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「うーん。でもわからないな」忍が言った。

「なにが?」絵里が言う。

「いや、俺はさ、真冬がすごくかっこいいやつだってことは知ってるよ。でもさ、当時の早乙女はさ、いつ真冬のことが好きになったんだろうって思ってさ。そこが謎なんだよな」忍は言う。

「……どういうこと?」絵里が聞く。

「だからさ、真冬は別に普通っていうか、そりゃ、偶然出会いはしたんだろうけど、それだけで人を好きになったりはしないだろ? 中学一年のころの真冬は一人で行動していて、無口で陰気なやつだったわけだろ? それに真冬は女子から一目惚れされるような外見をしているわけでもないしさ。まあ、俺ならともかくとしてもさ」忍は言う。

「あんた一回死んだら?」冷たい目で絵里が言う。

 真冬はそんな二人のやりとりを見て笑う。

 忍はあまり他人に遠慮をしないでありのままのことをありのままに発言する。もちろん、最低限のマナーをわきまえての上で、だ。それは真冬には、きっと生涯できないことであり、真冬はそんな忍のことがすごく気に入っていた。

 それに忍の言っていることは事実であり、真冬は女子から一目惚れされうような外見をしていないが、忍は確かにそんな王子様みたいな外見をしていた。実際に忍はよくあまり名前も顔も知らない女子生徒から告白をされたりしていた。

「でも、確かにいつ早乙女さんが柊木くんに恋をしたのかは私も気になる。話の内容だと、中学一年のころの、その二人が柊木くんの不注意な発言でぎこちなくなる前のことだとは思うんだけど……」うーん、と難しそうな顔をして絵里は空を見ながら考える。

 実は、それは真冬も気になっていることだった。

 芽衣は、……もし本当に芽衣が僕のことを好きなんだとしたら、いったいいつ、そして僕のどんなところに芽衣は好意を抱いてくれたのだろう? それがいくら考えても真冬には思い当たることがなかった。

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