リスト-2- ぱく・はむ・<バグ>

 やっと人間に出会えたものの、ボクは呆然とし公園でたたずんでいた


「・・・・・なんだろうこの感じ。そうだメル!」


 辺りを見渡しメルを探すと、彼女はもう水たまりには映っておらず木の影にもいなかったのだが


「ふふ~ん♪」


 メルはお皿を膝に置きベンチにちょこんと座っていた


「え」


 なぜ皿を…、そう思いながら見ているとメルはおもむろに懐からある物を取り出した


「じゃん♪」


「ええ!?」


 それは容器に入ったプリンだった、それも駄菓子屋で売ってるような小さいヤツじゃない、フルサイズのプリンだ。ボクが何でそんな物を持ち歩いているのかと疑問に思っていると、彼女はプリンの蓋を開け、皿を目の高さまで持ち上げ


「ふふん」


 皿の上で逆さにされ、容器に吸い付き重力に逆らいながらプルンプルンしているプリンの様子を見た後、容器の底をパチッと折りプリンを皿に落とした


「プル~ン」


「おお♪」


 揺れるプリンを見て、彼女は何故か勝ち誇ったような表情をして・・・・


「ん?」


 そのままメル固まってしまった。プリンの揺れに合わせ目だけが左右に動いている


「まさか・・・」


 まさかスプーンが無いのか?皿まで用意して!? これはもう、少し下品ではあるが容器ですくい取るしかないとメルに言おうとボクが一歩進むと


「シュッ!」


「ふぁ!?」


 メルはプリンを口で吸い取ってしまった。彼女は舌で口の周りをペロッと舐め上げて幸せそうな顔をしている


「そうか…、プリンって飲み物だったんだなぁ」


 メルの意外過ぎる一面を見て、ボクの思考が現実逃避をしていると


「グ~~~ゥ」


 ふいに腹の虫が鳴った。それを聞いてメルが話しかけてきた


「お腹空いたの?」


「え、あ、うん」


 ボクがそう返事をすると、メルは静かにこう答えた


「僕も・・・・」


 いやいや、アナタさっきチュルンとプリン食べてましたよね!? と思ったが、もしかしてボクに気を使ってくれてるのかと思い黙っておいた


「お、おう…、そうか・・・・」


「こっち」


「え、あ、ちょっと!」


 ボクはメルに引っ張られ、レストランの様な場所に連れ込まれてしまった


「ここにはよく来るの?」


「うん」


「そうかぁ」


 席に座り、軽くそんな会話し、テーブルのメニュー表を手に取った


「たのも」


「うん、そうだね」


 ボクはメニューのタブレットを指で操作し、見本の3D写真や料理の詳細を見ながら選んで行った


「決まった?」


「うん、パスタにしよう…、このトマトの・・・」


 何か違和感を感じながらも、メルに言われ取りあえずパスタと飲み物の注文ボタンを押し、注文完了のボタンを押すと”しばらくお持ちください”と表示される。待ってる間メルと雑談をしようと思ったのだが


「お待たせしました」


「早いな!?」


「恐れ入ります」


 数秒足らずで料理がもう運ばれて来てしまった。ボクの前にはトマトのパスタとレモネードが、そしてメルの前にはジャガイモのスープが置かれた


「・・・・」


 それを見てボクはやっぱり気を使ってくれたのかと、心を痛めたが、彼女が注文したのはそれだけでは無かった


「・・・・それはそうだよな」


 彼女にペペロンチーノとサラダが届けられそう思った矢先


「え・・・・」


 さらに彼女の前に丸焼きのチキンが届けられた、いや七面鳥かもしれない、少なくとも北京ダックでは無い事は確かだ。注文ミスだろうかとメルに確かめようとしたが


「あの、メルそれ…」


「僕のだからあげない、自分で頼んで」


 そう彼女にキッパリと言われてしまった


「いや…、聞いてみただけだから・・・ボクはいいよ、うん」


「食べよ」


「うん、いただきます」


 ボク達は食事を始めた。ボクがゆっくり食べている間にメルの料理はドンドン減っていく。そして食べ終わった頃に彼女はボクに聞いてきた


「もういいの?」


「うん、ボクはこれで十分だよ」


「足りなくない? ・・・熱量が」


「ホントに大丈夫だからッ、ハハハ…」


 なぜかメルの言葉に気迫の様な物を感じたが、ボクは負けず断った。正直もう限界なのだ、久しぶりの食事のせいか胃がキリキリと痛むし、喉にレモネードが染みるので頼んだ事を後悔しているぐらいだ


「ちょっと待ってね」


「へ?」


 彼女の元にデザートが届けられた、特大のプリンに大量のフルーツが盛られている


「凄い量だね」


「ふふん♪」


 にこやかにその揺れる怪物をしばらく見つめ、プリンの揺れが収まった途端


「ぱく」


 メルはプリンとフルーツを崩し始めた、モーゼが海を割るがごとくプリンは中心から消えていった


「ぱく、はむ、もぐ…」


 モーゼどころではなかった。二つに割られ揺れて荒れ狂うプリンの海に飲み込まれる綺麗にカットされ着飾られたフルーツ達は、さながら嵐の海に飲み込まれる難破船の様だ


「ごちそうさま」


 そして嵐は収まり、彼女の食事は終了した


「うん、ごちそうさま・・・」


 ボクは正直胸焼けがしそうだった。そして僕は有る事を思い出す


「あ!そういえば!」


 ボクは、お金を持っていない


「お帰りですか?」


「はい、お会計お願いします」


「では」


 メルは何の躊躇もなく店員に会計を頼んでしまった。ボクはどうしよう!?


「ピッ」


 店員はメルのチョーカーに機械を当て


「またのお越しをお持ちしております」


 そう言って去って行った。メルのチョーカー、お財布だったのね


「あのメル?ボクの代金は・・・」


「まとめて払ったけど?」


 ボクの質問に首をかしげながらそう言い放つメル


「少女に奢られてしまった・・・」

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