第11話 授業続行

「僕の・・・絵?」

「うん」

「君の見せたのは、先日が初めてのはず」

「個人的にはね、でも、私は普段から見ている」

「どこで?」

「それは、ここで・・・」

目の前の女は、一冊と本を取りだした。


「この雑誌は?」

「ここで見ているんだよ」

この雑誌は、公募した絵に評論家がコメントをする雑誌。

まあ、子供向けの雑誌で、読者からイラストや漫画を掲載するページがあるが、

それの少し、大きいもので、その程度の雑誌だ。


でも、コメントはかなり的をついている。

上手い下手ではなく、見た目の何かを見るようだ。


「でも、この雑誌には、僕の名前は載せていないけど・・・」

そう、僕はペンネームで、投稿している。

「猛牛の夢」

適当につけた・・・のではない。

某球団を、応援するためだ。


先日、「野球の記録を書いてくること」と、

目の前の女に宿題を出されえたが、これは関係ない。


問題は、どうしてそれが僕だとわかったかだ。

「わからない?」

「うん」

「なら、教えてあげる」

目の前の女は、口を開いた。


「実はこの絵の評論家は、私のお父さんなんだ」

「お父さん?」

「うん、だからこの絵の作者、つまり君ね、いろいろ訊かされたよ」

「会ったことないのに?」

「この間も言ったけど、専門家の人は絵をみれば、その人の事がわかるんだよ」

エスパーですか・・・


「私も君と同じで孤立していた。心が錆ついていた。もう無理だと思っていた」

「失礼だけど、そうは見えなかった」

「うん。お父さんが言うには、『この人の心はとても傷んでいる。でも、それを乗り越えようとがんばっている』」

「そんなことないけど・・・」

「間違いないよ、それで私は救われた。私もがんばろうと」

そう言えば、以前のこの人は知らない。克服したのか・・・


「だから、おせっかいだけど、私が君をたすけてあげたかった」

「僕を?」

「最初の日記は、ただのきっかけが欲しかった。君は答えてくれた。嬉しかったよ」

「でも、僕の絵とは関係ないんじゃ?」

「絵には個性が出るんだよ。この絵の作者と、君の絵は、同じ人が描いたとしか思えない」

絵は描く人に似るというが、それは半々に分かれる。


「で、最後の小説は?」

「あれは君の、感性をみるため」

「感性?」

「君の心が、どういう状態なのかが、わかるんだ、私には」

読唇術でも会得しているのか?


「君は、私と話していて楽しかったでしょ?私のうぬぼれかな・・・」

「いや、否定はしない」

「ところで、これからも私と、歩んでみる?それとも、1人で歩く?」

「君なら、言わなくてもわかるだろ」

彼女は微笑んだ。


そして、握手を交わした。

年頃の女の子の手は、こんなにもやわらかく、温かいのか・・・

なんだか、照れくさい。


いつの間にか、彼女への嫌悪感は消えていた。


「そういや、名前、まだ知らない?」

「しょうがない教えてあげる。私の名前は・・・」


ふたりだけの、授業はこれからも続く。

おそらく、命尽きるまで・・・

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心の錆 勝利だギューちゃん @tetsumusuhaarisu

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