第3話 満腹王

翌日の昼下がり、オレの部屋。

「・・・・・。」

「。。。。。」

「・・・・・。」

「。。。。。」

「:::::。」

「^^^^^^。」

「;;;;;;;;。」」


「だから、ごめんって!」

めずらしく千尋が正座。

「この腫れは一体いつ引くんだろうなー。」

本日は、オレ様、イスに座り千尋を見下ろす。

「…痛む?」

「昨日、寝れなかった。」

「…ごめん。」

「口動かすと痛い。動かさなくても痛い。壁にぶつかったとこも痛い。」

「ごめん…。」

あの後、おばさんが直ぐに手当してくれた。

仕事柄さすが。

千尋は、本当に久しぶりにおじさんに懇々と説教されていた。

ちょっと可哀想だったので、大したことないアピールはやっておいた。

「んで、おじさんどう?」

千尋は大きなため息の後、

「【また】よ。」

「そっかー。【また】か。」

【また】というのは、昔からおじさんは、千尋に説教する度に酷(ひど)く落ち込む。

落ち込んで、チーの前から姿を消す。

それから連日、ケーキだのなんだのお土産を買ってくる。

その後、ちらほら一瞬姿を現す。

この間、おばさんにひたすらチーの様子を窺う。

おばさんは、最初のうちは優しく答えるが、おじさんがあまりにしつこいので、

最後にはニコ(^^)♪やかにキレる。

(^^#)♪。

おじさんは、それに恐れおののくまでの一連の過程をこなすと、「・・・パパ言い過ぎた。」といって、チーに延々と謝罪を始める。

チーにはこれが辛いらしい。

チーがいうには、「パパが説教する時は、絶対アタシが悪い。」とのこと。

だからキレるわけにもいかない、と。

なので、おじさんのこの一連の過程が、千尋にとって本当の説教ということになる。

「今回は久しぶりだったから、相当引っ張りそう。」

うんざりした様子でチーがいう。

「ま、こればっかりはしょうがないよ。」と、

慰めともなんともいえない曖昧なフォローを入れたところで、、、

「さて、・・・。」

千尋が一瞬ビクっと反応した。


「いやぁ、それにしても、これじゃ執筆にも影響しちゃうよなー。」

様子を見る。

千尋、下を向く。

「ど、どうしたらいい?」

チーが困り顔で聞いてくる。

「手伝って。」

「え?」

「執筆手伝って。」

「それじゃあ、意味ないじゃん。」

「別に意味ないことないだろ?オレがなんかやり遂げるっていうのは良いことだ。」

「確かにそうだけど、ヒロが自分でやるから意味があるんじゃん。特に書くっていう一番重要なところは。」

む、正論。

「じゃあ、最終的には読者になってもらうとして、とりあえず今は、アドバイザー的なのはどうだ?」

千尋は少し間を置いてから、「いいよ。」

ということになった。

「じゃあ、早速だけど、」

「うん。」

「恋愛ってなんだ?」

「!?・・・。」


「・・・・・。」


「・・・。」


「・・・・・チー・・。」


「・・・なによ?」

「もしかして、おまえ、恋愛知らないのか?」

「!? あんたと一緒にしないでよ!」

「じゃー答えろよ。」

「・・・恋愛っていうのはね、気持ちが大事なのよ。」

「気持ちねー・・・例えば?」

「相手のことを想うことよ。一緒にいたいなー。とか、何してるのかなー?、とか。」

「・・・ないな。」

「結論だしたら意味ないじゃん!」

「だってないんだからしょうがない。」

「じゃあ、誰かそういう相手を想定してみたら?」

「なるほど。んじゃ、手っ取り早くチーで。」

チー…変わった踊りするんだな。。。

「バ、バッ、な、な、なっ!?」

「バナナあるぞ。」

「バナナこと言わないでよ!。。。!?、違う! バカなこと言わないでよ!」

「はぁ?おまえが言い出したんだぞ?」

「それにしたって!」

「あー、頬っぺたうずいて痛いな~。」

「・・・・・。」


「いつ治るのかな~。」

「・・・・・。」


「ア~・・」

「わかったわよ!」

「おけー♪ んで、どうすりゃいいんだ?」

「そーね、まず、あたしのことを好きということにしなさい。」

「? 好きだよ。」

「!?」

「どした?」

チーが跳ねた。。。

カーペットに電流が仕込まれて・・・るわけない。

千尋は、大きなを更に大きく見開いたあと、悟ったようにため息をつく。

「あのね、ヒロの好きは、この場合違うの。」

「どう違うんだよ?」

「その好きは、家族みたいな好きでしょ?」

「それがどうした?」

「今必要な好きは、家族以外の、他人に対して好意を持つっていう好き。」

「う~ん・・・。」

「どんな人か知らないけど、気になるなー。とか、知れば知るほど惹(ひ)かれるなー。とか。」

「ん~、なんとなくわかるような、わかんないような・・・。」

「ま~そういう意味で、私を好きってしてみたら?ってこと。」

千尋はそこまでいうと、「後は自分で考えなさいよ。」、「今日は夕飯こっちだから、食べたいものがあったら早めにLINE頂戴。」といって、用事があるとかで帰って行った。


イスに座り、机に常時セットしているノートパソコンが目の前。

タイプしていけばいい状態・・・いや~、なんも先に進まん。(汗)。

『気になるなー。とか、知れば知るほど惹かれるなー。とか。』、か。


・・・例えをもう少し簡単にしよう!

【恋愛】って、恋も愛も【好き】っていう要素が入ってるよな?

好き→→→食べること→→肉→焼肉♪

そこに、恋<愛ってことか?

ということは、恋よりも、愛の方が、好きがいっぱいということか。

恋が焼肉で、愛は焼肉がいっぱい。

そうすると、恋愛=焼肉食べ放題だわな♪

あー! だから恋と愛はくっつくのか♪

この瞬間、千尋の顔が思い浮かぶ・・・早速LINEだ。

オレはすでに、先ほどまで一緒だった千尋に逢いたくて仕方がなかった。

しかし、まだ昼過ぎだから、ここはゲームでもして時間を潰し、はやるこの気持ちを抑えよう。


それからしばらくして、千尋からの返信が来た。

『18時集合』。

待ち合わせ場所がないときは、千尋の家に迎えに行く。

それから更にゲームを堪能したあと、結局1字もタイプしないまま、パソコンの電源を切って、「よし!」と、気合を入れ、千尋を迎えに。

千尋は時間通りに玄関のドアを開け、「よー♪」、と、気合十分。

オレも、「よー♪」、と、やる気を示す。

「なんで急に、【満腹王】なの?」と、外でガッツリ系の時、いつもボーイッシュな服装になる千尋は、身も心も準備万端と言わんばかりに聞いてくる。

『あの帽子の中に、どうやったら長い髪がうまく収まるのだろう?』と、毎度不思議に思いながら、「チー、恋愛は、焼肉食べ放題だ。」と、真顔でいってみる。

「・・・ん~(汗)、辿り着いた思考回路がわかったわ(^^;)。」と苦笑い。

「さすがチー♪ チーもそう思うだろ?」

「いやいや(汗)。それにしたって、あのLINEでどこに行くか分かるあたしもどうかと思うけど(苦笑)。」

「? 誰でもわかるだろ?」

「それは…ないね~(汗)。」

「そぉか~? まー、確かに【満腹王】って名前が思い出せなかったのは、許してくれ。」

「そこじゃない(^^;)。」

と、千尋がいうので、オレはパーカーのポケットからひょいとスマホを取り出し、送ったメッセージを眺める・・・フム。

【3X 焼放 ☆ ?】

「言ってみて。」

「3丁目の焼肉食べ放題に今日はしない?」

「完ぺき♪」

といって、千尋に笑いかけると、

「まーね♪」

と、チーも笑顔をくれた。

黄昏時、二人の影を道連れに、日中との寒暖の差などものともせず、オレと千尋は意気揚々と向かうのであった。


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