ無いに等しいと言えます」


「やっぱり」


「あんま驚かないのな」


「分かってたことですから」


 ここに来る前。体の取れる思われる全ての取れるところからサンプルを採取しまくって検査をしてもらった。当初の目論見通り劣悪な自然環境下でも一切の影響を受けずに生活できるようにはなっていた。しかしてかかし、とんだド変態超人になるという非常にザンネンな副作用が発生していた。特に私以外の四人の男連中。わたしの世界で怪しげな組織に体をいじくられたのは全部で五人。ほか四人はみんな男何だけとこれがいけなかった。


「副作用はいくつか良いものと悪いものがあるみたいですね……。その、アヅキさんの体にも同じような副作用があるみたいで、正確にはアヅキさんの細胞の影響でサイトーさんがこうなっているのですが」


「生殖系に異常を認める…か」


「どいつもこいつも戦いが終わって平和になった途端にハーレム作ってだらしない男になっちゃったんだよね、下半身だけが」


 異常な戦闘能力、生存能力、または神秘的な力。それらも全てアヅキくんからもらったと言っていい力だけど、アヅキくんと同じ男であったがためにほか四人は戦争の最中はものすごく我慢してたらしい。アヅキくんが1000年前の当時からチンパンジーだったかは知らない。


「アヅキと違うのは異常なまでの欲求不満と金玉の能力だな。アヅキは遺伝能力が無くなっているのに他の連中はなんともないんだな」


「世界人口が少なくなってたからいいんじゃない?英雄でしょ?ってのが俗世間の反応でしたね」


「つってもこれはお前から聞いただけのことだし、検証のしようもないから憶測しか言えないな」


「オリジナルであるアヅキさんに遺伝不能の症状があるのは不自然とも取れます。なにか他に原因があるのでは?」


「……あんのかなあ」


 歴史の人になってるアヅキくん。かつて当時の史上最大で最悪の航空機墜落事故からただの一人生還し、やがて少林寺拳法の達人となり、過去に騙された結果核戦争の引き金にされ、突如として世界から姿を消したちょっとした都市伝説。初めて会ったときはビビった。まさか教科書に載ってる写真と同じ姿のままだったなんて。本人曰く、というか周りの人も言ってたけどまだこの世界に現れて半年くらいしか経ってないらしい。そりゃ姿なんて変わってないよね。当時16歳くらいだったはずなのにその時点で教科書に写真が載ってるだけでもなんなのコイツ?って話だけど。


「アヅキが種無しだったらどうする?って首相の娘に聞いてみたらさ」


「ちょっと姉さん!」


「機密事項とは」


「まあまあ怒りなさんな。アイツなんて答えたと思う?」





『フッ、何か問題ですの?』





「だっとさ」


 こういうときは肝が座っているとでも表現したらいいのかな?世界魔力腺ランク第三位を相手に鼻で笑うとは恐いもの知らず。ひょっとしてあの淫らなお嬢様ってめっちゃ強いのかな。いつもいつも魔改造した肌色多めのえっちな制服着て取り巻きの人達と一緒に大名行列してるけど。


「おそれいります、お取り替えいたします」


「えっ、ああ、ありがとうございます…」


 メイドさんが気を遣ってくれた。知らないうちにコップの中身がカラになっていて入っている氷が溶けて傾いている。ガラスのコップに張り付いた結露の水滴がテーブルに滴り落ちている。メイドさんが手際良くサッと下げてサッと拭いてサッと新しいのを出してくれる。このキンキンに冷えたガラスのコップはどうやってるんだろう?


「軽食おかわり」


「かしこまりました」


「お昼食べました?」


「食べたが?」


 どこに入ってどこに消えるかはお察しください。


「言っとくがこの100年バストサイズは変わってないからな」


「私も少ししか変わりませんでしたね」


 目線がバレた。いやいや妹君さま、変わりませんでしたねってそれ結局大きくなってますよね?膨らんでますよね?まさか縮むワケじゃあるまいし。……わたしはこの昼下りに何を言ってるんだ?早くも日差しにやられたかな?


「アヅキの放射線が通らない体質についてだが、そちらの世界では心臓までかっさばいて調べたのか」


「心臓かっさばいたら流石に死んじゃうと思います。……わたしは記録でしか知らないし、本人にはそんなん気まずいから聞けませんし。一応鎖骨のあたりから下腹部までの内臓について詳しく検査したとありました。当時何も知らず手術によって開胸、開腹した結果被曝したと」


「被曝した連中はどうなった?」


「本当に何も知らないで大量に被曝したらどうなるかは……まあ…」


 わたしはそれを読んだときバシッと閉めた。世の中知らない方がいいことはたくさんある。ましてや自分からトラウマ抱えに行くこともあるまい。ジュースが美味しい。最初のもジュースとしては見たこともない色をしていたのに、最初の一口で恐る恐る飲んだのが嘘みたいに美味しい。最初のやつもらったときに普通のじゃなくて珍しいのを飲んでみたいなんて言ったのはヤバかったか……って思ってたけど杞憂だった。


「そういえば、サイトーの体には炎症やら爛れの類は一切無いと再確認出来たな」


「本当にアヅキくんってここに来たときヤバかったんですか?」


「アレルギーだのなんだので大変だったな。そのくせ異常な自己再生能力だろ?魔力や魔力元素に適応してなかったと分かるまでは延々と壊死と再生を繰り返してた」


「わたしはケロッとしてるのに不思議ですね」


「やっぱアイツの心臓かっさばいたらなんか分かるか?」


「やめてください死んでしまいます」


「冗談だよ」


 そう。わたしには特に症状がない。特にというと少し語弊がある。まったくもって症状がない。息をしてても服を着てもスプーンやフォークを持っても何ともない。おかげでオシャレな下着も服ももらえてラッキーである。アヅキくんは未だに魔力や魔力元素を一切排除した質素なものしか着れないらしい。学園の制服やジャージも特注品でお国の放浪者特別予算でないと収まらないとかなんとか。


「環境適応能力について神通力は使ってないんですよね?」


「んー、言葉くらいにしか使ってないですかな?」


「ニホンジンって本当に変わってるな」


「いやいや例外ですから、例外」


 わたしやアヅキくんみたいなのが普通だったら環境破壊どころか星ごと滅亡しちゃいますよ。ところどころ違いがあるのは先天的なものと後天的なものとでは同じものにはならないだけかもしれないし。と、ここまでで既に女王さまのお皿は三回変わっている。食べすぎじゃないですかね。


「この特殊能力についてだが、お前の他四人も同等なのか?」


「そうですね。わたしは他の男の人達と違って大柄じゃないからその分は見劣りするかもしれませんけど」


「先日の殲滅戦での記録映像の後半部分、気絶していたメイド騎士二人が意識を取り戻してなんとか上半身だけ上げたとき。お二人しか立っていなかったので詳しい戦闘について知ることが出来ません」


「まあそれはなんというか………、申し訳ないと言いますか……」


 天雷。そんな大げさなものじゃないんだけどなあ…と思ってたけどみんながそう呼んでいる内にとうとうそのまま教科書に載ってしまった。仮にも現役女子高生であることには間違いないのだから、そこんとこ忘れないでほしかった。たとえ超人でも恥ずかしいもんは恥ずかしいとです。そして見事に試作機をぶっ壊した。あの試作機の鎧一つでヤバい金額が掛かってるらしい。最初っから全力全開なのは初見の敵でも間違いなくブッ殺してやるために必要なことですから……。


「アヅキは火炎や爆発、サイトーは雷・電気系統。どちらも異常なんて言葉で片付けることが出来ない規模だな」


「後から来て下がってくれない帝国即応部隊に対して、目の前で巨大な雷を落としてクリーチャー達を消して見せて、撤退してもらったとあります。あなたの体の発電能力については計測不能という検査結果になりました」


「そしてその余波で試作機がお釈迦になって墜落したと」


「いやーまさか初めて空を飛べたのにいきなり落っこちるとは思いませんでしたよ」


「帰ってきて第一声が専用タイツとパンツが食い込んで痛い、だもんな。笑っちゃうよ」


「ううう、恥ずかしいから言わないでください……」


 耳まで真っ赤になる。男の子の前でパンツ!とか言うんだもん。自分でも信じられない。いやでも戦って動き回って汗かいてベトベトだったし、食い込んでたのは本当だし……。


「思ったんですけど。サイトーさんはアヅキくんのことどうなんですか?」


「え?」


 え?


「男としてどうかって聞いてんだよ」


「それは恋愛として…ですか?」


「アリか?ナシか?」


 突然振られたからびっくりして頭ん中真っ白になった。アヅキくんがアリかナシか?うーん、どうでしょう。顔とか容姿で行ったらイケメンって言ってもいいけど好みではないし、あのくらいのイケメンなら他にもたくさんいるし。身体能力や特殊能力は私たちしか持ってない突飛なものだから比べる参考にならないし。性格は良い方だとは思うけど変質者で通報されるような人がアリかと言ったら……。


「アリ……」


「「おお?!」」


「とは言い切れないですけど……、ナシ……とも言い切れないですね」


「どっちだよ」


「お二人こそどうなんですか?」


「私は私より強いヤツしか認めん!」


「いやそうじゃなく……」


「私はアヅキくんは……アリです」


「「マジか」」


「姉さんが仕事してくれないからまだ彼に会ってお話する機会も、夜をご一緒したことも全然ないですけど、最初にお迎えしたときに……その…」


 耳まで真っ赤になって小さく頷く美少女マジ美少女。同じ女の子が言うんだから違いない。種族とか肌の色とかの違いなんて関係ない。恋してる美少女マジ美少女。


「一目惚れですか?」


「マジかー、妹よマジかー」


 首相のお嬢様に強力なライバル現る。お昼下がりの女子会が終わって、まだ安静にしているアヅキくんに仕えてるメイド騎士さん二人に代わってわたしが晩ごはんを作ってあげて(彼はほっとくとすぐにカップラーメンを食べようとする)、二人で食べたときにチクった。


「女王さまの妹さんがアヅキくんにラブ注入(はぁと して欲しいだって」


「グフォッ」

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