第21話
ふう。
深い、ため息をついてこめかみをもむ。
シンはキーボードをもうひとたたきすると電源を落とした。
首筋を掴みながら食堂へとエスカレーターに乗る。
今夜は何食べるか。
壁のモニターにおニューのメニュー表示。
よし。ハンバーガーとポテト、チリサラダにするか。
おいしそうに撮られた写真に食欲をそそられながらおなかが鳴るのを手でおさえながら以前より、またふくらみはじめたのが気になった。
三十路すぎて一気に脂肪がつくようになってしまい、運動しようにも、あまり時間が取れずなんとなく食事制限をしていた。
ポテトはやめとくか。。。メニューチョイスパネルを叩きながら体重を近々量ろうと思う。
社外に出ずラボにこもりがちだったシンは行きつけの社食で、すっかり馴染みの客となっていた。
24時間運営の食堂には泊まり込みで仕事する社員のために健康的で美味しい献立が山ほど並んでいた。1年かかっても食べきれない程のメニュー。
「あれ、今日も泊まり?」
ひと仕事終えた、清掃員のミサコおばちゃんが缶ウーロン片手に話しかけて来た。
「はい。もうすぐ完成なんで。」
シンが微笑まじりに答えると「あんたは笑顔がいいよねえ。アキちゃんもそこにメロメロだったんじゃない?
」とおばちゃんが肘でつついてきた。
照れながら「いやいや。ははははは。」と少し頬を赤らめてシンが答える。
テラスのベンチに腰を下ろしながら街の夜景を眺める。
もうすぐ日が昇る。
長距離トラックやバスが走り出す。
コンビニに積み荷を下ろしている運送員と店員のやりとりを見ながら熱いウーロン茶をすすった。
隣におばちゃんが座りながら愛用のタバコに火をつけた。
シンはタバコを吸わないが喫煙室によく出入りして雑談する。堅苦しいラボの会議より、くだけた空気での会話はいいアイデア、意見が生まれたり。タバコの煙にもすっかり慣れていた。
「それ、新しいやつでしょ。」
一切吸わないシンが言い当てたのでおばちゃんが驚く。
「あんたなんでもわかるのね。」
「いやいや。ケンがこないだふかしてたよ。結構きついって。」
「ははは。ちょいと年配者向けかもね。チェーンスモンカー向け。」
和んだ空気の中、おばちゃんが険しい表情になると
一息ついて切り出した。
「こないだ社長室で妙な書類見つけてね。。」
なんとなく関わってはいけない空気を感じたのだが、それ以上に興味が湧き話の先を急いだ。研究者としてのサガか。
「これなんだけどね。。。。。」
おばちゃんが四つ折りにした紙を差し出した。
「シュレッダー横のゴミ箱にあって、裁断し損ねたようで。書いてある内容が、、、会長の娘さんまだ幼いのに。。」
企業の秘密を握っているのは暗躍する企業スパイではなくトイレから社長室まで出入り可能な掃除のおばちゃんだったりする。
社員の喫煙室、給湯室での会話聞き流し、開発現場を行き来する。
役員がダストシュートに放った機密書類から会長の目論みを知った。
会長のサインに役員のサイン。
書類の処理を頼まれたのは、この役員か。
タサキ、、どこかで会ったかな。
たまに出席する総会で紹介されたような瀟洒なスーツを着こなしたダンディーな役員。
押しも押されもしない身のこなし。
温和で抜け目ない男といった印象だったが。。。。。
ひょっとして意図的に情報を外部へ流してるのか。
自分の今、行っている研究に関する書類で運命的なものを感じながらも科学者としてどうすべきか考える。
アインシュタインやテスラやエジソンがその後に与えた影響や彼等の人生がいかなるものだったか。
明け方の空は白み始めていた。
おばちゃんとテラスで朝日を見ながら、自分のやるべき事を決意した。
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