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「……約束、守れなくてごめん」陸は言った。
「いいよ。そんなこと」
早月は言った。
陸は本当に悲しそうな声でそう言っていたし、早月も陸の顔を見たら、なんだかそんなことはもうどうでも良いことのように思えてきたのだった。
「こうして、ちゃんと会えたんだから」早月は言った。
「うん。そうだね」
小さく笑いながら、陸は言った。
「陸。そっちに行ってもいい?」と早月は行った。
早月は如月家の門を通って、陸のいる場所の近くまで行きたかった。そしてできれば、いつものように、ぎゅっと、陸に抱きしめてもらって、凍えてしまった自分の体を陸の体の体温で温めてもらいたかった。
でも、陸は早月に「それは、……だめだよ」と言った。
「え?」
早月は驚いた。
優しい陸なら絶対に「いいよ」と言ってくれると早月は思っていたからだ。
早月はなんだか陸から拒絶されたような気がして、また少し泣きそうになった。
降り出した雪はだんだんとその勢いを増していった。
このまま雪が降り続けば、明日には東京の大地は真っ白な色に染まるのだろうと早月は思った。
陸はそんな強さを増している雪の降る真っ暗な空を見上げた。
早月も同じように空を見た。
そこにはなにもなかった。
月も星もなく、雪はあったけど、それ以外はただ真っ暗な空が広がっているだけだった。
「僕は早月にさよならを言いにきたんだ」と陸は言った。
早月はその言葉に驚いて、顔を下げて陸を見た。
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