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「やっと終わったー」
お店を閉めて、恵はようやく一息をつくことができた。
「お疲れ様、四ツ谷さん」
そう言って、店長さんが恵のためにコーヒーを入れてくれた。
「あ、ありがとうございます」
恵はコーヒーを受け取った。
「このあとの閉め作業は僕がやるから、四ツ谷さんは松野くんと一緒に先に上がっていいよ」
店長さんは言った。
「え、いいんですか?」恵は言う。
「いいよ」
そう言って店長さんはにっこりと笑って、それからお店を閉める作業に取り掛かった。
このケーキ屋さんの店長さんである深草さんはフランス帰りのすごいお菓子職人さんだった。深草さんは奥さんと二人で、このケーキ屋さん、『深草』をこの街で開店させた。
それは今から五年前くらいの話で、この深草の味や雰囲気に憧れて、葉月くんはパティシエを目指すようになったのだと言うことだった。
言ってみれば深草さんは葉月くんの師匠のような人だった。
恵がお店の更衣室に行くと、そこにはすでに葉月くんがいた。
「お疲れ、四ツ谷さん」
葉月くんはいつも通りの無表情で、一言だけ恵を見てそう言った。
葉月くんはすでに私服に着替えをしていた。
恵は更衣室の中に入り、そこでウェイトレスの制服から、自分の私服に着替えをした。
そして更衣室を出ると、そこにはまだ葉月くんがいた。
それは珍しいことだった。
「どうしたの?」
恵が言う。
「途中まで、一緒に帰らない?」
すると、そんな奇跡のようなことを葉月くんは口にした。
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