Page111:レイとラショウ

 ヒノワのギルド【神牙シンガ】から来た操獣者そうじゅうしゃ三人を出迎えたレイ達。

 ひとまず港を後にして、レイ達はセイラムシティを軽く案内しながら、三人の操獣者とギルド本部に向かっていた。

 ヒノワとは街に作りが違うからか、三兄弟は物珍しそうに風景を見ている。


「ヒノワとはそんなに違うのか?」

「あぁ、ヒノワでは見ない建物ばかりだ。異国に来たという実感を得ているよ」


 レイの質問に、ラショウが答える。

 きっと自分達がヒノワに行っても同じ反応をしたのだろうと、レイは内心感じていた。


「あそこがギルドの女子寮。男子寮はもう少し離れたところにある」

「ふむ。滞在中我々が世話になる場所か」

「宿屋が埋まったからだっけ? でもラッキーだぞ。寮の飯は宿屋の飯より美味いらしいからな」

「それは良いことを聞いた。食事の美味さは、活力に関わるからな」


 街を見物しながら歩き続けるレイ達。

 そんな中、ラショウはある疑問口にした。


「この街は、まだ襲われていないのだな」

「建物が壊れてないからか?」

「そうだ。あのゲーティアの悪魔に襲撃されてはただでは済まない。この美しい街並みを見る限り、ここはまだゲーティアの襲撃を受けていないと見た」

「そうだな。大規模な襲撃は受けてない……だけど、侵入は許してしまった」

「侵入とは?」

「少し前の事だ。ゲーティアから魔僕呪を受け取っていた奴が暗殺された。いくつもの防護魔法をかけた地下牢に、痕跡一つ残さず侵入してな」

「セイラムほどの街が用意した魔法をすり抜けたのか……ゲーティア、やはり侮れんな」


 難しい顔を浮かべるレイとラショウ。

 その後ろでは女子組が楽しく談笑している。

 レイは密かに「お前らはもう少し緊張感を持ってくれ」とぼやいた。


「しかし、何処もやられる事は同じというわけか」

「てことは、ヒノワもか?」

「うむ。こちらも国の重鎮に化けたゲーティアが暗躍していた。狡猾な奴だったよ」

「その話が出るって事は、アンタ達兄妹は」

「あぁ。ゲーティアの悪魔と直接戦った。アレは厄介な敵だったよ」


 ラショウは静かにその時の事を語った。

 ヒノワの重鎮に化けた悪魔、名前はレラジェというらしい。

 その悪魔はヒノワとギルド【神牙】を内側から腐敗させて、戦力を削ごうと暗躍していたそうだ。

 しかし結果として、その企みはラショウ達兄妹の調査によって発覚してしまう。

 悪魔としての本性を表したレラジェは豹変。無差別破壊を始めた。

 ラショウ達兄妹を中心に手を取り合ったヒノワの操獣者達。

 彼らの活躍によって、悪魔レラジェは討たれたという。


「奴は全てを腐敗させる矢を使う悪魔だった。今でもヒノワには爪痕が残っているよ」

「腐敗の矢か……それは面倒な相手だな」

「そういう君達はどうなんだい? 我々の相手に選ばれたという事は」

「お察しの通り、俺達もゲーティアの悪魔と戦ったよ。んで二体倒した」

「ほう……数ではそちらが上か」

「出会った数も含めればもっと上かもな」


 レイはラショウにこれまでの戦いを語った。

 バミューダシティで戦った悪魔、ガミジン。

 サン=テグジュペリで戦った悪魔、ウァレフォル。

 キースを殺した悪魔、パイモン。

 ブライトン公国で出会った悪魔、ザガン。

 そして……あまりにも強力な悪魔、フルカス。

 今までの記憶をできる限りラショウに話したレイ。

 ラショウは静かに、だが確実に厳しい表情を浮かべていた。


「そうか……君達は、あの現場に居たのだな」

「手も足も出なかったよ。特にフルカスって奴は強すぎる」

「だがいずれ倒さねばならぬ相手か」


 レイは小さく頷く。

 その脳裏には、スレイプニルの弟であるグラニの姿も浮かんでいた。


「薄々感じてはいたが、やはり敵は我々想像を超えた先に存在するらしい」

「だけど倒さなきゃ、世界が危ない」

「そうだな。ようやく我々が出会った意味もわかってきた。我々は互いに強さの果てを見つけるために、今日出会ったのかもしれん」

「そうかもな。そうであって欲しい」

「そういえば、君の名前をまだ聞いていなかったな」


 ふと、ラショウに言われて気づくレイ。

 そういえばそうだと、レイは自己紹介をした。


「レイ・クロウリーだ。呼ぶ時はレイでいい」

「クロウリー? もしや君は、あのエドガー・クロウリーの」

「養子だよ。でも魂は受け継いだつもりだ」

「そうか……レイはかの高名な戦士の子息だったか」

「父さんの名前、ヒノワでも伝わってたんだな」

「当然だ。エドガー・クロウリーはヒノワでも危機的状況を解決してくれた御仁だからな。操獣者の間で知らぬ者はそうおらんよ」


 自分の知らない父の武勇伝を知って、レイは少しだけ誇らしい気持ちになる。

 実際の所、エドガー・クロウリーの活躍は多岐に渡り、レイ自身全て把握しているわけではないのだ。

 今となっては話す事もできない父の活躍。レイはそれを少しでも知っておきたいと感じていた。


「後でその話聞かせてくれよ……えっと」

「ラショウでかまわん。年も近いはずだ」

「じゃあラショウって呼ぶよ。ところでさラショウ、結構変わった魔武具まぶんぐ持ってるな」


 レイはラショウの腰に下がっている魔武具を指差して言う。


「うむ? 雲丸のことか?」

「剣型魔武具の一種だと思うけど……剣にしては細いし、曲線がある……セイラムでは見たことないタイプだな」

「これはヒノワ伝統のカタナ型魔武具だ」

「カタナ!? あのサムライやニンジャが使うっていう武器か」

「そうだ。見てみるか?」


 そう言うとラショウは鞘からカタナ型魔武具、雲丸を抜いてレイに渡した。

 レイはそれをまじまじと見る。


「これは……スゴいな。製造工程が複雑なのもあるけど、この刀身、ほとんどヒヒイロカネで出来ている」

「最高純度のヒヒイロカネを使った業物だ。並大抵の防御は意味を成さないよ」

「それを使いこなすのは、ラショウのニンジャとしての技術ってところか?」

「いかにも。レイは理解が早いな」

「魔武具整備士なんでね」


 整備士としての好奇心が止まらないが、一先ずレイは雲丸をラショウに返す。

 東の島国ヒノワ。そこには独自の進化を遂げた魔武具があった。


「そういうレイも変わった魔武具を持っているじゃないか」

「あぁこれか。見てみるか?」


 今度はレイがラショウにコンパスブラスターを手渡す。

 ラショウは興味深そうに、コンパスブラスターを観察した。


「複数のオリハルコンにヒヒイロカネ。この分割線は……まさか変形でもするのか?」

「世にも珍しい三段変形魔武具だ。勿論実戦で使える」

「驚いたな。変形する魔武具の話は聞いたことがあるが、大抵実戦には耐えられない代物ばかりだ。その壁を超えて、三段変形まで可能にするとは」

「俺の自信作だ」

「見事だ。流石はかの御仁の子息なだけはある」


 そうこうしている内に、レイ達はギルド本部のすぐ近くに到着していた。

 レイはラショウに話かける。


「すぐそこにあるデカい建物がウチにギルド本部。で、その奥にあるのが模擬戦場だ」

「なるほど。流石は世界最大の操獣者ギルド。並の設備ではないな」

「どうする? 船旅で疲れてるだろ。先に食堂で一休みしていくか?」

「ふっ、レイ冗談過ぎるぞ」


 ラショウはグリモリーダーを手に取り、レイに向ける。


「神牙の操獣者は、船旅程度では疲れん。早速一回目の模擬戦と行こうじゃないか」

「わーお。やる気満々だな」

「それは君達のリーダーもだろ?」


 そう言われてレイはフレイアの方を見る。

 フレイアは目を輝かせながら、今か今かと闘志を燃やしていた。


「バトルジャンキーめ。まぁ良いけどさ」

「では決まりだな。モモ、サクラ! 早速模擬戦を始めるが、良いな?」

「はい兄様がそう仰るなら」

「が、頑張ります!」


 モモとサクラも了承する。

 若干サクラが疲れている気もするが、レイは気のせいだと思った。


「う〜、ワクワクしてきたー! ニンジャだよニンジャ!」

「アクタガワ家の力、見せてあげるわ」


 モモがそう言うと、フレイアはさらにワクワクを加速させていった。

 どうやら本場のニンジャが気になるらしい。


「じゃあ行き先は本部じゃなくて、模擬戦場だな」


 レイはラショウ達を模擬戦場へと案内し始めた。

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