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「さよなら?」早月は言った。
「うん。僕はもう、早月とは会えないから」陸は言った。
「……どうして?」早月は言う。
早月は寒くて仕方がなかった。
早月は如月家の門に手をかけようとした。
門を開けて、陸のところまで行こうとしたのだ。
「だめだよ」と陸は言った。
「こっちにきちゃ、だめだよ」
そう言ってから、陸はゆっくりと歩いて、門のすぐ前のところまでやってきた。
「陸」
早月は陸に手を伸ばした。
でも、陸は早月の手を握ってはくれなかった。
「さようなら。早月」
陸はにっこりと笑ってそう言った。
「どうしてそんなこと言うの?」
早月は、また泣いていた。
悲しくて、悲しくて仕方がなかった。
真っ暗な空から降ってくる雪が冷たくて、外に吹く風が冷たくて、仕方がなかった。早月には陸に触れたくてたまらなかった。
陸はそっと後ろに下がった。
陸は早月から離れていこうとしていた。
早月はそれが嫌だった。
「お願い。陸、行かないで」
早月は言った。
でも、陸はにっこりと笑って、「ばいばい、早月」と早月に言った。
陸は早月に背を向けて、暗闇の中に歩いて行った。
「陸!」
早月は陸を追いかけようとした。
でも、如月家の門には鍵が閉まっていて、開けることはできなかった。
そのとき、強い冬の風が吹いた。
その風の冷たさに思わず早月は目をつぶった。
そして次に目を開けると、陸はどこにもいなくなっていた。
それが早月が最後に見た、陸の姿だった。
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