初仕事


 風音の覚悟の出来たところで、詳しい仕事の内容を相談することになった。


「この写真の人が標的で、苦手なものはジャパニーズホラーとの話ですが」


「はい。洋画のゾンビや怪物などは、むしろ楽しそうに観ているので、それは避けた方がいいと思います」


 もちろん中心は鳥居跡で、それを補佐するように京子が口を挟む。

 風音はそれを感心しながら、ただ聞いているしかなかった。

 やる気のなさそうな顔の上司が、仕事をしようとしている姿に感心していたのもある。


「それじゃあ王道の、ジャパニーズホラーをお見舞いしましょう。準備として、半日時間をください。決行は深夜3時に、家の前で待ち合わせで」


「はい。よろしくお願いします」


 そうこうしている間に話はまとまっていて、二人は頭を下げあって解散となった。

 風音は慌てて、鳥居跡の後を追う。


「鳥居跡さん! 待ってください!」


 感心していた為に、作戦の半分も理解していない彼女は、次の行動が分からず焦っていた。

 鳥居跡も特に何も言わず、どんどん進んでいってしまう。


「あの、準備って何をするんですか?」


 それでも、小走りで隣に追いつくと尋ねた。

 彼は彼女を一瞥すると、少し目を閉じて静かに言う。


「ジャパニーズホラーの特徴は、何だと思う?」


「特徴、ですか。そうですね……何となくですけど、じめっとしていて呪いをテーマにしているのが多い感じがします」


 風音は考えに考えて、自信なさげに答えた。

 それを聞いた鳥居跡は、当たっているとも外れているとも評価しなかった。

 閉じていた目を開けて、また歩く。

 きっと正解だったんだろう、そうポジティブに風音は考えて、もう何も聞かずについて行った。




 それから半日の時間をかけて、準備を終えた風音達は待ち合わせ場所に来ていた。

 約束の時刻よりも早いせいか、まだ京子の姿はない。

 風音は背負っていた大きなバッグを、静かに地面に下ろす。

 重量のあるそれは、中に様々な物が入っているようで、微かに金属音が聞こえた。

 特に何も荷物を持っていない鳥居跡は、時計を見る。


「先程、確認した作戦通りに行動してください。タイミングが少しでもズレたら、全て終わります」


「はい。何度もシミュレーションしているので、間違いのないようにやります」


 半日前とは違い、彼女の顔つきは凛々しいものへと変わっていた。

 この短時間の間に、何があったのか。

 それは、当事者の二人にしか分からないことだ。

 彼女の言葉に満足そうに頷いた鳥居跡は、ちらりと道の先を見た。

 深夜という時間のせいで、街灯の明かりの下にあるものしか分からないはずだった。

 しかし彼には、こちらに近づいてくる気配が手に取るように分かった。


「来ました」


 彼の言葉で、ようやく風音も気がつく。

 そして同じ方向に視線を向ければ、音もなく京子の姿が突然現れた。


「すみません、お待たせしましたか?」


「いえ、時間通りです」


 すでに風音達がいる事に、京子は申し訳なさそうに謝ったが、すぐに鳥居跡がそれをフォローした。

 その言葉には、今日の風音の数秒の遅刻に対する嫌味のようなものを感じられたが、彼女は気付かないふりをする。


「準備は出来ているみたいですね。それじゃあ、こちらで立てた作戦を教えますので、頭に入り次第実行に移しましょう」


 鳥居跡も別に深堀する気は無いみたいで、それ以上は何も言わなかった。

 そして三人は、少しの時間顔を近づけて話し合うと、標的のいるマンションのとある一室を不敵に見た。

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