自己紹介タイムと仕事内容について


 衝撃から抜け出した風音は、いつの間にか鳥居跡の他に人がいることに気がつく。

 男性と女性。


 男性の方はこの中で一番背が高く、ガタイもいい。

 動物に例えると熊みたいなタイプで、鳥居跡などデコピンだけで倒せそうだ。


「俺の名前は、剱崎将吾つるぎざきしょうご。よろしくな!」


 ガハハと豪快に笑う姿は、見た目通りの性格のようだ。

 差し出された手を握り返しながら、風音はいい人そうだと笑った。


 女性の方は、百六十六センチの風音と同じぐらいの身長の、クールビューティー。

 眼鏡をかけて髪を後ろで団子にしている姿は、女教師や女医、秘書など仕事が出来る女性という感じだ。


「私は氷上詩季ひがみしきです。よろしくお願いします」


 洗練された動きで一礼する姿に、風音はつい見とれてしまう。

 しかし、すぐに覚醒して自己紹介をした。


「月夜見風音です。今日から、この部署に配属されました。よろしくお願いします!」


 深々と頭を下げた彼女の姿に、好ましい感情を抱いた二人は、鳥居跡を見る。


「俺は合格!」


「私もです。一部分ですが仕事内容を知ってもなお、この態度ならなんとかやっていけると思います」


「……そうですか」


「へ? へ? 何のことですか?」


 ただ一人、会話についていけない風音は、三人の顔をそれぞれ見て首を傾げる。

 しかし誰も、含みのある表情をするばかりで説明はしてくれない。


「気にしないでください。自己紹介も終わったことですし、詳しい仕事内容の説明をします」


 更には話題を変えられた。

 それに対して、何かを思わないわけではなかったが、来たばかりの新人ということもあり遠慮をした。


 それぞれの席に座ったのを確認すると、鳥居跡は風音に冊子を渡す。

 受け取った彼女は表紙を見る。

 そこには幼児向けのイラストと共に、『きょうふこーでぃねーとかについて』とひらがなで書かれた文字が書かれていた。


「こ、これは?」


「新人向けの分かりやすい資料です。それを読めば、大体のことを理解するでしょう」


 あまりにもおかしくて、顔を引き攣らせながら聞いた風音だったのだが、返ってきたのは真剣な表情。

 からかっているわけでは無さそうなので、彼女は何だか疲れを感じながら、その冊子を読んだ。



 数十分後。

 冊子の中身を隅から隅まで読んだ風音は、信じられないと言った表情で顔を上げる。


「あ、あの。ここに書かれていることって、冗談ですよね? 先程も思ったんですけど、幽霊や妖怪なんているわけないですし」


 書かれているのは、『恐怖コーディネート課』がどのように仕事を進めるかというもの。

 しかし彼女にとっては、まず幽霊や妖怪がいるという前提からしてありえなかった。


「いいえ。冗談でもないですし、幽霊や妖怪はいます。まあ、一生会わない人も一定数いますから、信じられないかもしれませんが」


 混乱している風音を宥めるように、鳥居跡は席を立ち近づく。

 そして、彼女に手を差し伸べた。


「え、えっと?」


 その手の意味が分からず戸惑う彼女に、彼は優しく微笑む。


「百聞は一見にしかずです。さっそく今から、仕事をしに行きましょうか」


 何だか目が笑っていない。

 それに気づいてしまった彼女は、しばらくの間あいまいな笑みを浮かべていたが、観念して立ち上がった。


「……はい」


 幽霊や妖怪なんているはずない。

 その考えは今のところ変わらないから、どこへ連れていかれるのか少しの好奇心と、得体の知れない恐怖を抱いて、鳥居跡の後に続き部屋を出た。

 それを、剱崎と氷上は楽しそうに見送った。

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