18

 真冬と芽衣は土手の上で向かい合った。

 背は真冬のほうが高いから、芽衣は少しだけその顔を上にあげていた。

「別にいいよ。早乙女さん。なにか用事ができたんだよね」

 芽衣の息が落ち着くのを待ってから、にっこりと笑って真冬が言った。

 その真冬の中学一年生のときから変わらない優しい顔を見て、芽衣の鼓動は、当時と同じように一度、とても強く高鳴った。

「うん。先生に用事を頼まれてしまって……、って、言い訳だよね。ごめんなさい」芽衣はまた真冬に頭を下げる。

 それから芽衣は頭をあげて、「それで、……その、お昼休みの続きがしたいんだけど、ここで、このままってことで、……いいかな?」と恥ずかしそうにしながら真冬に言った。

「うん。いいよ」真冬は言う。


 芽衣は髪や服装を整えて、それから一度深呼吸をする。

「柊木真冬くん。私の告白の返事、聞かせてください」芽衣は言う。

 芽衣は真剣な顔で真冬の顔をじっと見つめている。

 芽衣は、意思の宿ったいつも通りの強い目をしている。

 でも、その瞳の影には、怯えの色が隠れている。

 真冬の答えは決まっている。

 いや、ずっと前から決まっていたのかもしれない。

 さっきまでは迷っていたはずなのに、こうして芽衣と向き合っていると、それ以外の答えはないのだと一瞬で気がつくことができた。

 確かに自分の中には、迷っていても、『芽衣ともう一度出会えば必ずその答えがわかるはずだ』というような感覚はあった。でも、こんなにはっきりとわかるとは思っても見なかった。

 真冬は思わず、少しだけ、なんだかおかしくて笑いそうになってしまった。

 自分でも不思議なほど、気持ちが落ち着いていた。

 芽衣に告白されて、こうして芽衣と向かい合ってみて、ようやくわかった。

 僕は、あのとき、中学一年生のころに、誰もいないと思っていた教室の中で、芽衣と二人だけで出会ったあのときからずっと、芽衣と一緒に誰もいない学校の中を二人だけで歩いたあのときからずっと、早乙女芽衣のことが好きだったんだということが、今、はっきりとわかった。

 僕はずっと、早乙女芽衣に恋をしていたのだ。

「こんな僕でよかったら、これから末長くよろしくお願いします」

 真冬はそう言って、自分の右手を芽衣に向かって差し出した。

 その手を見る、芽衣の体は震えている。

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