02 写真の謎

晴明神社から帰る頃、帰り道の公園の時計を見れば時刻は午後十七時三〇分。


夏は、冬より日が上がっている時間が長く、日が落ちる時間は約七時とまだまだ沈むまで一時間半あるが、ちらほらと友達とわかれ帰路につく子供達や夕御飯の買い出しに出掛ける人、仕事を終えて帰りついたサラリーマンの男性やOLの女性が見受けられる。


私達も、なるべく日が落ちる前までに帰りつくため足を早めた。道中、話題に上がったのはやはり蔵で見つけた例の"古びた写真"である。


「この写真、どうみても俺達だよな。」


御神が空中にヒラヒラと写真を掲げ呟いた。


「確かにそうですけど、あり得ないはずですわ。」


そう、あり得ないはずなのだ。蔵で最初に見つけたとき、御神が視た写真の計測年数は一〇六八年前の九五〇年で、今の京都に都が造られ平安京と呼ばれていた頃。


だが、もし本当に平安時代に写真を撮る技術があったとすれば、歴史に刻まれていてもおかしくはないはずだ。なのに、刻まれていないのであればその写真自体が後から持ち込まれ、それが今の現代まで時を越えたと言うこと。


「つまり、私達が何かしらの理由で過去に飛び、セイメイさん達に似た人物と写真を撮ったと言うことになる。でも、どう言う理由で?」


「多分、グループレポートじゃないか?」


炎が言ったグループレポートとは、巡達学年の共通課題でそれぞれ五~六人で一つの班をつくり、一つのテーマに絞ってレポート書くもので、巡達の班は先程まで一緒にいた安倍野セイメイの先祖である安倍晴明についてのレポートを書くことになっているのだ。


「過去に飛ぶことになった理由はいいんですけど、この写真に写ってるセイメイさんにそっくりな人や鬼の角を生やした紫煙さん達に、狐の耳と尻尾を生やした紅蓮さんと華子さん達にそっくりな人はどう説明いたしますの?」


「それは、行ってみなきゃわからないんじゃないの?」


「それもそうですわね。日取りと場所は何時にします?」


「早ければ早い方がいいし、出来るだけ繋ぎやすい時間にしたいから、危険だけど明日の夜中の二時一五分はどう?始まりと終わりがいちばん繋ぎやすいし。」


「ゲッ、その時間丑三つ時じゃねぇか!」


丑三つ時とは、草木も人も何もかも眠りがついた静寂が続く僅かな時間。鬼門が開く時間とも言われ、その時間は人の時間ではなく彼らの時間。一度、生身の人間が出歩いてしまえば命の保証はできない。


しかし、危険は伴うが巡が言うように丁度丑三つ時の前半と後半の間の時間では空間そのものが歪み、時間と言う概念が存在しなくなる。その時間であれば時間旅行の能力も精度があがり、より正確な時間や場所に行けるようになる。


「本気で言ってんのかよ!」


「確かに。危険ではあるが、確実だしな。」


「男なんだから我慢しなさいな。こんなことでびびっていては、この先何もやっていけませんわよ。」


「いやいやいやいや!男なんだからとかそう言う問題じゃなくてだな!そして志岐はなんで納得してんだよ!」


「じゃあ決まり!炎はカメラと三脚を宜しく!」


「話を聞けよ!」


半ば強引に決められた話し合いで、不満ではあるが納得した炎はカメラと三脚を持ってくる約束をし、明日の夜中の午前二時一五分に集合することになった。


○◎○


(うー、寒っ。)


気温は十八度と、午前中とはうってかわって暑かったのが涼しくなっており、夏とは思えない程の気温である。


「本当に何も居ないんだ。」


辺りを見渡せば、人の姿は全く無く動物達の鳴き声さえも今は聞こえず静まりかえっている。まるで、時間が止まったかのような感覚になる。


そんな静まり返った中、べちゃっべちゃっと泥が地面に落ちる時の音が聞こえてきた。しかし、それは泥みたいに生易しいものではなく、あれは、死に対する恐怖、怒り、憎しみ、うらみ、そねみ、悲しみ、苦しみ、といったあらゆる負の感情が集まり、混ざり合ったもので泥よりももっとどす黒く達が悪い。


それを纏うのは鬼門の向こう側から来た者達で、鬼門が開いた僅な隙間を通り、此方側にやってくる。人の姿をしていたり鬼の姿をしていたり形がわからない程に歪んでいたりと、姿形は様々である。


(やっぱり出て来ちゃったか。かく羽織ばおりを着てきて正解だったね。)


隠れ羽織とは、天狗が羽織っている隠れみのに使われているカクレミノという植物を乾燥させた物を線維状にし、天狗の里に流れる綺麗な水の川で洗った絹糸と一緒に織り込んで出来たもので、出来上がり当初は真っ白な色をしているが所有者によって色が変わる。


巡の場合は早春に芽吹いた若草のようなあざやかな黄緑の色合いをしいる若草色で、羽織には春の象徴である桜が金の糸で刺繍されている。


アレが去ったのを確認した巡は、急ぎ早しに晴明神社へと向かった。


巡が神社に到着すると炎以外の皆は集まっており、巡が到着してから暫くして撮影機材を持った炎が到着した。


撮影機材を持ったまま走ったのだろうか息が荒く、身に付けている羽織や着物が乱れている。


「おい、どうしたんだよ。そんなに息荒くして。」


「あぁ、御神か。ここに来る途中、機材を少し落としそうになった時があったんだ。そんとき落とさないように支えたら羽織が少し脱げたみたいで、丁度そこに"アレ"が来て見つかったから走ってきた。ホラ、階段下をみろ。"アレ"、俺を必死に探してるよ。」


炎が指を指した方向には、確かに首らしき部分を左右にふり何かを探している"アレ"の姿があった。一瞬、"アレ"がこちらを見た時はドキッとしたが、ここは晴明神社の神主である安倍野セイメイが張っている結界内で向こうからは私達の姿は絶対に見えない。


「カメラと三脚だけじゃなかったっけ?」


「バカっ、カメラと三脚だけでどうやって写真を現像するんだよ。向こうは平安時代だろ?電気も通ってない所で写真を現像する為には超小型ソーラパネルに接続できるパソコンとプリンターが要るだろ。それに、スマホとか充電したくても出来ないだろうから充電機を接続してスマホが充電出来るようにもう一枚超小型ソーラーパネルを持ってきたんだよ。」


「ところで、その超小型ソーラパネルはいったいどうやって準備しましたの?」


「それはほら、お前んとこの瞬財閥が開発した超高性能多機能太陽光発電モジュールだよ。」


「あぁ、あれですわね。確か今日、お父様が今日中の注文が入ってたって言ってましたわ。でも、それって確か結構高かったはずですわ。」


「通常の小型なら一枚約五万円するが、俺が買ったやつは通常の小型より小さく充電器の接続やパソコンの接続機能付きだから二枚合わせてニ〇万円。結構痛い出費だった。」


痛い出費だと言うが、炎の雰囲気からは感じ取れない。御神はそれに対し「その前にニ〇万は何処から出した」と聞くと、炎は「貯金」だと返答した。


しかし、どう考えても一般の高校生が持っている貯金額より遥かに多い。本当に炎の金なのか心配なるが、今はその心配より始める時刻が近付いているので取り敢えず鳥居の前に移動した。


「はい巡。」


巡は、明観から六壬式盤の入った箱と中央の窪みにはめる水晶が入った紫の袋を受け取り、鳥居の前にたった。


まず箱の中にある六壬式盤を取り出し、袋の中から水晶を取り出し中央の窪みにはめる。そして最後に、時計回りに回すのが一連の動作である。


一連の動作が終わると、六壬式盤に刻まれている文字から光が溢れだし、その光が中央の水晶まで届くと水晶も同じような光を放ち始めた。その光は、鳥居の方へと伸び始め、本来何も無い行き止まりの先を指していた。


「鳥居の先を指してる。行ってみよう。」


六人は光の指す方へと足を進めた。

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