第6話 スニーカーで崖登り
ビエンチャンに別れを告げて、次に向かったのはバンビエン。首都ビエンチャンと世界遺産のルアンパバーンの中間地点にある山間の街だ。ビエンチャンから北に向かってバスで4時間ほどの位置にあるこの街は、自然豊かな環境が海外の旅行客から人気になっているらしい。この旅のきっかけにもなった「ラオスには昔ながらのアジアがある」という言葉を確かめるのには絶好の場所かもしれない。
せっかくなので少し冒険っぽい要素があるものを楽しんでみようと思い、現地のツアー会社が提供する日帰りトレッキングに申し込んでみた。ツアーの予約と代金支払いはオンラインで済ませていたので事前にツアー会社に顔を出す必要はなかったのだが、暇だったので同じツアーに参加する人数や翌日のコースを確認するためにツアー会社まで足を運んでみた。すると、本来は複数のグループが一緒に参加するタイプのツアーだったのだが、他に参加希望者が現れなかったため料金そのままで参加者は自分だけのプライベートツアーになったことを告げられた。さらに、遠くに見えるかなり急峻な山々を指さしながら「明日はあのあたりを登るから頑張ろう!」と笑顔で背中をたたかれた。山というよりも崖といったほうが適切なのではないかというような風景を前にして、本当に大丈夫なのだろうかと少し不安な気持ちを抱いたりもしたが、じゃあ明日はよろしくとツアー会社を後にした。
翌朝、ホテルまでピックアップに来たツアー会社の車に乗りトレッキング開始ポイントまで移動すると、前日の不安が間違いではなかったことを改めて実感する。目の前にそびえたつのは東南アジア独特の木々に覆われた、ほぼ崖といったような風貌の岩山だった。そんな岩山を目の前にしているのに、自分の足元はニューバランスのスニーカー。これはかなり注意して登らないと文字通り痛い目にあいそうだと覚悟を決めて岩山に足をかけた。
いったん歩き出してしまうと、もう後には引けないのでひたすら前に進む。いや、登るといったほうが正しいかもしれない。目の前にある岩をしっかり掴んでは足を引き上げるという動きを繰り返し、どんどん登っていく。昨日ツアー会社に行ったときに指さされた岩山を見て多少の覚悟はしていたものの、まさか垂直に近いような岩場を登るシーンがここまで豊富に登場するコースだったとは。岩の凹凸はしっかりあり、それなりに進むべき道筋は見えているのでさほど難しさはないのだが、とにかく休みなく登りが続くので疲労がどんどんたまっていくのが自分でよくわかる。
どれくらい上っただろうか、少し開けた岩場に出たところで休憩していると、自分が登ってきた道とは反対側の茂みが揺れたかと思うと、Tシャツ短パンにビーチサンダルという軽装に大きな袋を背負った若者4人組が現れた。地元の村の若者たちで、山の反対側にある川まで魚を取りに行った帰り道だという。スニーカーでも靴底が滑ってちょっと辛いなと思っていたのに、ペラペラのビーチサンダルで難なくこの山を登ってくる彼らを目の前にしながら、ちゃんと体鍛えようと思わずにはいられなかった。
彼らと別れた後、まったく明かりのない洞窟にスマホのライトを頼りに潜ったり、昼食は密林の中でバーキューをしたり、多少の寄り道をしながらも山頂に到着……したのだが、深い木々に囲まれているため「この石が山頂だよ」と言われただけで、その場に留まることもなく2つ目の山に向かう。なんだかやるせない気分だ。その後、下山の途中にスコールに遭遇して岩の表面が滑りやすくなったうえに粘土質の地面はドロドロになるという悪条件に見舞われながらも、どうにか無事帰還。なかなかにハードな一日だった。
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