第四話:意外な展開(二太)


     *


 ――密室なワケがない。

 その時、次男の二太は思った。


 昨夜、後妻がオヤジの部屋を出るのを見届けるとオレはオヤジの部屋に入った。

 事を終えたその瞬間ならカギは掛かっていないだろうと、オレは睨んだのだ。

 案の定、部屋のドアにはカギが掛かっていなかった。

 部屋に入ると、オヤジは如何にも満足したのかように気持ちよさそうに寝込んでいた。

 これ幸いと、兄貴から聞いていたオヤジの遺書を探したが、何処にも無い。

 あの兄貴の言うことだ。オレは騙されたのだ。

 オレは、兄貴とあの女がデキているのを知っている。

 どう誤魔化しても二人は何かを企んでいる。

 まさか、オレは嵌められたのか?

 いや仮にそうだとしても、全財産を何処かの団体に寄付するという話は、あながち冗談とは言えない。このクソオヤジならやりかねない。

 何とか今のウチに手段を講じなければ……。

 オヤジの寝顔を見ているだけで虫酸むしずが走る。

 オレは、オヤジが寝ているのを確認してその首にストッキングを巻き付けると、それを思い切って絞めた――。

 そのストッキングは、あらかじめ洗面所のカゴからこそっと拝借しておいた――あの女のものだ。


 これで犯人はあの後妻が一番疑われるだろう。

 何しろこの部屋には入れるのは、財産目当てでオヤジを色仕掛けでたぶらかしたあの女しか――そう思い、二太はニタッと笑った。


 ――しかし、犯行後オレはカギを掛けていない。そんな時間はなかった。兎も角、その場を早く離れることだけで頭がいっぱいだった。

 もし、あの部屋が本当に密室だったなら――オレの計画は……?


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