第18話 帰還

 スーヤとジョイスが元の世界へ戻ると、そこには変わらない面々が集まっていた。なぜかジェフェリーだけが汗だくになり息を切らして、床に座り込んでいたが。


「ジェフ、一体どうしたの?」

「どうもこうも、時間が無いからって、アレックスとチヅルの家を散々往ふ……ぶ!」


 うっかり口を滑らせそうになったジェフェリーの頭を、チヅルが思いっきりぶん殴った。ジェフェリーは激痛のあまり床を転げ回るが、チヅルは何事も無かったように、スーヤに笑いかける。


「なんでもないのよ、スー。ところでその、試験の結果だけど」


 おずおずと不安げにチヅルが問う。スーヤは眉間に皺を寄せ、一瞬だけ悲しみに似た表情が浮かんだが、すぐに下を向いてしまった。もしかして落ちてしまったのかとチヅルは取り乱しかけたが、すぐにスーヤは満面の笑みで顔を上げ、


「もちろん! ちゃんと合格したよ。ほら!」


 スーヤはチヅルにVサインを見せると、背負っていたサックの中から、白蛇から取り出したモジュールを見せる。


「おめでとう、スー! もう、この子は心配させて!」


 それを見たチヅルは、スーヤを思い切り抱き締めて、クルクルとその場で回り始めた。


「ちょ、ちょっとチヅ。苦しいって……」


 チヅルの胸の中でじたばたともがくが、その顔ははちきれんばかりの満面の笑みだった。

 それを皮切りに、アレックスとジェフェリーもスーヤの傍に集まって頭を撫で始める。最後には胴上げにまで発展し、スーヤの体は天井付近まで高々と宙を舞った。

 一しきり騒いだ後、皆はスーヤを降ろした。スーヤはふらつきながら床に足をつけると、改めてジョイスに頭を下げる。


「今日はありがとうございました」

「仕事だからね。でも、私はほとんど何もして無いわ。試験に合格できたのは、あなたに相応の実力があったから。あなた、気に入ったわ。機会があったらまた会いましょう。その時は、もうちょっと大人になってくれてると嬉しいんだけど」


 そう言い残すと、思わせぶりな笑みを残してジョイスは店を去っていった。

 ジョイスの言う大人の意味に気付いたのか、チヅルがスーヤの肩をがしっと掴み、必死の形相でスーヤを問い詰める。


「スー! あの試験官に何か変な事されたの!?」

「? 別に何もされて無いよ。最後に鬼ごっこしようって言ってくれたぐらいかな」

「お、鬼ごっこ……?」

「うん。でも皆待ってるから早く帰ろうって言われて、結局出来なかったけど。やりたかったなあ、鬼ごっこ……」


 完全に予想外の返答に、チヅルは目を白黒させた。もちろん、これは真相ではない。だが当の本人であるスーヤでさえ気付いていないのだから、チヅル達に分かるはずも無かった。


「そ、そう。まあいいわ。それじゃ帰りましょうか」

「うん!」


 チヅルとスーヤは手を繋ぎ、その後にアレックス、ジェフェリー、カーク、そしてロイスと続く。


「なんだ、じいさんも来るのか」

「なんだとはなんじゃ。別に行ってもいいじゃろう。今日はもう店じまいじゃ」

「相変わらずいい加減だねえ。だから俺達以外に人が来ないのさ」

「ほっとけ」


 ジェフェリーとロイスが憎まれ口を叩きあいながら、一同は店を後にした。

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