第9話 老婦人のおつかい

 バンビエンで泊まっていたたホテルは各部屋が個別の建物になっているバンガロー形式だった。私が泊まっていた部屋の隣には老婦人とその家族が宿泊していて、その老婦人はいつもバルコニーのデッキチェアに座って本を読んでいた。観光とかに行かないのかと聞いてみると、「子供たちは遊びに行っているけど、私は疲れたしこれが楽しいんだよ」とにこやかにしていた。

 ある日、そんな彼女に「ねえ、ちょっと前の通りで売ってるサンドイッチ買ってきてくれない?お釣りはあげるから」とお使いを頼まれた。特に用事もないので引き受けたのだが、旅先で「一緒に遊びに行こうと」とか「ご飯を食べに行こう」と声をかけられることはあっても、お使いを頼まれるのは初めての経験だった。特にドラマチックな展開があったわけではないのだけれども、なんだかおもしろいなあと思いながらチキンサンドイッチを買い、お釣りでレモンとミントのシェイクを買って戻った。

 

 サンドイッチよりシェイクのほうが高かったことは内緒にしておいた。

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