第9話 小説家になろう! 終
あれから数日が経つ。
千尋とは、外見上は元に戻ったかのようにお互い振る舞っていた。
でも、明らかに今までとは違う…。
そして、気になるのは千尋のやつれ様だ…。
体育の授業。
男子は校庭の隅でバスケ。
女子は短距離走。
オレはずっと千尋が気にかかり、目で追っていた。
「おい、桜井! ボーっとししてんじゃねーぞ!」
「わりぃ。」
それでもやはり、気もそぞろだ。
女子は5レーンまで使って、次々とタイムを計っていく。
千尋の番だ・・・。
合図とともに、一気に先頭に立つ。
2位との差を完全に開いた後半・・・!?
千尋が急に態勢を崩し、そのまま転倒した!
「!? チーッ!」
オレは千尋の方へ駆け出していた。
「チー!大丈夫か!?」
体を起こす千尋に駈け寄る。
「ヒロ…ぁ、ぅん。大丈夫…っ!?」
立ち上がろうとしたが、千尋は右足を押さえしゃがみ込む。
膝からは擦(す)り剝(む)いて出血している。
左肘もだ。
「長瀬、大丈夫か?」
女子担当の女の先生が近づき様子をみる。
数人の女子達も集まって来た。
「先生、保健室に連れて行きます!」と、言って、オレは千尋の前にしゃがんで背中をみせ、おぶさるよう両手を後ろへ伸ばす。
「え!?ちょ、ヒロ!いいよ!」
「いいから乗れ!」と、語気を強めた。
「・・・。」
千尋は観念して、黙っておぶさる。
立ち上がって歩き始めると、女子からのキャー!という悲鳴や、
男子からの囃(はや)し立てる声が沸き起こった。
先ほどの女子担当の先生は、男子担当の先生にゼスチャーで報告する。
男子担当の先生は、両手で○を作ってとろけた笑顔で応答する。
ちなみにこの先生達は、来月結婚する予定だ。
おめでとうございます。(祝)。
千尋は、小声で「恥ずかしい…。」と呟くと、顔をオレの左肩の辺りにうずめる。
それでも、囃し立てる声は校舎に近づくころには収まっていた。
「チー。ちゃんと寝れてるのか?ずっと顔色悪いぞ?」
「ヒロ…もしかして、気にしてくれてた?」
「当たり前だろ。今日とか体育できるのか、すごく不安だったから…案の定だ。」
「ヒロ・・・。」
「うん?」
「ごめ、…ううん、 ありがとう。」
というと、千尋は巻きつけた腕をギュッと、更にオレに寄せる。
「・・・うん。」
オレは少し、安心した。
…この間、学校の外から小島が見ていたことに、オレも千尋も気付かなかった。
保健室に入ると、普段からテンションの高い保健の先生は、
「あら、長瀬さん風邪?」と聞いてきたので、
「風邪で普通おぶさりますか?(汗)。」と、オレが代わりに聞き返す。
「だって、顔が真っ赤なんだもん♪」という、先生の答えを確かめるべく、
オレは千尋の顔を見ようと首をまわしたところ・・・グキッ!?
力任せに逆方向へ向けられた・・・(泣)。
「ヒロ。こっち向いたら殺す…。」
凄まじい殺気…(震)。
「先生、さきにオレ、診てくんない?・・・(T・T)。」
先生は「ホホッ♪」っと、楽しげに笑うのだった。
先生の診立ててでは、「軽い捻挫」だそう。
とりあえず湿布を貼ってもらって、擦り剝いたところも手当してもらい、
あとは帰りにもう一度、テーピングを施してくれることになった。
そして、放課後。
「長瀬、行こう。」
千尋のカバンを持つ。
千尋は足に体重が掛からないよう慎重に歩く。
ゆっくり、保健室へ向かう。
「大丈夫か?」
「もちろん・・・っていいたいとこだけど、ちょっとね(^^;)。
掴(つか)まるとこなくなったら、肩、借りてもいい?」
「おー。」
久しぶりにちゃんと千尋と話をしている。
こんな時で千尋に申し訳ないけど、充実感がある。
それでも千尋は、器用に保健室まで辿り着いてみせた。
テーピングを終え、お礼をいって保健室を出る。
先生は、「あとは若いお二人で~♪」と、どこかのシチュエーションのようなことをいう。
校舎を出てから肩を貸していたのだが、「歩きづらい。」ということで、
学校を出てから腕を組むことになった。
「ね、ヒロ。こーしてると、ラブラブカップルに見えるかな?」
千尋が、嬉し恥ずかし気に聞いてくる。
「どうー見たって、お前のその足見たら、「なんて優しい男子なんだろう!」
って、思うに決まってんじゃん(笑)。」
「う″ー(-。-#)」と唸(うな)る。
「ていうか、そんな見られ方したら、チーが迷惑だろ?」
オレは夕暮れの空に話しかける。
「…迷惑なんかじゃ、ないよ…。」
といって、千尋は強く腕を絡ませる。
「…チー。オレ、チーを怒らせてしまって…ごめん。」
歩道に話しかける。
「…ううん。謝らなきゃいけないのは、あたし…。
ちゃんと向き合おうともしないで、勝手にヒロに怒ってた…。
怒ってたし、他にもいろいろな感情があったし…ある。
でも、そんな権利ないのにね…。」
千尋の言葉から、オレは何故か、千尋と一緒に過ごして来た時の流れを感じていた。
「なに言ってんだよ? 権利ならあるぞ。」
「?」
「だってお前、【チー】だろ?それに、オレの小説の、【たった一人の読者】だろ? ♪」
オレは、笑顔で千尋に伝えた。
千尋は一瞬、ドキッとした表情を見せたが、直ぐに、
「うんっ!!!」
といって、笑顔を贈(おく)ってくれた。
とてつもなく遅いペースで歩く二人の溝は、あっという間に消えていた。
それから一週間程が経った放課後。
居残りのため(内容はプライバシーの権利を行使する。うん(・.・)。)、
すっかり遅くなってしまった。
下校の生徒もまばらだ。
オレのことを待っていた千尋だが、図書室に寄るということで、今日は別々に帰ることになった。
学校を出ると、小さな人影が目に入る…。
「小島・・・。」
オレと小島は、一言も話さずに歩いていた。
千尋との溝を感じた頃から、オレは何故か小島と距離を置いていた。
「桜井君、最近忙しいの?」
小島が話の口火を切る。
「あ・・・うん。悪い。」
「ううん。全然大丈夫だよ。千尋ちゃん、怪我治った?」
「ああ。もう普通に歩くぶんには問題ないって。」
「良かった…。」
小島は会話の糸口を模索しながら話している。
そして、小島は凛としてオレの前に立った。
オレはドキリとしながらも、少し予感のようなものがあった…。
「…桜井くんは、千尋ちゃんのことを女の子としてどう思いますか?」
と、小島はオレを真っ直ぐに見ながら聞いてきた。
その表情からは、覚悟のようなものが窺(うかが)える。
…しっかり向き合うべきだ。
「・・・オレにはまだ、女の子として千尋のことをどう思うかってわからない。
いや、わかってるのかもしれないけど、小島に言葉にしてうまく説明することができない。だけど、千尋のことは、好きだ。・・・ずっと一緒に育って来た。
あいつは、オレのことずっと守ってくれてる。
そんなあいつをオレも守れるようになりたい!
・・・ずっと、一緒にいたい・・・。
こんなこと言ったら、千尋の…チーの迷惑になるだろうけど、
チーとずっと一緒にいられる方法が、幼馴染っていうんじゃ駄目で、
付き合うっていうことなら付き合いたい!
それが結婚なら、結婚したい!
他の誰よりも、ずっとチーのそばにいたいんだ…。
…かけがえのない人なんだ…それは、はっきり言える。」
オレも目を逸らさず、答えた。
「…不器用だけど、すごく心に響く言葉だね。
そんなこと聞いた後だけど、私も後悔したくないから言わせてください。
私は、桜井君・・・桜井紘弥君のことが好きです。
ずっと、ずっと、中学の頃から大好きでした。私とお付き合いしてください。」
小島の凛とした態度、表情。
『綺麗だ。』、と思った。
オレは真正面から受け留める。
「小島・・・、小島美咲さん、ごめんなさい!」
言い終わる前に頭を下げた。
「桜井君、ダメだよ。人とお話をする時は、相手の目を見て話さなくちゃ。(笑)。」
「・・・そうだな。(笑)。」
オレは頭を上げる。
「私、桜井君のお蔭で変われた気がするんだ…。
緊張して、全然ちゃんとお話しできなくて、いつも下を向いてたけど、
桜井君と時間を過ごせたことで、私、成長したって…。」
「ああ。小島は、すげーよ。」
小島は、微笑む。
「さっきの言葉は、千尋ちゃんを【目の前】にして、思いっっっきり!
届けてあげてくだいね♪」
と言って、ニコッ♪と笑い、体を少し横に倒した。
そして、
「桜井君、ほんとにありがとう…さようなら。」
という言葉と共に、その小さい背中を見せ、歩き出す…。
小島の歩いた後には、街灯が灯り始めた綺麗な夕暮れ時に、雨粒の後が、
わずかに歩道に残った…。
「小島・・・。」
やるせない気持ちを抱えながら、オレは逆の方へ歩き出そうと向きを変える…!?
そこには・・・千尋が、いた・・・。
瞳(め)を見開いて、身動きできずにオレを見ている…。
「チー・・・。」
オレも瞳を合わせたまま、動けなくなりそうになったが、想いがそれを跳ね除けた。
千尋に何か言いかけようとした、その時、千尋の方から強い風が、一瞬吹いた。
オレは顔をそむけて左腕で覆い、目を閉じる…。
すぐに風が力強さを失ったのを感じて、オレはゆっくりと前を向き、千尋の姿を視界に捉え直した…
そして、瞳を合わせる…。
千尋は、その黒髪をなびかせながら、大きな瞳に涙をいっぱい浮かべていた。
そして、今までで一番素敵な笑顔で、こういった…。
「よー、あたしの小説家さん♪」
オレもそれに応える。
「よー、オレの読者さん♪」
オレ達は、その距離がもどかしく、それぞれの想いがひとつになることを確信しながら、お互いの方へと、歩み寄り始めた―――。
完。
※最後まで書くことが出来ました♪
腕がパンパンになりましたが、楽しかったです♪
ありがとうございました!
小説家になろう! ひとひら @hitohila
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