その5 絶滅危惧種を捕獲したい(後)
放課後の屋上は、噂を聞きつけた現地人でいっぱいだった。
屋上の中央部のみ広くスペースが取られ、それ以外は転落防止フェンスまでぎっちりだ。
余談ではあるが、勝敗を賭けてギャンブルも行われている。オッズは2:5。実績からか嵐矢間が有利という下馬評だった。知らぬとはいえ失礼な倍率だ。
「逃げずによく来たなぁ」
「時間厳守感謝する。少々、ギャラリーが多いが、些末なことか」
「大した自信じゃねえか! 行くぞオラァ!」
嵐矢間はただの喧嘩自慢ではない。小3の頃からボクシングを6年間、高校に入ってからは総合格闘技のジムにも通っているのだ。
顔面を狙い、鋭いジャブで牽制する。
当てるつもりではない、間合いを測るためのジャブだ。
対するアッシュは素人未満の棒立ちでフラフラと避ける真似事をしている。
アッシュのガードは明らかに頭部に意識が寄っている、と嵐矢間は判断。
更にジャブを重ね、次の瞬間!
すぅ、と体勢を低くしてタックルを敢行した。
嵐矢間の必殺パターンだった。
足を取り転がしてマウントポジションを取ってしまえば素人には返せない。
はずだった。
低空の高速タックルは空を切っていた。
「居ねえ!?」
たった今、この瞬間まであったアッシュの姿は、視界から完全に消失していた。
嵐矢間がタックルに移行した瞬間、アッシュは人間の限界を超越した加速をしていたのだ。
タックルの軌道から自身を外し、懐から取り出したハサミで素早く嵐矢間の髪の毛を採取、専用のケースに保存し確保。彼の首筋に薬物を注入。ここまでの行動をコンマゼロ秒以下の時間で完全に成立させていた。驚異的な速度と正確性だった。
即効性の薬物が効き、タックルの姿勢のまま、どう、と倒れる嵐矢間。
傍目にはせいぜいタックルを躱して、手刀を打ち込んだようにしか見えなかっただろう。彼の動きを視認できたものはこの場には殆ど居なかった。
屋上が一瞬の攻防に沸いた。タイトルマッチもかくや、という大騒ぎだ。
その渦中の人物であるところのアッシュは、嵐矢間を軽々と抱き起し、屋上から去っていった。
ギャラリーは一様に「喧嘩の相手を保健室まで運んでやるなんて。アッシュくんかっけえ」と喝采をあげていた。
事の真相はさておき。
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