君しか知らない
私の彼氏は女の子の扱いをよくわかっている。
私が落ち込んだ時、好物のプリンとケーキを買ってきてくれて優しく慰めてくれる。おまけに私の欲しい言葉をたくさんくれるんだ。
私のお誕生日、女の子に人気のブランドの可愛いネックレスをくれた。
1年記念日、真っ赤なバラの花束をくれた。
新しい服をデートに着て行った時やいつもと違う髪型をした時、可愛いねと必ず褒めてくれる。
クリスマスなどのイベントの時、必ず予定を空けておいてくれる。
普段のデートの時だって、さらっと慣れたようにエスコートしてくれる。
私はこんな彼氏のことが大好きだけど、たまに落ちこんだり不安になったりする。
私は今の彼氏が初彼氏で慣れないことばかりなのに、彼氏はとっても慣れた風だから。
今まで色んな女の子にこういう幸せを与えてきたんだなって思うから。
嫉妬とは少し違う、でも嫌な感じの黒い感情が私の心を支配するんだ。
むかしのことなんて気にしちゃいけない、そう自分に言い聞かせてもなかなか難しいものは難しいのだ。
「りさちゃん? どうかしましたか?」
気がつくと、彼氏の心配そうな顔が私を覗き込んでいてドキッとした。
いけないいけない、考え事しちゃってた。
せめて一緒にいるときは何も考えずに楽しまなきゃ。
「あ、ううん! ごめんなさい、ちょっとぼーっとしちゃってました」
えへへ、と努めて明るく振る舞う。
もうこれで何回目かわからないくらいのデートだけど、彼氏のドアップの顔はやっぱり心臓に悪い。かっこよすぎるんだもん。そりゃ、フィルターかかってると思うけど。
「ふうん。そうですか。
最近のりさちゃん、何かおかしいです。
遠慮なく僕にお話ししてください。」
じと、と探るような目で私の目を真っ直ぐ見つめてくる。
心臓に悪いんだって。
というかどうしよう。まずい。素直に思ってることなんて言えないし。
「い、いや、本当になんでもないですって!
すみません、せっかくのデートなのにぼーっとしちゃってて」
信じて! もうこれ以上突っ込まないで!
という祈りは届かず、彼氏ははあ、とため息をついて言った。
「僕の目をごまかせるとでも思っているんですか?
ちょうど公園がありますから、ちょっとベンチに行きますよ」
有無を言わさぬ様子で私の腕をぐいぐいと引っ張っていく。まずい。怒らせちゃったかな。どうしよう。
こういうところ、いつもいつも勘が鋭いんだよな。
何て言おう?
何て言えば嫌な気持ちにさせないで済む?
「ほ、ほんとになんでもないですから!」
必死の抵抗も虚しくベンチに座らされてしまった。
「はい、言ってください。
僕への不満とか愚痴とかでも全然良いですから。お願いします」
いや、そんなんじゃないんだって。本当にそんなんじゃないの。私が勝手に変なこと考えてるだけなのに。
「……」
「僕に言えないことならそれはそれで言わなくていいですけど、僕への不満とかなら今のうちに言ってください。早いうちに直したいです。」
そんなんじゃ、ないの。
私の利己的な、ただのわがままというか。
勝手に不安になってるというか。
「た、ただ単に!
私が勝手に不安になってるだけなんです。
わ、私は、恋愛経験とかほぼなくてお付き合いするのもこれが初めてなのに、それなのに、遼介さんはすごく慣れてて、なんか、女の子の扱いとかわかってる感じで。
相手が私でいいのかなとか、ほ、他の女の子にもこうやって優しくしてきたのかな、とか、
な、なんか、そういうことばっかり考えちゃって。
ご、ごめんなさい。
遼介さんは何も悪くないんです。私が勝手に1人でモヤモヤしてるだけ、なんです……。」
私がひとしきり喋り終えると、遼介さんははあ、とため息をついた。
え、嫌われちゃった……?
遼介さんは私の目を真っ直ぐ見て、ゆっくり口を開いた。
「何を見て僕が女の子の扱いに慣れてると思ったのかは知りませんが、僕が慣れてるのはりさちゃんの扱いだけです。
りさちゃん以外の女の子の扱いなんて知りませんし、知りたいとも思いませんよ。
りさちゃん以外の女の子とお付き合いしたことありませんしね。」
「え……?」
「りさちゃんが好きなもの、好きなこと、新しく発見するたびに知るたびに嬉しくって、覚えておいてりさちゃんのこと喜ばせたい、っていつも思ってるんです。
だから、りさちゃんの扱いがわかってるのは当然でしょう?
ふふ、でもそう思ってくれてるってことは僕はりさちゃんのことを喜ばせられてるってことでしょうか?
とても嬉しいですよ」
予想外の言葉の連続に、声が出ない。
え、嬉しすぎるんだけど?
これ、現実ですか?
パニック状態の私とは反対に、遼介さんはにこにこ笑って私の頭を撫でている。
え、えーーーーっ?
てか、私が初めての彼女ってこと?
し、知らなかった……。
「どうですか?
モヤモヤは消えましたか?」
「え、あ、はい!
おかげさまで消えました……」
照れくさくて、なんだか恥ずかしくて遼介さんと目を合わせられない。
「ではデートを続行してもいいですか?」
「は、はい!
あ、あと!あの!
私も、遼介さんの好きなものとか好きなこと、たくさん知りたいです!
いっぱい遼介さんのこと知って、遼介さんのこと喜ばせて笑顔が見たいです!
だから、遼介さんのこと、たくさん教えてください!」
私史上、1番頑張ったであろうセリフを精一杯言い切っておずおずと遼介さんの顔を見ると、初めて見る遼介さんの表情があった。
少し頬を赤らめてはにかんでいる。
あ、新しい発見だ。遼介さんの新しい表情を知れた。
「もちろんです。楽しみにしていますよ。」
きまぐれ短編集 けしごム @eat
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