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 しかし、放課後に屋上で待っていても、早乙女芽衣は屋上にはこなかった。

 真冬は何度か時間を確認したあとで、座っていた屋上にある備え付けのベンチから立ち上がると、一度、地面の上に転がっていたバスケットボールを(学校の屋上にはベンチだけではなくて、バスケットボールのゴールとボールがあった)ゴールの中に放り込んでから、そのまま赤い色に染まった屋上をあとにした。

 約束をすっぽかされたわけだけど、真冬には芽衣の事情がなんとなくだけど、予想がついていた。

 早乙女芽衣がこう言った大切な約束を理由もなくすっぽかすような性格の人間でないことは、真冬もよく知っていた。

 芽衣は人気者であり、また生徒会長であるためとても忙しい。

 生徒会でなにかの問題が起こったか、生徒の誰かになにかを相談されたのか、あるいは先生から仕事を依頼されたのか、それらの可能性のうちのどれかだろうと真冬は思った。

 責任感の強い芽衣は、自分の用事よりもそれらの用事を優先するだろう。なぜなら告白の返事をもらうことは私的な行為であるけれど、学校の仕事は公的な行為であるからだ。

 こういう場合、真冬の知っている芽衣なら私的な行為よりも公的な行為を優先する。

 真冬は赤い色に染まる校舎の中を一人で歩いて学校の玄関のところまでやってきた。

 するとそこには森野忍と南絵里がいた。


 二人はこそこそと隠れるようにして、真冬のことを見守っていた。

「二人とも、なにしてるの?」

 そんな二人に真冬は笑って声をかけた。

 すると二人は下駄箱の影からゆっくりと出てきて、「告白。どうだった?」と苦笑いをしながら、真冬に聞いた。

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