誰も理解しない犯罪思考


 私は、世間でいうと悪者のくくりに入るんだろう。


 だって人を殺しているのに、未だに逮捕されたことが無いのだから。



 初めての殺人は、ありきたりな話なのだが家族だった。

 虐待をされていたとか、そういう悲惨な理由ではない。

 ただ、ある日いらないと思ったのだ。

 家族がいなくても私は別に困らないと思ったし、いるデメリットの方が多い気がした。


 だから、殺した。


 当時はまだ中学生だったから、難しいことはできなかった。

 ただ単に、侵入者が殺されたように見せかけただけ。信ぴょう性を増すために、自分の体にも傷をつけた。

 それがうまくいったのか、現在も犯人は捕まっていないという話になっている。

 両親の心臓に向かって包丁を振り下ろした感触は、未だに心に残っている。私の中で、いい思い出の一つだ。



 そして、私の罪はこれだけではない。

 あくまでも両親の殺人は、物語で言えばプロローグに過ぎない。

 これからが、面白くなるのだ。



 中学生という年齢で、完全犯罪を成し遂げてしまった私は犯罪をするのにためらいが無くなってしまった。

 そして次の機会は、案外早く訪れた。

 殺したのは、近所に住む老婦人だった

 両親がいなくなった私に対して、とても優しく接してくれた人。


 そんな人を、どうして殺すことになったのか。

 私の大嫌いな、ニンジンが入った煮物をおすそ分けに来たから。

 ニコニコと笑って、厚意を押し付けてきたから。

 煮物のお礼をすると言って家の中に入れ、包丁で刺した。

 まさかそんな事をされるとは思っていなかったのか、驚いた顔のまま死んでいった。

 死んでいくまでの様子をぼんやりと眺めながら、人は呆気なく死ぬのだと私は感じていた。


 衝動的な殺しだったから、隠すのは大変だった。

 老婦人は旦那さんに先立たれ、一人暮らしではあったけど、定期的に息子夫婦が顔を見に来ていた。

 しかも殺した日の次の日が、その予定だと殺す前に聞いていたので、隠ぺいにはスピードが求められることとなった。


 それでも家の中に置いておくだけで、物取りの犯行だという話になったから、大変ではなかった。

 ちゃんとカモフラージュに、色々なところを荒らしておいたのが良かったみたいだ。

 目撃者がいなかった事も、私に有利に働いてくれた。



 こうして二回目の殺人も、疑われることなく無事に終わらせた私は、それからは普通の生活を送っていた。

 人を傷つけず、犯罪も犯さず。

 高校、大学、そして社会人になってしばらく、そうやって生きていた。


 しかし、ある事がきっかけで、また人を殺してしまった。

 しかも今度は、全く知らない人を。

 名前も年齢も、住んでいる場所すらも知らない。

 それなのに何故、その人を殺そうと思ったのか。


 理由は、ただ一つ。

 毎朝同じ時間に、私の家の前を通るからだ。

 別に私の眠りを妨害していたり、嫌な態度をとられたわけではない。

 たぶん健康のため、ジョギングをしている感じだったのだけど。


 ただ私としては、それが不快だった。


 どうして私の家の前を、わざわざ通るのか。

 しかも同じ時間に。

 いちいち視界に入るたび、私の苛立ちはどんどん募っていった。

 だから、これ以上イライラしたくないから殺すことにした。


 どこの誰だか分からないから、今までよりも準備は入念に行う。

 家族がもしもいて、捜索届を出されたら面倒だ。

 だから失踪とか、自分の意思でいなくなったと思われるように、細工をしなければならない。

 私はしばらくの間、走っている姿を見ながら入念に頭の中で計画を立てていた。

 計画が成功すれば、また穏やかな生活が戻ってくる。

 そう思えば、たくさんの計画が思い浮かんだ。

 あとはその中からいいものを選んで、実行するだけ。


 決行日は、とても良く晴れていた。

 いつもの様に私の家の前を通ろうとする、その女性を後ろから殴った。

 そして誰か人が来ては困るから、早く家の中に入れて、そしてその後はいつもの様に包丁を使って心臓を刺した。


 何度も何度も、腕を振り上げては刺して。

 死んでからも、しばらくは刺し続けて。

 腕が痛くなってやめた頃には、心臓の部分がズタボロになっていた。

 肋骨があるはずなのに、その感覚が無かったのは刺すことにだけ集中していたからか。

 私は息を切らしながら、既に死んでいる女性に対して手を合わせた。

 別に、後悔の気持ちに襲われたからではない。


 死んだ人に対してはこうするべきだと、テレビや小説で見たからしたまでだ。

 だから特に意味なんて無い。

 私は少しの間手を合わせると、すぐに切り替えて目的の物を取りに向かう。

 今日殺すと決めた時に、時間をかけて用意しておいたもの。


 鉈、タンパク質分解酵素、ゴミ袋、タッパー。

 別々の店で買って、私の元にたどり着けないように、小細工も施した。

 なにかヘマをしていない限りは、完璧だ。

 時間をかけて、死体が発見されないように。

 両親が遺してくれた一軒家が、こういう時に役立つ。


 処理を終えた私は、ある種の達成感に満ち溢れていた。

 目の前には、元の形が分からないぐらい細かくされたものが、ゴミ袋やタッパーに入って綺麗に並べられている。

 きちんと処理をしたおかげか、臭いもそこまで気にならない。

 遺体は終わらせたから、今度は血で汚れてしまった服と体を、どうにかすることにした。

 服は選択が面倒だから、切り刻んで少しずつ捨てよう。

 体は、今からお風呂に入ればいいか。

 私はゴミ袋は玄関に、タッパーは冷蔵庫に入れて、浴室へと向かう。

 その頃にはもう、殺した人の顔なんて頭の中からすっかり消え去っていた。



 体の血をすっかり落として、私はぽかぽかと湯気を出しながらリビングへと戻る。

 そうすれば、いつもと変わらない部屋が私を出迎えた。

 第三者が見ても、つい数分前まで人をバラバラにしていたとは思わないだろう。

 最近の消臭剤は、高性能だな。

 私は鼻をひくひくとさせてにおいをかいでみたけど、不快な臭いは全くしなくて少しほっとした。

 これからご飯を食べるのに、邪魔だからだ。


 部屋着に着替えると、台所に行き私は冷蔵庫を開ける。

 そうすれば真っ先に、昨日下ごしらえをしておいた鶏肉が目に入った。


「唐揚げ、作るか」


 揚げ物は面倒ではあるけど、今日は何でもできそうな気分だ。

 やる気が出て来た私は、鶏肉を取り出す。

 油も前のが残っているから、それを使う事にした。

 鶏肉を揚げていれば、見た目に美味しそうで勢いよくお腹が鳴った。

 私はお腹を押さえて、一人で照れる。

 一人だからまだいいけど、もしも周りに誰かがいたらさらに恥ずかしいやつだ。


 そんなくだらない事を考えていれば、唐揚げも上手く揚がった。

 それをお皿に綺麗に並べて、レモンを絞る。

 私しか食べないのだから、やりたい放題だ。

 好きな味付けにして満足すると、リビングに戻りテーブルの上に並べる。

 ご飯や、お味噌汁、漬物も一緒に置いて、その前に座った。


「いただきます」


 一人だけど頭を下げて、挨拶をする。

 そしてご飯から食べ始める。

 随分とお腹が減っていたから、全部が美味しい。

 私は、いつもよりも早くお皿を空にすると、また頭を下げる。


「ごちそうさまでした」


 自分で作ったものだけど、本当に上手くできたと思う。

 満足してお腹をさすると、私は食器を片付け始める。

 そしてすぐに終わらせて、リビングのソファでくつろぐ。

 今日は色々とやったから、少し疲れた。

 まだ終わっていないけど、きっと今回も警察に疑われることなく終わるはずだ。


 私はふと、テレビをつけた。

 パッとついた画面では、再放送の番組がやっていた。

 殺人を犯した人が、どうしてそんな事になったのか経緯を説明している。


 そしてその中の一つに、とても興味深いものがあった。


『毎朝、同じ時間に家の前を通るから』


 何だか人ごととは思えない。

 私はその番組を、よくよく見てみる。

 だいたい同じぐらいの年齢の犯人は、その人をある日殺そうと決意する。


 その理由は。



「……なーんだ」


 見終えた私は、少しガッカリした気分でテレビを消した。

 全く面白みも、共感も出来なかった。

 そんな理由で人を殺すなんて、ありえない。


 他人と同じ理由は無いだろうけど、ここまで分からないとは。


「監視されているような気がした、ね。馬鹿らしい」


 嘲笑うように呟いて、私はソファから立ち上がった。

 そんなくだらない理由だから、逮捕されてしまうのだ。



 私は絶対に、そんな風にはならない。





『誰も理解しない犯罪思考』

 ・人を殺す理由は色々とある。

 ・それが他人に理解されるとは限らない。

 ・むしろ他人から見ると、どうしてそんな理由でというものが多いだろう。

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