その3 おさななじみとソレ以外
※作者注※
本作を読む前に、5話、6話をお読みいただけますと話の流れがスムーズです。
彼の名はアシュフォード。愛称はアッシュ。
正式な名称はもっとずっと長いのだが、地球人類が発声できる範囲で適切な部分を抜き出すと、アシュフォードとなる。
彼は父の仕事である星間親善大使に随伴する形で、地球時間表現すると数年ぶりに地球の極東と呼ばれるエリアの島国を再訪し、当時一緒に遊び、若干不本意な別れ方をした沢渡キョウコと再会したのだった。
アッシュはキョウコと合意の上で行動を共にすることが多い――それはつまり恋愛関係にある、ということを周囲に明示している――のだが、それでもアッシュに声をかけてくる現地人の雌は後を絶たない。
今日も今日とて、
「おはよーアッシュくーん! あのビカッ! って光るやつやってー」
「ふむ」
登校時間、校舎内、教室までの道すがら声をかけてきた名も知らぬ雌2匹はそんなことを言ってくる。隣のキョウコの存在など完全に無視している。
(礼儀を知らぬ原住民が)
アッシュは、キョウコが何か言おうとする、それよりも先に「ビカッ!」と光らせてやった。何を光らせたかは機密事項だった。当然、光がキョウコに届かないようにキョウコの顔の前には自身の手を翳しておく。
すると、2匹の雌は急に大人しくなって、
「あー、ありがとー。またねー! ばいばーい!」
と極端にテンションを下げて棒読みのセリフを垂れ流しながら去っていった。
「やれやれだね」
「アッシュ、今のあの子だち、大丈夫なの?」
「何を指して大丈夫、と言うのかはわかりかねるが、習慣性はないよ。多少の意識障害と時間感覚の遊離が発生する程度だ。すぐによくなる」
「う、うん? よくわかんないけど、ならいいの、かな?」
「キョウコは優しいね」
あんな原住民の安否まで気にかけるなんて。
「そ、そんなことアッシュ以外に言われたことないよ!」
「この国の男性に見る目が無くてよかったよ、キョウコ」
「もう! 朝から何言ってるのよ!」
事実だが。
アッシュにとって、キョウコ以外の地球人にはさしたる興味は無い。
観察対象、保護対象、排除対象といった区分がある程度に過ぎない。
考えたくもないが、万が一にもキョウコが原住民の
顔を赤くしてまなじりを釣り上げて怒るキョウコは大変かわいらしいが、
「さて、これ以上愛の言葉を交わして遅刻するわけにはいかないね。少し急ごうか」
「あ、うん」
教室はすぐそこだ。
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