クリスマス・イヴの密室/Locked room of Christmas Eve

長束直弥

第一話:予想通りの篇首?

「警部、関係者全員に集まっていただきました!」

「コホン! えー、皆さんにお集まりいただいたのは他でもない」


「ま、まさか犯人がわったのですか?」

「――そのまさかです!」


 おおおぉぉぉ――

 一同から響めきが起こる。


「おお、それは素晴らしい!」

 誰かが叫ぶ。


「それで、犯人は誰ですか?」

 誰かが訊く。


「そう、焦るでない。――犯人はこの中にいる!」


 一同は息を殺し、次の言葉を待つ。


 殺人事件が起きた屋敷の大広間には大きなクリスマスツリーが中央を陣取る。

 グリーン、ゴールド、レッド、シルバーのボールや様々なツリーオーナメントが、色取り取りのLEDライトのイルミネーションを反射して輝く。


 そこに事件の関係者一同を目の前にして、我らが名(迷)警部――波謎野はなぞの警部が、今まさに事件の犯人の名を告げようとしていた。


 この屋敷の当主――財賀殖太ざいがふえた氏がカギの掛かった自室で遺体としてみつかった。最初の見立てでは自殺との見方が濃厚であったが、現場に残された様々な事象から、波謎野警部が出した見解は、これは殺人の可能性があると結論づけられた。

 つまり、これは密室殺人事件であると、波謎野警部は睨んだのだった。


 事件当夜この屋敷にいた関係者は、財賀殖太の三人の子供たち。

 長男の一太いった、次男の二太にた、そして三男の三太さんた、そして、当主――殖太氏の後妻になったばかりの年の離れた麻沙香まさかの計四人。


「――それで犯人は?」

 波謎野警部とコンビを組んでいる相棒の幇間ほうかん刑事が促す。


「犯人は……」

「犯人は?」


 一同は固唾を呑む。


「あなただ!」

 波謎野警部がある人物を指差し告げる。


「えっ!?」

 一同が響めく。


「ど、どういうことだ!? どこにわたしが殺ったという証拠があるんだ?」

 指差された人物が、顔を硬直させて反論する。


「ホウカン君、君から皆さんに説明してあげたまえ」

「えっ? ぼ、僕が――ですか? 警部ぅ……、無茶ぶりしないでくださいよぉ。意地悪ぅ……」


「ははは、冗談だよ、冗談! 可愛いねえ、ホウカン君は」

「け、警部ぅー、驚かせないで下さいよぉ! 本当に、お茶目なんだからぁ……」


「殺害された殖太氏は、自室にいる時には必ず部屋の中からカギを掛けていたと聞いています。間違いありませんね?」

 何事もなかったかのように、一同を前にして質問する波謎野警部。


「……ええ、そうです」

 一同の中から後妻の麻沙香が応える。


「当然、殺害された時も部屋にはカギが掛かっていたと思われます。そして殺害された後もカギは掛かっていた――つまり、犯人はドア以外の所から侵入し出ていったと思われます」


「おおぉ、警部。今日は一段と冴えてるぅ! ん? でも、それはどういう意味ですぅ?」

「おうよ! つまり犯人はドアからは入っていないのだよ、ホウカン君!」


「えっ? それでは、犯人は何処から侵入したのですか?」

「被害者の部屋には、此処と同じように暖炉があっただろう」


「ええ、暖炉はあります。それが何か?」

「わからないかい……? 昨夜はクリスマス・イヴだよ」


「え――ま、まさか!?」

「そのまさかだよ! ホウカン君」


「で、では、侵入口はその暖炉ということですか?」

「そのとおりだよ」


「でも、あのような暖炉のレンガ造りの煙道には、外部から冷気が侵入しないように途中にダンパーが付いています。それに、暖炉の燃やし始めに煙が逆流しないようにと、煙り返しも付いていますから、人は絶対に入れないですよ」

「そうなのか……、しかし、それでも彼は入ってきたんだよ。そうでないと辻褄が合わない」


「それで、どうやって入ったというのです?」

「それは、だな――」


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