その4 絶滅危惧種を捕獲したい(前)
※作者注※
本作を読む前に、5話、6話、8話をお読みいただけますと話の流れがスムーズです。
アッシュとキョウコが後ろのドアから教室に入ると、一番後ろの席にいる比較的大柄なクラスメートであるところの現地人の雄が威嚇行動を行ってきた。個体名称はたしか
「朝からイチャイチャうっとおしいんだよ、テメエらはよォ!」
「ならば君も
番、と言う言葉にキョウコが顔を赤くしているが、アッシュとしては何を今更という気分である。
「テメエ売ってンなら買ってやんゾオラァ!」
「悪いが君と商売をするつもりはない。現地通貨に不足は無いのでね」
アッシュとキョウコは自分の席へと向かった。
背後で、
「嵐矢間さん! あいつはやべーっすよ。国賓レベル超えてるっすよ!
「知るかそんなもん! この学校じゃ誰がエレーかきっちり教えてやんだよ!」
「ひええええ」
とか聞こえてくる。
席に着いたアッシュは隣のキョウコに、
「訊いていいかい?」
「なあに?」
「あのアラシヤマ氏は一体何かね。一見、クラスの者と同じだが、彼一人だけ、なんというのか、こう、異なる生態をしているように見受けられるのだが」
「生態って。あはは、嵐矢間くんは番長だから、あんな感じなんだよ」
バンチョウ!? 番長だと……!?
アッシュは脳内に埋め込まれているデータベースにアクセスし、驚愕した。
(番長……!? 日本原産の特殊個体の中でも特級レベルの絶滅危惧種ではないか! 至急保護申請をせねば!! いや、その前に個人的に生体サンプルを入手したい!)
「アッシュくん? 何か言った? あと、顔色悪いけど大丈夫?」
「フフ、この顔色は元々だよ」
「その宇宙人ギャグ、昔からつまんないよ」
「キョウコは手厳しいな」
苦笑いするキョウコには笑みを見せて、アッシュを席を立った。
嵐矢間の前まで進み、
「アラシヤマ氏、放課後時間を少々頂けるかね?」
ざわ、と教室が揺れ、直後の静寂。
「あぁ?」
アッシュからすれば最大限丁寧にアポイントを取ったつもりだった。
だが、番長の嵐矢間からすれば公衆の面前で喧嘩の呼び出しを受けたに等しい。
「んだテメエ? ナメんな? 今すぐでもやってやんぞアァ?」
「嵐矢間さん! やべえっす! 相手は星賓っす」
「っせえ! ここまでコケにされて黙ってられるか!」
(文献の通り、いやそれ以上の威嚇行動。これは本物だ。純潔種やもしれぬ)
「屋上とか言ったなァ? ココでもいいんだゼ? オメエが泣いて謝るところをカワイイ彼女に見られるのに耐えられるならなあ?」
「場所は屋上と指定しただろう。覚えられないならメモを取るといい。何なら私が書いておいても構わんが」
「てめえ!」
嵐矢間の振り上げた拳はしかし、アッシュには届かなかった。
突き出される寸前に、アッシュの手がそっと添えられて、それ以上動かせなくなっていたのだ。圧倒的実力差がなければできない芸当だ。
嵐矢間の頬をつう、と冷や汗が流れる。だが、退くことはできない。メンツがそれを許さないのだ。
「ちっ。放課後だな。首洗って待ってやがれ」
「うむ。そちらも時間厳守で頼む」
「こっの野郎……!」
スタスタと自分の席に戻るアッシュを嵐山間は歯ぎしりで見送るしかできなかった。
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