SNSドッペルゲンガー


 その子に気がついたのは、本当に偶然だった。

 SNSで有名人の情報を集めていた時に、ふと目についた。


 それは有名人ではなく、普通の一般人の子だったのだが。


「……私に、似てる?」


 アイコンにしている画像が、まさかの私にそっくりだった。

 もちろん名前は違ったのだが、双子だと言っても納得されるぐらいは似ていた。

 少しの気味悪さを感じつつも、彼女の詳しい情報を調べる。


 年齢は私の一つ下。

 住んでいるのは、同じ関東圏内。

 そして驚いたことに私と同じ趣味、同じ有名人を好きみたいなのだ。

 偶然にしては出来すぎだと思ったけど、その有名人を好きな人が今まで周りにいなかったから、私はとても嬉しくなった。

 初めて、同年代の子と趣味があったのかもしれない。

 そうだとしたら、私はもう我慢が出来なかった。


「『初めまして、こんにちは。私もその人の事が好きなんです。だから、お話ししてくれると嬉しいです』……と。こんな感じかな?」


 私は普段だったら絶対にしないことを、気がつけばやっていた。

 その人をほとんど知らないのにも関わらずに、直接連絡を取ろうとしたのだ。

 どうしてそんなことをしようと思ったのか、自分でも分からない。

 ただなんとなく、こういったSNS上の友達を作りたくなったのだ。

 送り終えた後は少し後悔して、慌てて取り消そうとしたけどそれは止めた。

 もしかしたら新しい友達が増えるかもしれない。

 そんな期待の方が、気持ちの中で多くの割合を占めていたからだ。





 それからしばらくの時間が経って、その子からとうとう返信が来た。


『こんにちは、よろしくお願いします。あなたも好きなんですね! 周りに気があう人がいなかったから、とても嬉しいです。こちらこそ仲良くしてください!』


「……わ。返信が来た」


 送ってから時間が空いたから、見てもらえていないと思っていたからなんだか変な気持ちだった。

 それでも徐々に嬉しい気持ちに変わっていって、私は自然と顔がにやけてしまう。

 これはもしかしたら、本当に初めてのSNS友達が出来るんじゃないのか。

 そう考えたら、居ても立っても居られなくて私は返事を打ち始める。


『返信ありがとうございます! 私も周りに仲間がいなかったので、すごく嬉しいです。たくさんお話ししましょう』


 何度も消しては打ち、確認をし終えると送った。

 そうすれば今度はすぐに、返事が来た。


『知っているとは思いますけど、私の名前はワカです。あなたはミカさんですよね。同年代なので敬語は無しにしたいのですが、どうですか?』


 私はさらに笑みが止まらなくなって、急いで打つ。


『そうです。ミカです! 私もワカちゃんと呼ぶから、あなたもミカって呼んで。敬語も全然無しでオッケーだよ』


『それじゃあ、ミカちゃんって呼ぶね。私SNSで友達が出来たの初めてだから、ドキドキしてる』


『私も! 送ろうかどうか迷っていたけど、勇気を出して良かった!』


 テンポよくできるやり取りは、リアルの友達とするよりも楽しかった。

 その日は、いつもより遅くまでワカちゃんと話をしていた。

 全く眠くなんかなかったけど、次の日は学校だから泣く泣く十二時頃にお休みの挨拶を送った。

 彼女も残念そうにしていたから、また夜に連絡すると言えば喜んでくれた。





 それから私はワカちゃんと、ほぼ毎日たくさんのやり取りを重ねていった。

 そのおかげで、一番の親友だと言えるぐらいは仲良くなった。

 やっぱり共通の話題があるというのは、仲良くなるために欠かせないものだ。

 今日はその話題の人物である人が、ゴールデンタイムのテレビに初登場するとの事で、ものすごく会話が盛り上がった。

 今まで深夜やネットの番組にしか出てきていなかったから、これで人気がさらに出そうな気がする。

 それは嬉しいことなんだけど、ミーハーなファンが増えると思うと複雑な気分だ。

 その気持ちをワカちゃんに伝えれば、彼女も同意してくれた。


『何か前まで興味無かった癖に、有名になったらキャーキャー言うのって都合良すぎだよね』


『そうそう、今更って感じ。まあ、本気で好きになった子なら良いけど、そういうのばかりじゃないし。すぐに飽きるのなら、最初から好きにならないで欲しい』


『そういう人のせいで、イベントのチケットが取れなくなるのは本当にムカつく』


『だよねー』


 テレビを見終えると、私達は感想を言いあいながらくだらない話をする。

 この時間が毎日の癒しになっていて、どんなに辛い事があってもワカちゃんと話をしていれば、たちまち元気になってしまう。

 あの時、勇気を出して良かったといつも思う。


 そして最近は、とある事も思うようになってきた。

 ワカちゃんに、実際に会ってみたい。

 双子のように顔も好きなものも似ていて、話も合う。

 そんな子とSNSだけでしかつながっていないのは、もったいない気がするのだ。

 だから一度顔を合わせて話をして、どこかに遊びに行きたい。

 会った時の事を考えたら、もう駄目だった。

 いつもその事ばかりが頭を占めていて、授業も集中できなくなってしまう。


 でも心配なのは、ワカちゃんの方も同じことを思ってくれているかどうかだ。

 私ばっかりがそう思っているだけで、別に会いたくはないと言われたら、今までみたいに気軽に話が出来なくなる。

 それだけは嫌だった。

 だからその提案を送ろうとしては、止めての繰り返しを最近はしていた。


 今日もタイミングを見ては、送ろうかと迷っていたけど未だに出来ていなかった。

 そのせいで会話に気持ちが入っていなかったのか、ワカちゃんが不安そうに聞いてきた。


『ミカちゃんどうしたの? 私の話つまらなかった?』


 まさかそんな事が言われるとは思わず、ドキッとしてしまった。

 私はなんて返そうかと考えて、そして勇気を出した。


『ごめんね。ちょっと提案したいことがあって……。良かったらでいいんだけど、一度会いたいなって思っててね。どうかな?』


 うだうだと考える前に、勢いで送る。

 すぐに後悔が襲ってきたけど、もう取り消せない。

 私はワカちゃんからの返信が来るのを、絶望して待っていればいいのか、期待して待っていたらいいのか分からなくなる。

 そして返信が来た時は、飛び上がってしまった。

 一体どんな内容なのか。

 ドキドキしながら、私は中身を見た。


『実は私も会いたいと思っていたの。だから提案してくれて、すっごく嬉しい! 会おう会おう!』


 良かった。

 私は嬉しくなって、いつも以上にはやく返信した。


『やった! それじゃあさ、今度の日曜日なんてどう? 場所はワカちゃんが決めて!』


『OKだよ! それじゃあ決めたら、また連絡するね!』


 ワカちゃんとのやり取りが終わったあとも、ウキウキとしながら会う日を楽しみにしていた。

 何を着て、何をして遊ぼうか。

 それを考えているだけで、元気いっぱいで過ごせそうだ。

 私は洋服を選びながら、自然と鼻歌を歌っていた。





 そして、とうとう約束の日が来た。

 私はお気に入りの服を着て、指定された場所にいた。

 そこは知らない場所で、たぶんだけど空き地とかなんだと思う。

 だから周りに誰もいないけど、その方がワカちゃんのことが分かりやすいから好都合かもしれない。


 約束の時間までは、まだ少しある。

 早く来ないかな。

 私は何度も何度も時計を確認しては、ため息をつく。

 期待がどんどん高まって、心臓が痛いぐらいだ。


 そうして待っていた時、突然後ろから抱きしめられた。

 私は驚いて固まったけど、すぐにワカちゃんだと分かり、笑いながら口を開く。


「もー、びっくりするじゃん。ワカちゃん」












「はぁ……はぁ。……本物のミカちゃんだあ」



「ひぃっ!?」



 しかし後ろから、生暖かい息と共に気持ち悪い男の声が聞こえてきた。

 私は鳥肌が立ち、腕を解こうと暴れてみるけど、腕は外れなかった。


 どうしてどうして。


「助けてワカちゃん!」


 未だに来ていない彼女の名前を、精一杯叫んだ。

 そうすれば、そろそろ来るはずだから気がついてくれる。

 ワカちゃんなら、助けてくれる。



「ミカちゃんは可愛いなあ。僕だよ、ワカだよ」


 そう期待していたのに、帰ってきたのは絶望だった。

 私は意味が分からなくて、もう抵抗することも出来なくなって力が抜けた。

 どうしてこうなったのか理解出来なかったけど、これから起こるのは最悪でしかないことだけは本能で感じる。


 そして私は、後ろからハンカチを口に押し付けられ、すぐに意識が途切れた。





『SNSドッペルゲンガー』

 ・SNSに、自分と似た顔の人の投稿がある。

 ・気になって連絡を取ると、趣味などの話が合う。

 ・それはもしかしたら、あなたの写真を使った人が、良くないことを企んで投稿したものかもしれない。

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