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 それから少し歩いたところで、「……えっと、そろそろ俺いくわ。じゃあな、真冬。また明日」と、落ち着かない様子の忍が突然、そんなことを真冬に言って、二人は土手の上で別れることになった。

「急にどうしたの?」

「いや、まあ、ちょっと急用ができて、……まあ、そういうことなんで、またな」忍は言う。

 それから忍は土手の上を走って、真冬の元から去って行った。

 忍の家まではまだだいぶ距離があるから、もしかしたら忍は今から、さっき走っていった絵里のことを追いかけたのかもしれないと、真冬に手を振りながら赤色に染まる土手の上を走っていく忍の後ろ姿を見て、真冬は思った。

 一人になった真冬はゆっくりと川の景色を見ながら歩いていた。

 周囲にはほとんど人気はなかった。

 真冬と同じ中学校からの下校途中の生徒の姿がほかに二、三人くらい見えるくらいだった。

 そんな中、ふと真冬が視線を後ろに向けると、土手の上をこちらに向かって一生懸命になって走ってくる一人の女子生徒の姿が見えた。

 よく見ると、それはどうやら早乙女芽衣のようだった。


 芽衣は全速力で夕焼けに染まる風景の中を走り続けていた。

 真冬はそんな芽衣の姿を見て、すごく綺麗だな、とか、そんなことを思っていた。

 真冬は足を止めて、後ろを向いた。

 すると、それから二分もしないうちに、芽衣は真冬の目の前までやってきた。

「はぁ、はぁ」と芽衣は肩で息をしていた。

 本当に全速力で走ってきたことが、その息切れと、芽衣が全身にかいている玉のような汗でわかった。

 息を整えながら、芽衣は顔をあげて真冬を見た。

「……真冬。放課後の約束、すっぽかしてごめんなさい」

 芽衣は息を切らせながら、真冬にそう言って、深々とその頭を下げた。

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