依頼人と
鳥居跡が連れてきた先で、風音の考えは百八十度変わった。変わらざるを得なかった。
そこで出迎えたのが、血まみれの女性だったのだ。無理もない。
今までの人生で、そんな状態の人を見た事のなかった彼女は、何も考える暇もなく気絶した。
次に目が覚めた時、心配そうに顔を覗き込む女性の顔に、もう一度意識が遠のきかけたがなんとか持ちこたえる。
「ここここんにちは」
「初めまして、こんにちは」
そして挨拶をすると、見た目に反して穏やかに挨拶が返ってきた。
「私は京子です。あなたが鳥居跡さんの、部下さんですか?」
「は、はい。月夜見風音です。えっと、あなたは?」
風音は寝かされていた長椅子から起きあがり、状況を確認する。
会議室みたいな場所には、彼女の他に京子と名乗った女性と、少し離れた場所に鳥居跡がいた。
彼に向かって助けを求める視線を送っているが、全く無視をされている。
仕方がないから、京子に聞いた。
「ああ。私は見ての通り死んでいるの、だから幽霊よ」
あまりにもあっさりと言われたせいで、疑問を持っている風音の方がおかしい雰囲気になる。
「この前、鳥居跡さんを脅かそうとしたら、駄目出しをされたから。恐怖コーディネート課に、依頼をしたの」
京子は、鳥居跡の方を見た。
「そうですよね」
「はい、その通りです」
視線を受けた彼は、軽く頷く。
そして二人に近づいた。
「今回の仕事は、彼女の生前の交際相手である方に対して、恐怖をお届けします。僕達は、それを演出するんです」
終始穏やかな表情をしているが、言っていることは全く穏やかではない。
風音はとりあえず笑って、現実逃避をし始めた。
きっと拒否権はない。
それが分かっているからこそ、今この時間だけは現実を見たくないという思いからだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます