第28話

「ここから抜けられる。」


巨大なドリルをどけて親方が大声で告げる。


掘削機械が綺麗に空けた大穴に足を入れながら強度を確かめる。


シティとタウンそして外部をつなぐ豪華客線ステラウェイのレールウェイ開通工事はようやく完成。終結した。


ディレクターのタサキは秘書のエミリーをエスコートしながら親方のゲンゾウのもとへ花束を届けた。


設計、営業、進行管理、現場視察を繰り返しながらスーツ野郎と坑夫の絆は完成までには強固なものになっていた。


「がははは。俺にこんなもん似合わねえよ。」


と差し出された花束をうやうやしく受け取りながら大柄な体格とは裏腹な謝意な表情でゲンゾウはタサキと握手を交わした。


まだ非公式のため一部の関係者のみでつくりあげられた。


がっしりとした働き者の手を感じながらタサキは、このルートからシンとアキ、リュシーを逃がすことができるか半ば確信した。


タサキが用意した最新型掘削機械のセンチネルセントピードは掘りながらトンネルを同時進行でこしらえる。


掘り起こした土を硬質セメントに替え穴の壁を塗り固める。


コムサットの新製品データを二人で眺めながら喜んだ。


トンネルを抜けて浴びる朝日が眩しい。


酒樽がうずたかく積まれた店のカウンターでいそいそと女主人のミンクは炭坑から帰って来る坑夫の為に夕飯の支度に腕を奮っていた。


大飯ぐらいで豪放な坑夫達、たちまち酒と料理をたいらげる。


普段は愚痴やら喧嘩やら武勇伝をまくしたてながら騒がしく入って来る常連も今日は憔悴しきって静かだった。


「あたしのおごりだよ。」


ミンクがウィンクしながらウィスキーをなみなみと皆のグラスに注いだ。


「はは。朝っぱらから。」


ゲンゾウと右腕のダッジ、仲間達はしみじみと飲み干した。


俺たちは、やり遂げたんだ。


そんな一体感がそこにはあった。

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