第12話

「くそっ。もうここまで来たのか。」


拳をつきあげながらグレンが吠える。


「見くびられたものだな。」


滑走路に降り立った赤い機体から聞き覚えのある声。


アキを指差しながら「その女を引き渡せ。逃げられんぞ。」


えらいのを敵にまわしたもんだ。


グレンはアキを背にかばいながら後始末を考えると気が重くなるが戦場のスリルを知っている身体は血湧き肉踊る躍動感にみなぎっていた。


「グレン、アキをお願い。」  


ジャネットは素早くジャンクパーツからつくりだしたエクゾスーツ”サイナード”を装着。


索敵能力に優れ敵のステルス機能も解除してしまう。


頭部横のオプチカルレーダーを素早く起動する。


ミルはテントに駆け出しジョーのコントローラーを動かす。


「いくぞ。」


既に戦闘態勢に入ったアキに出鼻をくじかれながらグレンはタイミングをはかりアキを愛用のバン”ボナパルト”があるガレージまで連れ出す。


風に吹かれた基盤が対峙した双方の前をカラカラと乾いた音を立てながら舞う。


それを合図に敵の赤い機体”RED”はステルス機能を起動。


フェイドアウト。


「チッ。」と軽く舌打ちをするとジャネットはサイナードのレーダー出力を上げた。


グレード4で位置確認。


相棒のジョーに情報を送る。


「ミル。やっちまいな。」


「了解。」


遠隔操作でジョーを操るミルはRED配下のグリズリーの迎撃にあたる。


二手に分かれて遠巻きにREDとグリズリーを攻撃。


のびたクマのようなシルエットのグリズリーは互いに距離を取りながら陣形を組み、右に左に動き回るジョーへと迫る。


大きな腕を振り回し地面に叩き付けるが、ひらりとロングコートの裾をひるがえしながら飛びよけ様にマシンガンの弾丸を見舞う。


たちまち蜂の巣になった一体が大きな音をたてて横転。


半壊した仲間を乗り越えて別のグリズリーが襲いかかる。


ジャネットが斜め後方からブラスターで迎撃。


「サンキュー。」


ミルがすかさずマシンガンの弾丸を補給する。


REDの素早い動きを追いながら脚部のローラーダッシュのスイッチをいれるジャネット。


横滑りになりながら敵と並走。銃を連射。数センチのずれで避けられながらフェイントで弾道をずらして命中させる。


急所のひとつである足の付け根に当てた。


片足を踏み崩す形で転倒するRED


アスファルトを削りながら2回転程で体勢をたてなおす。


ニヤリと不敵な笑みを浮かべつつ一気に攻め立てるジャネット。


ターレット式ブラスターの先を手榴弾に切り替え弾を放る。


REDを包む爆炎。


赤いボディがオレンジの炎に包まれる。


表面が溶けただれた腕でレーザー銃を向けるコーネル。


やみくもに放つ。


明後日の方向にのびたレーザーの軌跡を縫うようにジャネットのサイナードは瞬時に敵の懐へと潜り込んだ。


ブルーのカメラアイが冷たく光りREDの頭部を捉える。


「フフ。あせってるね。」


二重に間接が組まれたパンチをくらわす。


顔面に直撃。


フラフラとよろめくRED。


肘の装甲板裏からショックロッドを取り出すと、すかさず頭部から胸部へかけて振り下ろす。


数ミリかすりながら巧みに交わすREDのステルスモードを解除してパワーを動力に集中させる。


これでスピードは1、5倍。


敵の動きの変化で間合いをつかみにくくなったジャネット。


焦るのは彼女の方だった。


右腕に装備されたロングガンを外すとレーザーブレードを繰り出す。


格闘戦へと突入。


足のローラーダッシュパーツを切り離しスピンしながら鉄拳を突くサイナード。


腰をスライドさせ寸分の差でかわすと即座にナックルを浴びせるRED。


青と赤の機体が激しい攻防戦を繰り広げる。


大きく長い砂塵をあげながら基地の端から端まで駆け巡る。


「いい加減、離れないとな。」


グレンは後ろ髪ひかれる思いでアクセルをバンの踏み込んだ。


「彼女、大丈夫?」


アキがぎこちなくたずねる。


「アイツなら何とか切り抜けるさ。」


百戦錬磨の女戦士の勇姿を右手にハンドルを左に。


安全地帯を目指す。


「アキ、大丈夫だ。問題ない。」


躊躇してるアキに念を押すようにグレンが声をかける。


案外、仲間思いなクールビューティー。


「大アリよ。」ぶつくさ言いながらグレンのバンに乗り込むアキ。


後ろ髪ひかれる想いを残してグレンの愛用車ボナパルトは違法ディーゼルの音とともに走り去った。


一気に4体並列で向かって来るグリズリー。


迎え撃つマシンガンジョー。


2丁のマシンガンを撃ち尽くしたジョーはふたつの銃身を合体させてレールガンに変形。再び構える。


「プランBだ。」


ドラマか映画で見た台詞をミル。


テレビゲームで鍛えた腕前で的確にグリズリーを破壊していく。


1体の上半身を吹き飛ばし、2体目は下半身、3体目は4体目を誘導し互いに誤射させて破壊。


「やったぁ、あとひとつ!」


ミルはレーダーを広域に切り替えてジャネットとRE


Dの位置を割り出す。


見ると滑走路の隅で砂嵐をなって格闘している。


「ジャネット今からいくよ。こっちは全部やっつけちゃった!」


ミルは自慢げに戦果を報告したが激戦中のジャネットからの応答は無い。


「、、、、、、、!」


脇から足を払いREDを転倒させるのに成功。


一気に勝負に出る。


これで終わりよ。


倒れたREDを足場に起き上がれないように押さえコクピットハッチを開けると銃を片手にREDの胸部に狙いを定める。


数秒の間、パイロットが出てこないのを悟るとオープンスイッチを撃ってカバーを開けた。


「、、、、、!?」


驚愕の表情のジャネットが見たのは、ロータリーでアキを追いつめていたエージェントが装着していたHMDが幾重ものコードにつながれて火花を散らしながら点滅しているところだった。


「驚いたかな。これが私の実態だよ。」


黒スーツの男はサイボーグだったのか。


HMDの部分が本体で後はヒトガタのボディー


「24時間戦えるインスペクターさ。栄養ドリンクもいらない電気仕掛けの。」


忠実な電子社畜-それがコーネルの正体だった。


「あなたさあ。。。。。なんでもない。」


ジャネットは強敵の素顔を目の当たりにしながら、そこはとない寂寥感を感じるとともに自分が人間で良かったと心底思った。


夕陽がサイナードとREDを赤く紅く浮かび上がらせた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る