第二話:意外な展開(麻沙香)

 

    *

 

 ――密室なワケがない。

 後妻の麻沙香は回想する。


 昨夜は彼の部屋で、二人っきりのクリスマス・イヴ。

 いつにもましての男女の営み。

 そのあとに二人で飲んだワイン。

 彼のグラス中には目を盗んで睡眠薬を。

 彼に飲ませた睡眠薬は、ある人物からよく効くと薦められ手渡されたもの――ではなく、わたしが日頃常用しているもの。

 有る人物から手渡された睡眠薬はうっかり何処かへ無くしてしまい、仕方無しの代用品。

 それでも効き目があったのか、数分後にはスヤスヤ。

 彼が眠ったのを見届け、そしてわたしは……。

 その後は自室に戻ってシャワーを浴びて、温かいベッドの中でわたしは朝まで寝ていただけ。


 彼が終活だといって書いた遺書に財産配分の記述があるという。

 年明けに、それを顧問弁護士に渡して正式なものを作成するらしい。

 その遺産相続人の中には、わたしの名は記されていないのだそうだ。

 だから、わたしはただそれを処分したかっただけ。

 昨夜は、行動にうつす絶好のチャンスだった。

 その遺書さえ無くなれば、財産の半分はわたしのもの。

 妻としての当然の取り分は行使できる。

 でなけりゃ、はなからこんなお爺ちゃんとは結婚しない――。

 しかも、クリスマス・イヴだった昨夜の営みでの彼は、わたしへのプレゼントのつもりなのか、年甲斐もないほどのあのハリキリ様。

 きっと彼の死因は、わたしとの激しい情事が祟っての突発的な死。

 

 しかし、あの警部が話の途中で「そのだよ!」と言った時には本当に心臟が止まりそうになった。


 まあ、あの二人がこの事件の担当刑事なら、この事件は迷宮入りになるのは必至だろう。刑事たちの馬鹿な掛け合いを聞いて、麻沙香は、ほっと胸を撫で下ろした。


 ――しかし、あの部屋が密室?

 きっと、わたしが彼の部屋を出た後、目覚めた彼が内側からカギを掛けたに違いない。しかも、遺書なんてどこにもなかったし……。


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