第5話 読経は夜明けとともに

 寺院も見た、ブッダパークも堪能したとなると、いよいよビエンチャンでやることが見当たらなくなってきた。困ったときはホテルの人に聞いてみるのがいいだろうと尋ねてみると「観光地としておすすめの場所は思いつかないが、早朝に僧侶が托鉢をしているから見てきたらいいんじゃないか」というアドバイスをもらう。仏教都市として世界遺産にも登録されているラオス北部の都市ルアンパバーンでは早朝の托鉢が観光名物になっているという話は聞いていたが、ビエンチャンでも托鉢の風景は見られるらしい。

 翌日の早朝5時。いまから山登りにでも行くのかというような早朝にホテルを出て、教えられた托鉢ポイントへと向かう。托鉢は季節を問わず早朝5時30分から6時30分ごろまでおこなわれるらしく、夏ならばすでに明るくなっているが、今回の旅行のように冬だと日が昇る前の暗闇の中で行われる。

 弱々しい街灯の中、道路脇には地元の人たちが敷物を敷いて座り、手元を照らすろうそくに明かりを灯して僧侶たちが来るのを待っている。しばらくすると、遠くから読経のような声が聞こえてくる。少し聞こえては途切れ、また聞こえては途切れて、というのを繰り返しているうちに、通りの角を曲がって7,8人の僧侶たちがやってきた。親族なのかご近所なのか詳細はわからないが、住民たちはある程度の人数ごとでグループになっていて、僧侶たちは住民からもち米やお菓子などを首から下げた炊飯ジャーのようなものに入れてもらうと、彼らの前に整列して、15秒ほどの読経を行い、また次の住人グループのもとへと移動する。僧侶たちはこれを繰り返しながら、また別の通りへと消えていった。そんな僧侶たちの後を野良犬たちが静かについて回っているところまで全部含めて、日常ではなかなか味わえないような、なんとも不思議な光景だった。

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