リスト-1- <異物・イブツ・遺物>

「うっ・・・」


 ボクは白く立ち込める霧の中で咳き込み、目の前の開いた扉の外へ出た


「うう…、ん?」


 霧は晴れたと言うのに目の焦点が合わず混乱していると


「痛っ!」


 不意に頭に頭に痛みが走った。そこで視界だけでなく身体の感覚もぼやけていた事に気付く


「うぅ…」


 だんだん身体の感覚が戻って来た、どうやらボクはフラフラ歩いていたらしい。ボクは足を止め、完全に感覚が戻るのを待った


「何所だろ、ここ?」


 感覚がハッキリすると、ボクは辺りを見渡すが知らない場所だった


「あ…」


 ガラスに映り込む自分の姿を見て、ボクは今ぴっちりとした下着姿である事に気付く


「何か着よう・・・」


 ボクは近くの建物に入り、部屋を探索して衣服を見つけた


「誰も居ないのかな・・・。お借りします」


 ボクは服を着て、運よくサイズの合う靴も見つけたのでそれを履いて外に出た


「この町・・・、人は居ないのか?」


 いくら歩いても人影は見えず、自分の感覚がまだおかしいのかと疑い出した頃


「ん?」


 ボクの頬を何かが濡らした。そしてそれが上から降ってきた事に気付く


「あ、雨だ」


 ボクは濡れないように、どこか雨宿りできる場所を探しながら走る


「あった!」


 大きな気が目に留まり、そこに向かう事にした


「ふう・・・」


 そこは公園の様な場所だった。遊具はさび付いていて原型を留めておらず、どうやって遊ぶ物だったか見当がつかない。錆びついた公園とは正反対で、公園の周りを囲むようにそびえ立つ綺麗なヒマワリはしっかりと太陽を向いていた


「空はこんなに晴れてるのに・・・、雨なんてついてないなあ。・・・・ふふ、人っ子一人居ない街に取り残されている時点で雨なんてどうでもいいレベルなんだけどさ」


 木の下で雨宿りをしながら、ボクは周りの状況について行けずにそう呟いた


「ねえ・・・」


「うわ!」


 いつの間にか隣に人が立っていた。歳は16歳・・・? いや、大人しい雰囲気だしもう少し年上かもしれない、18歳くらいだろうか?


「もしかして今の独り言聞いてた?」


 そう聞いたが彼女は黙っている、なんだか気恥ずかしい。隣でボクと同じく雨宿りする彼女はその濡れた綺麗な長い銀の髪の間から、透き通るような瞳でこちらを見つめて言った


「せまい・・・・」


「あ、ごめん」


 彼女に言われてボクは木の反対側に移動し、視線を落として下を見ると水たまりに反対側に居る彼女の姿が映っていた


「キミ、名前は?」


 水たまりに映った彼女を見ながらそう問いかけると、彼女も水たまりに映ったボクの姿に気付いたのか、水たまりごしにこちらを覗き込むと首をかしげながらこう言った


「僕の名前?」


「女の子が僕?」


「何か変?」


 少し驚いてしまったけれど、僕と言う一人称の女の子が居てもおかしくないよな。失礼だったな。そう思っていると彼女は名を名乗ってくれた


「メル…、メル・アイヴィー」


「そうか、ボクは―――――って言うんだ。よろしく」


「あなたもボクって言うじゃない」


「はは、ごめん」


 彼女に指摘され、笑ってごまかしながら頭をかいていたのだが、彼女は顎の下を指で押さえながら何か考えていた


「でも・・・・」


「でも?」


「呼びにくい…」


「そ、そうかな・・・、ハハ…は?」


 メルが呼びにくいと言ったボクの名前、ボク自身も聞き取れていなかった気がする


「ボクの名前・・・」


 もう一度名前を口に出してボクの名前を確認しようとしたたが、メルの声でさえぎられてしまった


「キミでいいや…」


「え?」


「キミの名前、呼びにくいからキミって呼ぶことにするね」


 そうまったく悪意のない静かな笑顔でメルはそう宣言した。いくら名前が呼びずらいからってキミは酷くないかな・・・


「だめ?」


「いや、キミでいいよキミで、うん」


 彼女の言葉にNOと言えずOKしてしまった。でも別にいいや、自己紹介も済んだ所だし、何か話題を振ろう


「この雨、何時まで降るんだろうねぇ・・・」


「時間だから…、もうすぐ止むと思う」


「そうなの?」


「そう」


「ただの通り雨か・・・」


「うん」


 メルは口数が少なく、どうも話が続かない。どうした物かと悩んでいると、そう言えば自分はそれどころではない事を思い出した


「そういえばさ、何でこの街には人が居ないのかな? 何か知っているなら話して欲しいんだけど」


「人?」


「そう、メル以外の人を見なくて」


「居るよ」


「え、どこに?」


「ほら」


 水たまりに映るメルは上を見上げたそう言った。ボクもつられて上を見上げると雨はもう止んでいた


「あ、もう雨あがってたんだ・・・」


 そう呟いて、ボクは視線を上から下ろすと


「あ・・・」


 今まで全く見当たらなかった人々が何事もなかった様に普通に歩いていた。雨が降るからと今までボクの目の届かない屋内に居たのだろうか・・・・?

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