第2話 集合・前編


「あ。たしか……クリスマスの時に居た……ジジさん!」


 燈は見た顔にホッとしつつも黒髪の少女いや少年ジジへと歩み寄った。どうやら今回は金髪碧眼の美少年アルヴィンに、双子の少女いや少年ミケの姿はないようだ。


「やあ、えっと……」

ともりです。今回はアルヴィンさんとミケさんは一緒じゃないんですね?」

「そうみたい。ああ、連れを紹介するよ」


 燈はジジの傍に居る人たちへと視線を向けた。目が眩むような美女。彼女の名前はエリカ・クロックフォードというらしい。黒髪に宝石のような紺の瞳の大人びた女性。黒のワンピースと白衣姿がよけいに妖艶な雰囲気を醸しだしている。


 艶のある黒髪でやや前髪が長い。白い肌、目鼻立ちが整った上品そうな女性はヒースというらしい。燈より年上そうな印象を受ける。男装のような恰好をしているのは、何か理由があるのだろうか……。


(このお二人は顔がそっくりなのだけど……姉妹なのかな?)


 最後に赤い髪の黒炭のような瞳の青年はサリヴァン・ライト。この中で燈に一番年齢が近そうだ。眉間に皺が寄ってしまうのは性格なのか、なんとなく苦労してそうなイメージがあった。


(妖艶で魔女っぽい雰囲気のエリカさん。その姉妹、または血縁関係っぽい凛とした雰囲気のヒースさん。年齢が一番近そうで、苦労人っぽそうだけど話しやすそうなサリヴァンさん……と。ジジさんは前に会った時と変わらず不思議な雰囲気な人だな。……たぶん、人じゃないとおもうけど)


 燈は改めてナ〇ニア国物語のような世界観から飛び出してきた登場人物たちに、好意的な視線を向けた。


「はじめまして。エリカさん、ヒースさん、サリヴァンさん。えっと私の連れなのですが……」


 杏花や式神、龍神のことを軽く説明した。

 もちろん、杏花が魔女だとかは特に話さずクラスメイト級友と話した。というのも、杏花本人が「魔女だってこと口外したら許さないから」と顔に書いてあったからだ。


(あの凍り付くような笑みはガチだ……。まあ、杏花が魔女だって言って問題が起こる可能性もあるもんな。異端狩りが相当トラウマになっているようだし……)


 ちなみに鎧武者は私と契約している使い魔式神という事で話を通しており、龍神は──。


「龍神は、神様で色々事情があって協力をしてもらっています!」


 正直、龍神の立ち位置を説明するとなんだか複雑そうなので、人間の協力者という事にしたのだが──


「簡単に言いますと、彼女がこの神様のなんです」


 にっこりといい笑顔で杏花は言い切った。横に居た鎧武者式神は盛大に吹き、龍神は無反応、燈は悲鳴を上げる。


「きょ、杏花ぁああ!?」

「ああ、まだ結婚していないから婚約──むぐっ」


 燈は両手で杏花の口を封じたのだが、色々遅かった気がする。

 確かに記憶とか戻って龍神の事は──思う所があるけれど、告白もまだなのだ。


「あの、それより、皆さんがここに来た理由ってなにか伺っていますか?」


 かなり強引だったが、燈は《山の神》から聞いたことをジジたちに説明した。また燈たちの状況──この空間に閉じ込められて出るには、


①《残り五人》の到着が必要だということ。

この空間を出るためには、おそらく《追加条件》をクリアしなければならない。


 燈がジジたちとコミュニケーションをとっている間、龍神は寝耳に水の発言に思考回路がショートしていたのだった。


(私と姫が……夫婦? いつの間にそんな間柄に? 冥界では臣下たちが勘違いしていましたが、公言していませんし、そもそも告白すらしていない状態なのですが?? 外堀を埋めるにしても本人の気持ちを無下にするのは……。しかし、嫁。妻というのは良い響きですね……)


 呑気な龍神に、式神は「大丈夫……じゃないな」と心の中で思ったのだった。



 ***



 残り五人が到着するまで暇だったので、燈はジジたちにトランプゲームを誘った。神経衰弱やババ抜きなど興じていると──


 ──♪ファレラレ ミラッラ ミファミラレ、参加者が入場いたしました。

 

 ――現時点で参加メンバー計五名確認いたしました。達成おめでとうございます。


「この流れで行くと、FBIのジョンさんだと思うんだけど……」


 空港入口と書かれた通路から足音が複数聞こえてくる。現れたのは海外ドラマTHE MENTALISTメンタ〇スト顔負けの俳優ないし女優の男女五人が、バカンス気分の雰囲気で登場したのだ。


 訂正。黒いスイーツ姿の金髪の背の高い男ジョンと、黒髪で細身の男性だけは緊張した面持ちだった。だが、燈やジジを見て金髪の背の高い男ジョンは、どことなく安堵──または溜息を漏らしていた。


「ジョンさん、お久しぶりです。ええっと……クリスマスの時に東京でお世話になった燈です」


 燈は相手がどこまで覚えているのか不明瞭だったので、改めて名乗った。だが、反応を見る限りあまり驚いては居なさそうだった。


「ああ……。そういえば、確かにそんなことがあったような」

『背の君よ、娘とは以前にも会っているぞ』

「あ、アネットさん……でしたよね。お久しぶりです」と燈はペコリと挨拶する。金髪の背の高い男ジョンの傍に浮遊している女性。外見は十代後半、黒真珠のような美しい黒髪に、金色の双眸そうぼうはどこぞの令嬢を彷彿ほうふつさせるように美しい。


(……初対面の人も美人さんが多いな)


 金髪のショートヘアに幼い顔立ちは燈と年齢が近そうだ。背は燈の方がやや大きい。


「はじめまして! FBI超常犯罪捜査課の新人で、ジョンさんの相棒のミシェル・レヴィンズです! どうぞよろしくお願いしますね、トモリさん!」と礼儀正しく、はきはきとしていた。

 しかも口の動きから言って英語で話しかけているのだろうが、燈には日本語に聞こえている。


(ん? 同僚ってことは……二十歳以上の、大人の人!?)


 燈は一瞬でも同世代だと思ったことを恥じた。穴があったら入りたい。

「初めまして、可愛いお嬢さん」と、挨拶してくれたのは、ジニーと名乗った。正確に言えばヴァージニア・ヘレン・キャッターモールと言うらしい。


 群青と白紫が混ざり合う銀河色のウェーブがかかった髪はとても美しく、同性でも見惚れてしまうほどの絶世の美女だ。スタイルはもちろん、醸し出している雰囲気も大人びていて、燈にとっては雲の上のような人に思えた。


(美人さんだ……! エリカさんとはまた違う大人の魅力。一般人の私には眩しすぎるぅうう)


 燈はしどろもどろになりながらも辛うじて挨拶は出来た。海外の人は距離感が近いと言うが、近すぎる。心臓が持たない──と思った矢先、黒髪の男の人が割って入ってくれた。二人とも仲がよいみたいで気さくなやり取りをしている。


「どのぐらい一緒に居れば、あんな美人さんと普通に話せるようになるんだろう……」なとど燈はどうでもよいことを考えていた。


 最後に自己紹介をしてくれたのは、背丈の高い黒髪の男の人だった。細身だけれど、戦い慣れた──式神に近い雰囲気を持つ人だ。


「……ヘンリー・T(テキサス)・ジョーンズだ。ま、テキトーによろしく頼むわ」


「話しやすそうかも」と燈が思った瞬間、「カタナ」という単語にキョトンとしてしまった。少女は自分の腰に携えている刀へと視線を向けて、納得する。


(あ、最初に視線が合わなかったのは、刀を見ていたのか……。ああ、じゃあ、式神と話が合うかも?)


 ヘンリー・T(テキサス)・ジョーンズと名乗った彼は、ジョンからは「テックス」と呼ばれているようだった。


(金髪の明るくて年下にも敬語で話しかけてくれるミシェルさん。絶世の美女で、人との距離感パーソナルスペースが近いジニー。背丈の高い黒髪の貴人、刀に興味のあるテックスさん……。そしてジョンさんにアネットさん……すごいメンバー)


 燈は周囲の美女美男子の登場に眩暈めまいを覚えつつも、金髪の背の高い男ジョンと共にジジや龍神たちの元へと合流した。


(あれ? なぜだか龍神の視線が鋭いような……。初対面の人が多いから警戒しているとか? でもそれなら私を見ている必要はない気が……)


 いつもの龍神らしからぬ反応に燈は小首を傾げるが、今すべきことはジョンさんたちの紹介が先だ。

 フロアの中心に十三人が揃う。


「ジジさんは、ジョンさんとアネットさんに会っていますよね」

「まあね」


 改めてそれぞれに自己紹介をしていく。もっとも、式神と龍神は自分から名乗らないので、燈が代わりに説明する──はずだったのだが龍神の紹介の時は、杏花に横取りされてしまったのだ。


「龍神様は八百万の神様の一角であり、秋月さんの旦那さまなので──」とまたしても強化の冗談を止めることが出来なかったのである。

 燈は慌てて式神の紹介に移った。全員の自己紹介が終わると、見計らったかのようにアナウンスが入る。


──♪ファレラレ ミラッラ ミファミラレ

──階段を進んで頂きフロントでのチェックインをお願いします。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る