第4話 自分に合うもの

一週間後


「書いてきた?」

「一応」

僕はノートを見せた。

彼女は丁寧に見てくれている。

その顔は、真剣だった。


「うん、今度は真面目に書いてきたね。えらい、えらい」

頭をなでなでされる。

(僕は、子供か・・・でも、これはこれで嬉しいと思うのは、男の性か・・・)


「で、次は何をすればいいの?」

僕は彼女に訊いた。


「「弘法筆を選ばず」という言葉は知ってるね。」

「ああ、知ってるよ。名人は道具を選ばずだね」

「そうです。でも、心の錆を落とすにはそれではだめなの」

「えっ」

「誰しも、自分に合う合わないものがあるよね。人にしても・・・」

「ああ」

確かに相性の合う合わないはあるな。

それは否めない。


「まず、君には自分に合った道具をみつけてほしい」

「僕にあった」

「でも、もうひとつは見つけてるよね?」

「何を?」

「君は、シャーペンを使わず鉛筆を使っているね」

「ああ」

「どうして?」

「シャーペンは使いにくい」

「そういうことだよ」

「えっ?」

「他人に合わせる必要はないの。仮に合わせてもその場しのぎだわ」

「そう」

わかったような、わからないような・・・


「なら、君に次の宿題ね」

「次の?僕は何をすれば?」

彼女に訊いた。


彼女は笑いながら答える。

「何でもいいから、一週間のひとつの出来事を細かく記録して」

「何の記録?」

「君の好きな物でいいよ」

僕は迷った挙句、冗談で口にしてみた。


「ひいきチームの一週間分のスコアボードでもつけようか?」

「それでいいよ」

「えっ」

「じゃあ、しっかりやってね」

また頭をなでられる。

何だか和む。

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