第三話:意外な展開(一太)
*
――密室なワケがない。
その時、長男の一太は思った。
後妻の麻沙香をオヤジに紹介したのはオレだ。
当然、彼女はオレの女だ。
今回の殺害は二人で仕組んだことだ。
しかし、彼女に渡したのは睡眠薬ではなく毒薬なのだ。
彼女はあれが睡眠薬だと思っているだろうが、殺害となれば真っ先に警察に疑われるのが彼女だ。財産目当てに結婚し殺害したのだと、それだけで動機は十分だ。
以前オヤジはオレに、俺が死んだ後はすべての財産は何処かの団体に寄付すると言っていた。
それに、それを記述した遺書も既に書いているとも。
それを、年明けにでも正式なものとして顧問弁護士に渡すとも言っていた。
「金を持つと人間は堕落する。ろくなことが無いから、自分の息子たちには相続させない」とは何だ!?
それに、あのオヤジ、自身の子供や自分の妻でさえ絶対にあの部屋には絶対に入れようとしない。何しろ常に内側からカギをするくらいだから。
なんていう奴だ。人を信じなく自己中心的。
況してや、自身の子ですらそうなのだ。
遺書は、あの部屋の中にある。間違いなくあの部屋に――。
自分の女とオヤジを結婚させたのも、あの部屋に入れるのはオヤジが自分の欲望を満たすときだけは妻を部屋に入れる。
オヤジの遺書を盗み出すチャンスはそこしかないのだ。
それを、彼女に盗ませるのだ。
上手くいけば、欲深く節操が無いあの女ともこれでお別れだ。
彼女には「すべてが順調にいけば二人とも幸福になれる」と、心にもないことを一太は言った。
――しかし、彼女があの部屋を密室にした理由がわからない。
何故、あの部屋は密室だったんだ?
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