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「うーん、わからない」絵里は言う。

「柊木くんは確かに『かっこいい』と思うけど、……当時のことは私はよく知らないし、それによく考えてみれば、今のは柊木くんの視点から見た話であって、早乙女さんはまた別の視点から世界を見ていたわけだし、私たちの知らない、なにか劇的な出会いがあったのかもしれない。たとえば雨の日に捨てられている子猫を柊木くんが拾うところを早乙女さんが目撃していたとか、……あるいは実は前日に二人は街の中ですれ違っていた、もしくは道路の角でぶつかって、それを柊木くんだけが忘れていたとか……」絵里は無責任な考察を続ける。

「絵里」忍が言う。

「なによ」

「お前、真冬のことかっこいいって、……もしかして絵里、真冬に惚れてんのか?」忍が言う。

「え?」

 絵里が真冬を見る。

 それから、絵里の顔が一気に、空の夕焼けの色に負けないくらいに真っ赤に染まった。

「……ち、違うわよ! 今のはただ森野の言葉に釣られただけで、私は別に柊木くんのことなんて、かっこいいとはちょっとも思ってないわよ!! むしろどちらかというとかっこ悪いと思ってるわよ!!」と絵里は忍のほうを見て叫ぶ。

 絵里の気持ちはわかるけれど、……そんな大声で。

 それは、なかなかひどい話だった。

「違うよ! 違うからね!」真冬を見て絵里は言う。

 そんな必死な絵里を見て忍がとてもおかしそうに笑っている。

 そんな忍に天罰がくだって、絵里は思いっきり忍の頬をひっぱたくと「さよなら!」と言って、一人で土手を駆け出して、家に帰って行ってしまった。


「忍くん。あとでちゃんと謝ったほうがいいよ」真冬が言う。

「ああ。ちゃんとわかってるよ。……それにしても、いてー。絵里のやつ。本気で引っ叩いて行きやがった」

 右の頬をさすりながら、笑顔で忍が言った。

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