第14話 貧乳スレンダー
「アンタはバカなの?バカなのよね?バカ決定ね」
「のっけからバカバカうるせーよこの釘宮理恵声が」
一時間後、例の軍の施設にいた。開発研究所はあるものの、コードXの離発着が出来るいわゆる秘密基地はまだ建設中とのことで、しばらくは戦闘ヘリが迎えに寄越され開発研究所から出撃する。
「あのねえ、まだ健康診断しか済んでいない放浪者をコードXの装着者にできるわけないでしょう。ましてや…」
「使えない分があるでしょ」
コードXは四機開発され、それぞれが基本的な装備に加えフォートレス、ストライカー、スナイパー、デストロイヤーと特色を持たされている。しかし特色装備は依然として魔力運用の問題が解決されないため、基本的な換装装備である量産向けに開発されたもののみの稼働となっている。四機あるうち二機については我がメイド騎士に割り当てられ、一機は専用機として改修が決定、残る一機は浮いたままになっていた。これを斎藤さんに使いたいとしたのだ。
「あなたと違って普通の人間の数値しか示されなかったのよ、彼女は。はっきり言わせてもらうけど、あなた達人間の普通はこの世界の私達と比べてひ弱よ。弱すぎて話にならないわ」
「私帰っていい?冷蔵庫のシュークリーム食べたい」
「自由人かよ」
彼女はどうやらいたって普通の人間らしい。普通の人間?……そんなバカな。
「普通の人間?斎藤さんが?」
「そうよ。とは言っても過去にこの世界を訪れた人間と比べての話だけれど、あなたは飛び切りの化け物で、彼女は一般人と呼んで差し支えないわ」
斎藤一子。十六という若さにして在りし日の新選組を甦らせた、新編神選組。いくつかある護国部隊の最強にして頂点と呼ばれる組織である神選組紅一点、三番隊組長。刀を抜けばひれ伏さぬ者無しと恐れられる。夜の襲撃を得意とし、利き手である左手から放たれる豪絶な突きから付いた字名が【月紅矢】。その彼女が普通?一般人?
「ただし、魔力数値も出てるのよね」
「なんだって?」
「それではご主人様と同じ世界の人ではないということでしょうか?」
ありえる。おおいにありえる話だ。ある事件を解決するために、タイムパラドックスを利用しようと時間旅行へ行ったはいいが、戻ってきても事件は解決していなかった。時間旅行で行った先は実は似て非なる世界、パラレルワールドでありタイムパラドックスは起きなかった。時間旅行をしているつもりで実は時空間跳躍していた。つまり、まったくもって真隣のパラレルワールドから来たお互いが、同じ世界から来たと誤認している可能性がある。もちろんこれは推測の域を出ない、妄想のレベルではあるが。
「肯定も否定もしないわ」
「なぜ?」
「私達は彼らの世界の存在を肯定も否定も出来ないからよ。人間が目の前にいるだけでは世界そのものの認知たりえない」
「なになになんの話?」
「いや斎藤さんの健康診断の結果がちょっとおかしくて……うわっ」
「ちょっとあなた?!」
話に入ってきた斎藤さんがいつの間にかコードXを装着していた。見事に着こなしている…。魔力が無いと電源も入らないんじゃなかったのか?いや魔力があるからおかしいって話をしていたんだっけ。
「さ、斎藤さん、なんともないの?」
「なんともないよ」
「なんで、いつの間に、どうやって?」
「なんとなく着れる気がした」
「最強かよ」
いつの間にかフルアーマーの斎藤さんがホバリングをしたまま突っ立っていたのだ。なぜ突っ立っている姿勢なのかは分からない。イケる、これはイケる。俺の頭の中は驚愕よりも確信と期待でいっぱいになった。このなんとなくの感覚は大事にしたい。ひょっとしたら斎藤さんには魔法のセンスがあるのかもしれない。言葉さえ理解できれば俺でも理解できた魔法陣を覚えることなんか苦じゃないはずだ。刀を使えて兵器を使えて魔法も使える。まだどんな生態かも分からないクリーチャーに対してまた一つ大きな戦力を得たのだ。これで戦術に幅を持たせることが出来る。手段も戦力も多いことに越したことはない。
「しかし斎藤さんが魔力を持っている説明にはなっていないな、まるで」
「魔力?私はそんなの持ってないよ?」
「それが健康診断で出ちゃってるからおかしいねって話だったんだけど、さらに一般人にソレを動かすだけの魔力があるワケ無いのに動いちゃってるからどーしたもんかと」
そもそも斎藤さんはこの世界の言葉が分からない。マニュアルも読めないのになんとなくでとは恐れ入る。神選組は一般隊士から組長局長まで化け物揃いだと聞いていたがいやはや。自分の自覚のなさを他人で再現されるとこう見えるのか。
「だいたい格納庫までどうやって行ってどうやって戻ってきたのよあなた」
「皆話してて暇だったからフラ〜っと行ってフラ〜っと飛んで帰ってきた」
「ふらふらしてたら行って帰ってこれたって」
「………なによそれ。あなたといいこの子といい無茶苦茶だわ」
とにもかくにも今は出撃である。コードX四機揃って出撃できるとあっては戦場をひっくり返すことができる。最前線からもたらされた情報では二十万から三十万ほどの勢力を観測したとのこと。ついでに、観測者は自分の命よりも情報を大切にしたとのこと。討ってやらねば報われぬ。
「敵は東の平原のさらに東に行った地点から東北東、帝国領境界に向かっているわ。このまま進めばいずれ帝国軍とぶつかることになるけど、いくら強大な軍を持つ帝国でもこの数に即応は厳しいはずよ」
「相変わらず進軍スピードがトチ狂ってるな。………それにしても帝国か、助ける必要ある?」
先日の海岸王国の一件。現れていた巨大クリーチャーと事件の裏で糸を引いていたであろう帝国。どんなつながりがあるのかはしらないが、タイミングからしてまったく無いと言われたら白々しい。ちょっかいを出してきた国をわざわざ助けるというのもおかしな話だ。今もベッドから出ずにオンラインゲームに勤しんでいる女王陛下はお人好しなのか?それとも単純に恩を売っておきたいだけなのか?
「きっと穴埋めのつもりなのですよ」
「穴埋め?」
俺はソフィの下腹部の少し下を見やった。
「そっちの穴ではありません。セイ様、病院に女王様がおいでになったときのことを覚えていますか?」
「ああ、病院の機械まるごとダメにしたときな」
「実はあの日、女王様は帝国へ足を運ばれていたそうです。そして貴族という貴族を全員を、女子供関係なくなぶり殺しにしトラウマを植え付けてきたと」
おっかねえなオイ!
「女王様曰く、誰一人として完全なる絶命はしていないからOKだと」
「全然オッケーちゃうやろそれ」
「そうです、摂政である妹君様にこってり絞られていました。そんなことがあったのでおそらく……」
果たして無茶苦茶なのはどちらなのだろうか。裏で蠢く帝国の糸によろしく思わないことに不満はない。むしろ女王の正面切ってぶつかっていく姿勢には賛成ですらある。しかしそういう穴の埋める役割は自分でやってほしいとも思う。とはいえこの国に拾われて養われている以上は文句も言えない。現状としてクリーチャーの大群は未だこちらの領地も帝国の領地も侵していない。被害のないうちの後方からの急襲はおおいに価値があるといえるだろう。奴らも恐らく帝国への攻撃を主としていて背後のこちらについて今回は考慮にすら入っていないと思われる。簡単に捕捉を許すということはそれで構わないという態度を示している。恩を売る売らない、穴を埋める埋めない以前に、未だ目的も生態も分からない奴らへの一撃として、反攻の狼煙を揚げるにこれ以上ないチャンスはない。大目に見ても奴らが脅威を俺だけだと思っている内に削れる。
「………出るか」
「カタパルト起こして!コードX全機出撃!!!」
カタパルトのビンディングペダルに足を嵌めるとHUDに音声ONLYと表示されて通信が入った。
「いいアヅキ?あなたのそれは他のコードXとは違って基本性能こそ飛び抜けているけどその代わりに尋常ならざる負担と貧相な兵装しか用意されていないわ」
「ビーム剣しかないっておかしない?」
「昔話でね、装着者の魔力を延々と吸い続けて命さえあれば意識が無くなっても戦い続ける魔導兵を作ったことがあってね、ボツになったんだけど、ホラ、あなたの身体ってエネルギー無尽蔵じゃない?他とは違って制限時間無しで動き回れるわよ」
「待て待て待て待て」
「発進!!!!」
「ぐおおおおお?!」
発進した瞬間のGによって首を後ろに持って行かれながらもどうにか飛び立ち誘導通りの姿勢になると他三機と合流した。微妙におぼつかない飛び方をする自分と対して他三機は綺麗な姿勢で巡航している。なぜだ、なぜなんだ。我がメイド騎士はまだしも斎藤さんはこの世界に来たばかり。だというのに、初めて空を飛んでいるというのになぜしれっと並んで飛んでいるのだ。
「このまま全速力で飛行し後方から大群を二分します。その後左右に別れさらに二分し各個撃破をお願いします」
「俺は前に出るぞ」
「そんなにフラついてて何言ってんの」
「…………こんなことを言ったら青臭いって言われるけどな、あの帝国の領地境界のすぐそばに小さな村があったんだ。きっと、俺達の事情とは関係ない、小さくて脆い平和が暮らしている村が」
「なーる」
被ったヘッドパーツの下でニヤついているだろうと分かるほど声色から抑揚が伝わってくる。斎藤さんは俺の世界では鬼神と恐れられるほどだが中身は年頃の女子と変わらない印象を受ける。
「ごめん二人とも、後ろは任せた」
「なぜでしょう、今のあなたの言葉は理解できます」
「我ら天神聖騎士、この命に代えても」
本来、一騎当千を誇るコードX試作試験機。であれば、四機で四方を固め交差する一点に向かって包囲・殲滅すればいい。包囲殲滅戦では敵対する勢力とはなんなら両翼を突破し残る中央に全力を向けてしまえばいい。四人が二手に別れて双方向から攻めるだけで済む話をわざわざ捨てて二人を上空から迂回させ敵勢力の前面へ配置し帝国領境界へ接近させないことに重きを置いて、後方から攻勢を仕掛けるのだ。詰まるところ、戦場に近いということだけでどういうことになるのか知っている人間が情に流されたがためのアクションである。ただ攻めて滅ぼすだけならこんなことはしなくていい。むしろ敵勢力進行方向にちょうどいい囮がいると考えるのならば幾分かの効果が期待できる。その効果とは。
「大地よ!壁よ!精霊よ!」
超高速で飛行し上空から急襲、爆裂術式を最前線にブチかましたあとゆうに10メートルを超える高さの岩の壁が大地の精霊への呼びかけによって地を揺らしながら一気にそびえ立つ。圧倒的に存在する大地の壁は帝国領境界手前1キロメートルに展開しクリーチャー軍の進行を阻み、あからさまに周囲の村落を守る位置に現れた。その巨大たるや城塞を築く。
「ギチギチギチギチギチギチギチ!!!!!」
「やかましいわクソバケモン共が」
展開の意図したところを察したクリーチャーの大群が怒りに狂って鳴きまくる。
「こういう馬鹿、嫌いじゃないよ」
左利きの剣構えて閃く。一瞬のうちに風の瞬き。最前線の歩兵連隊がごっそりと首を落として黒い煤となってこの世を去る。紅い閃きは血飛沫。紅蓮の雨は降やむことを知らない。
「碧き星獣よ、翔けよ稲妻、我が閃光に汝の剣を!」
両手に陣を描き、叩きつけ、発動した雷撃を剣に帯びて両断する。手加減容赦一切無しで青白い稲妻が駆け巡り、炸裂した雷の魔法は剣戟に存在する全力に応えて異形の者達を過去の存在へと変え、数多の異形の者達だった真っ黒い霧が立ち込めては消え去っていき、何も残らなくなったぽっかりと空くその場に二対の刃がさらに獲物を求めて妖しく光る。その遥か先から轟音と地響きを従えて、大砲紛いの銃身を自在に振り回し爆裂する弾丸を撒き散らす。爆心地からもうもうと立ち込める煙と黒霧さえも次弾発射によって消し飛び爆心地が爆心地を呼ぶ重爆裂の嵐。
「……終わったわね?」
「そういうこと言うなよフラグだろ」
「フラグ?旗なんて無いわよ」
「帰投します」
まさに影も形も跡形もなく。殲滅?いいえ、虐殺です。
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